若竹七海 08 | ||
プレゼント |
ハードボイルド女探偵・葉村晶の初登場作品集である。しかし、全編が葉村シリーズではない。葉村編と小林警部補編が交互に収録され、最後の一編で葉村と小林警部補が同時に登場するという構成である。小林警部補は、どこかとぼけた味のある人物だが…。
この後、葉村シリーズのみでまとめた『依頼人は死んだ』が刊行されたのは、おそらく人気の問題ではないだろうか。葉村編4編と比較して、小林警部補編3編の出来が決して劣るわけではないのだが…主人公の魅力では完敗である。最後に二人が共演する必然性も見出せない。主人公は葉村で、小林警部補は脇役でしかないのだから。
「家政婦は見た」ならぬルーム・クリーナー葉村は見た、「海の底」。ホテルの部屋から姿を消した新人作家。その真相とは。打ち砕かれたささやかな夢。最後の一文があまりにも意味深なんですが…。電話相談係(?)葉村は聞いた、「ロバの穴」。このご時世にはさぞや繁盛しそうだが…その裏の商売とは。これほどまでに悪意に満ちた犯罪があるか。
「あんたのせいよ」なんて言うけれど、葉村に依頼する方が悪いのだ。世の中には、自分の失敗を他人に転嫁するのがあたりまえと思っている人種がいる。さもありなん。葉村がクールに燃える「再生」。彼女を突き動かしているのは正義か義憤か。真実を知りたい探究心か。何度もこの手にはやられているのに、実にうまい。
一方、小林警部補編。念には念をいれたはずが…「冬物語」。小林警部補の最後の台詞がばっちり決まっている。うーむ、何と手の込んだ「殺人工作」だろうか。これはもう主人公は犯人だな。とんだ「プレゼント」だった表題作。二転三転させすぎな気がするのはともかく、捜査のやり方としてこんなのありですかい、小林警部補殿?
そして、葉村の家族の事情が明かされる「トラブル・メイカー」。金のために何でもする人間がいれば、葉村のように好奇心から深入りする人間がいる。雪の山道に放置された被害者との接点は…。よく助かったものだが、なんて嫌な決め台詞なんだ小林さん。
古畑任三郎を彷彿とさせると思えないこともない小林警部補に、敗者復活戦の機会はないのでしょうか、若竹さん。