若竹七海 13


ヴィラ・マグノリアの殺人


2006/10/24

 本作に登場する駒持という警部補の名前に見覚えがあると思ったら、それもそのはず、最新刊『猫島ハウスの騒動』に登場していたのだった。同時に、本作は神奈川県葉崎市という架空の都市を舞台としたシリーズの第1作に当たることも知った。

 海を臨むヴィラ・マグノリア。その空き家になった一棟に、不動産会社の夫人が客を案内すると、そこには死体が転がっていた。しかも、顔を潰されて…。

 「コージー」と称するにはヘビーなオープニング。舞台はほぼ全10棟のヴィラ・マグノリアに限定され、せいぜい住人たちの職場に捜査関係者が出向くくらいである。自ずと容疑者は限定されるはずが、捜査はもつれにもつれ、第二の殺人が発生してしまう。

 なぜ捜査に手間取ったかというと、ヴィラの住人がよくぞ揃えましたというほどアクが強い人物ばかり。聞き込みに日参するものの、一筋縄にはいかない相手ばかりなのである。駒持警部補でなくても言いたくなるだろう、「最初から言わんかい!」と。それに対して、「聞かれなかったから言わなかった」としれっとして居直るのだから。

 新たな事実が後から後から明らかになるという展開に、ミステリーの構成としてはいかがなものかと思わないでもない。住人たちの素顔や過去も徐々に明らかになっていくという趣向なのだが、個性がありすぎる住人たちの会話や、捜査陣との駆け引きに楽しさを見出せるかどうかで、本作に対する評価は変わってくるだろう。

 僕なりの理解では、単にユーモラスではなく、いかに「毒」の部分とバランスをとるかが「コージー」の真髄だと思う。そういう点で、『猫島ハウスの騒動』は傑作だった。本作はやや毒が強すぎて、笑うに笑えなかったかな。それでも後味が悪くないのは若竹さんらしい。

 個々の登場人物には敢えて触れないでおきたい。このシリーズにスピード感はないが、密度は濃いでっせ。本作の後、葉崎シリーズは『古書店アゼリアの死体』『猫島ハウスの騒動』と続く。とりあえず『古書店アゼリアの死体』を読もう。



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