辻村深月 06 | ||
名前探しの放課後 |
こりゃ困った作品だなあ。デビュー作『冷たい校舎の時は止まる』のテイストに近いが、その理由は主要な登場人物が高校生たちだからだけではない。と、書いた時点でもうネタばれな気もしないでもない。文句なく面白いのだが、ああ困った。
主人公の依田いつかが、友人の秀人と会っているとき感じた違和感。どうやら、3ヵ月前にタイムスリップしたらしい。こんな突拍子もない思いつきを、誰が信じてくれるのか。いつかは高校のクラスメートの坂崎あすなに相談することにした。
いつかにわかっているのは、3ヵ月後に誰かが自殺するということ。しかし、誰なのかが思い出せない。そこで、いつかが通う籐見高校の生徒を中心に、緊急プロジェクトチームが編成された。「誰か」を探し出し、自殺を食い止めるのだ。
一癖も二癖もあるメンバーたち。よく酔狂に付き合う気になったなあ。特に、リーダー格の天木。彼は、見返りとしていつかに生徒会長選挙を手伝えという。いけ好かないが、できる奴には違いない。メンバーには秀人やあすなも含まれていた。
いつかとあすなは、地元の不二芳市から江布市まで電車で約1時間かけて通学していた。僕も地元の高校に行かなかったので、何となく気持ちはわかる。地元が嫌いなわけではないが、しがらみから逃れたかった。接点のなかった2人には、共通点があった。
やがて、「誰か」の候補者(?)が見つかる。いじめられているらしい。教師に通報したところで、さらにエスカレートする恐れがある。学校に頼れるなら、日本でこんなにいじめによる自殺は発生しない。「彼」自身のプライドの高さも、問題を難しくしていた。いじめに遭っている事実を、受け入れられない。そこでメンバーは…。
流れ上、いつかは「彼」の師匠になるのだが、どちらかといえば軽薄だったいつかの真摯さに、印象が大きく変わるだろう。それはいつか自身が過去と対峙することでもあった。そして、元来負けず嫌いなあすなも、一歩踏み出すのだ。青春だねえ。
ん? もう解決したのかな? と思ったら、最後の最後にえええええぇぇぇぇぇ…という怒涛の展開が待ち受けていた。本作の青春小説というフォーマットに、まんまとやられた。本作は辻村深月にしか書けないミステリーと言えるだろう。とにかく読むべし。