和田 竜 02


忍びの国


2011/07/26

 いきなりだが、「忍び」の本質とは何ぞや? 忍法か? いや、違う。

 本作は、デビュー作『のぼうの城』が大ヒットした和田竜さんの第2作である。映画化された『のぼうの城』ほど話題になっていないようだが、個人的には本作の方が圧倒的に面白い。読み終えた読者は、忍びに対する認識を一変させられるだろう。

 忍びに人の心は無用。親兄弟の情もなければ忠義もない。信長さえも恐れさせたという群雄割拠の伊賀国で、殺し合いなど日常茶飯事。下人たちの価値観は実にわかりやすい。銭である。そんな殺伐とした忍びの社会が、むしろ魅力的でさえある。

 だが、そんな伊賀国にも「常識人」がいた。伊賀の血に嫌気がさした下山平兵衛は、伊勢国に居を構える信長の次男、信雄(のぶかつ)への謁見を願い、訴える。人でなしの伊賀者を根絶やしにしてほしいと。だが、その裏には陰謀が隠されていた…。

 やがて信雄の軍勢は伊賀国に攻め入る。忍法活劇らしい、血わき肉踊る戦闘シーンももちろん読みどころの一つだが、互いに腹を探り合い、裏をかき裏をかかれる知略の応酬こそ本作の最大の読みどころ。忍びの本質、それは欺くこと。忍法はそのための手段に過ぎない。人を出し抜くことに至上の喜びを感じる者たち、それが忍びなのだ。

 キャラが立った登場人物も大きな魅力だ。信雄側の二大武将、長野左京亮(さきょうのすけ)と日置大膳(へきたいぜん)。これが乱世と割り切る左京亮に対し、信念を貫く武人・大膳。二人が見下す、伊賀国出身の柘植三郎左衛門。だが、三郎左衛門だからこそ平兵衛の気持ちがわかる。そして、大きすぎる父に虚仮にされる気の毒な信雄…。

 主役は最強の忍び・無門。そのやり口は残酷で容赦がないが、不思議とからっとした印象を受ける。そんな無門にも、ただ一つ泣きどころがあった。土遁の術を使う老忍び・木猿も忘れられない。彼らに人の心はなくとも、忍びとしての心意気は感じる。

 たっぷり堪能させていただきました。それにしても、あの人物のルーツが伊賀国にあったのは納得である。彼を主人公にした作品を書く予定はないのだろうか。



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