辻村深月 11


V.T.R.


2012/07/10

 本作は、『スロウハイツの神様』に登場した人気作家、チヨダ・コーキのデビュー作という触れ込みである。架空の作家の作品を、辻村深月さんが実際に書き上げた。

 辻村さんの長編作品としては最短の本作だが、辻村作品だと思って過大な期待をすべきではない。『スロウハイツの神様』を読んだ読者向けのファンサービスと考えるべきである。辻村ワールドの熱心なファンかどうかでも受け止め方が異なるだろう。

 チヨダブランドとして絶大な人気を誇るチヨダ・コーキの作品は、いわゆるライトノベルに属すると思われる。熱心なファンだった中高生も、やがて卒業していく。現在ではライトノベルは一ジャンルとして認知され、マイナスイメージも変わりつつあるが、揶揄する向きがまったくないとは言えない。そもそも、辻村さんの作風はライトノベルからほど遠い。

 「作中作」である点はさて置き、世紀末的・近未来的な世界設定といい、登場人物といい、どこかで読んだような作品と言わざるを得ない。最後にサプライズが用意されているものの、著者名を知らずに読めば特に印象に残らないだろうし、色々な意味で拙い。

 本作はあくまでチヨダ・コーキのデビュー作なのだから、拙いのは当然といえば当然か。『スロウハイツの神様』を読む限り、彼は最初から売れたわけではないようなので、あちらの世界では幻のデビュー作扱いになっているのかもしれない。

 とはいえ、やっぱりチヨダ・コーキってこんなもん? と言いたくなる。僕の個人的意見だが、チヨダ・コーキは架空の作家のままにしておいた方がよかった。両面カバー仕様だったり、ちゃんとチヨダ・コーキ名で奥付があったり、装丁は凝っているのだが…。

 設定も曖昧なら終わり方も中途半端だが、チヨダ・コーキはこの作品の続編を書いたのか、それともこれはこれで終わりなのかが気になる。チヨダ・コーキの成長に思いを馳せるのが正しい読み方なのか。



辻村深月著作リストに戻る