辻村深月 01


冷たい校舎の時は止まる


2011/11/11

 第31回メフィスト賞受賞作にして、辻村深月さんのデビュー作である。初版は異例の3ヵ月連続刊行となり、文庫化の際に上下巻に再編されたが、各約600pと長い。とうとう手に取る気になったのは、先に『ロードムービー』を読んでいくつか疑問が残ったから。

 雪の降る朝、私立青南高校にいつも通り登校した8人。ところが、8人以外誰も見当たらない校舎に閉じ込められてしまった。午後5時53分で止まった時計。8人は2ヵ月前の学園祭最終日を思い出す。屋上から飛び降りた同級生の名は…。

 8人の高校生は、あるきっかけから、自殺したのはこの中の誰かではないかという疑念を抱く。根拠や反論を考える過程で、彼らの思考は過去に飛ぶ。本作に特定の主人公はいない。8人それぞれにスポットを当て、彼らの抱える事情や、過去の辛い体験が語られるのだが、中でもある女子生徒のエピソードは突出して凄まじい。

 詳しくは書かないが、いじめと言い切っていいだろう。彼女は自分に原因を求め、追い込み、拒食症にまで陥る。クラス委員でもある仲間たちは、何とか彼女を支えようと腐心してきた。この彼女だけではない。あの彼女だって痛々しい。

 ある彼は嫌でも苦い中学時代を思い出す。また、エリートにはエリートなりの鬱屈がある。それぞれ1つの作品にできそうなほど濃密なのに、贅沢にもすべてを取り入れてしまった。その結果がこの長さ。しかし、読んでみれば長さは気にならない。

 彼らは1人ずつマネキンにされていく。この世界の「ホスト」によって。次は誰だ。疑心暗鬼に陥る8人の描写は見事。どうしても思い出せない、自殺した同級生の顔、名前。マネキンにされる直前にようやく思い出すのだが…もちろん読者には明かされない。

 実は、自殺したのが誰かは予想通りだったが、その裏までは読めなかった。この世界がどうして作られたのか…。僕には難しかったが、若い読者には彼らの心理がわかるだろう。これだけ重厚な物語ながら、結末は爽やか。もちろんすべてを忘れ去ることはできない。彼らは一生背負っていく。それでも前向きに生きてほしい。

 高校生ではないある重要なキーパーソンについては触れずにおこう。メインの謎より、こっちの方に騙されたじゃないか。『ロードムービー』の疑問がこれで解消した。『ロードムービー』のようなスピンアウトがまだまだ書けそうなんですが、辻村さん。



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