若竹七海 07 | ||
製造迷夢 |
連作短編集を面白くする条件を考えてみる。第一に、共通するキャラクターが魅力的であるか。第二に、各編が一つの流れで繋がっているか。第二の条件は必須ではないかもしれないが、やはり繋がっている方が読者への訴求力が強いと思うのだ。
若竹七海さんは確実に連作短編集の名手だ。今回登場するのは、渋谷猿楽町署の刑事一条風太と、リーディング能力者の井伏美潮。美潮は、ある物に触れた人物がその時何を考えていたか、その残留思念を読むのだという。そういえば、倉知淳さんの『過ぎ行く風はみどり色』にはまさに残留思念を研究をしている人物がいたなあ。
ある事件がきっかけで、一条は美潮を訪ねる。刑事という職業柄、美潮の能力を簡単に受け入れられない。しかし、捜査に行き詰るとつい美潮の顔が浮かんでしまう。ジレンマに陥る一条。その背景には、美潮を憎からず思う気持ちがあるのだった。
文庫版解説でも述べているが、美潮が読み取れるのはあくまでヒントに過ぎないのがポイント。美潮の能力に頼ることを自戒しつつ、主導権は一条が握る。これは辛い真実を知らせたくない一条の優しさなのだと思う。実際、自らの能力により人間の暗部を目の当たりにする美潮は深く傷ついてしまう。それでも読むことをやめようとはしない。
本作には、歪んだ支配欲を持つ人間たちが多く登場する。そうした人間たちを前にして、時に警察は無力だ。最後の作品「寵愛」は、タイトルからして皮肉に過ぎると同時にあまりにも相応しいではないか。美潮が決して好奇心から能力を行使しているわけではないことがわかるだろう。放っておけないのだ。似た過去を持つ彼女を。
美潮の能力は、知りたくないことを知ってしまうことでもある。そういう点では宮部みゆきさんが描く悩める超能力者に通じるものがあるが、苦悩をおくびにも出さない美潮は強いと思う。そんな美潮を受け止められるのは一条しかいないですよね、西村先輩?
人間の悪意を包み隠さず描く若竹さんの作品には、「ほろ苦い」と言うにはあまりにもヘビーな結末が多い。本作もまた然り。それでも読後感は不思議と悪くないのだから、稀有な作家と言うしかない。その理由の一端が、わかったような気がする。