高野和明 02


グレイヴディッガー


2012/03/09

 高野和明さんのデビュー作『13階段』は、多くの乱歩賞受賞作の例に漏れず、死刑制度を背景にした社会色の強い作品だった。本作も、骨髄ドナー制度という社会的要素を持つが、エンターテイメントに徹している。『ジェノサイド』に感じた無限の想像力の片鱗が、本作から垣間見える。角川書店としては、この機に乗じて売りたいところだろう。

 かつては色々と悪事を働いた八神俊彦だが、骨髄ドナー登録をしたところ、ある患者と型が一致した。ところが、移植手術を目前にして、八神は連続猟奇殺人事件に巻き込まれ、容疑者として手配されてしまう。患者はすでに無菌室に入っており、八神がたどり着けなければ命に関わる。八神の決死の逃避行が始まった。

 主人公の八神は、いわば小悪党。顔は悪人顔だが、『13階段』の三上のように、刑務所に入ったことはない。そういう点では感情移入はしやすい。八神を追うのは警察だけではない。謎の集団。そして殺戮者・墓堀人(グレイヴディッガー)。

 中世ヨーロッパの魔女裁判を模した殺害方法。どうしてそんな凝ったことを…と突っ込みたい気もするが、「彼」が墓堀人だからということにしておこう。あまりにも短時間に重ねられる犯行。明かされてみれば、ああなるほどと納得した。

 警察側の人間模様も興味深い。刑事部出身で監察係の剣崎は、公安部出身の2人の部下の扱いに苦慮する。ベテラン刑事の古寺は、八神と浅からぬ縁があった。キャリア組の管理官・越智は、部下に任せる度量があるが、出世するタイプではないな。いつの間にか、捜査は公安部主導になる。刑事部ってこんなに立場が弱いのか?

 舞台が東京23区に限られるのに、八神の逃避行は何とスリリングなことか。船から飛び降り、電車から飛び降り、こんなところにまで上り、近づいたと思えば遠ざかる。先回りされる原因がちょっと間抜けだが…。このガッツを若いときに使っていればねえ。

 あまりに濃密な一夜を経て、八神の個人的使命感、墓堀人の個人的復讐、そして国家権力の暗闘が一つに繋がる力業はどうだ。謎の集団の目的はそういうことか。荒唐無稽で何が悪い。どうせ嘘をつくならでかい嘘をつけ。



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