若竹七海 20

死んでも治らない

大道寺圭の事件簿

2006/07/13

 昨年12月、『心のなかの冷たい何か』の文庫化を記念し、吉祥寺のミステリ専門書店「TRICK+TRAP」で若竹七海さんのサイン会が行われた。ふざけたことに、申し込んだ時点で一作も読んでいなかった…。この体たらくで、新刊について聞けるわけがない。

 約4年半ぶりの新刊が出るという情報を知り、現時点の最新刊を手に取ることにしたのだった。裏表紙によれば、「コージー・ハードボイルドの逸品」だそうだが…若竹作品だけに、「コージー(cozy)」と称するにはブラックであることは言うまでもない。

 主人公の大道寺圭は元警察官。警察時代に出会った、まぬけな犯罪者のエピソードを集めた『死んでも治らない』を出したばっかりに、さらなるまぬけな犯罪者を引き寄せ、珍事件に巻き込まれてしまう。各編の間に、大道寺の警察官として最後の事件が挿入されるという構成である。というより、最後の事件に各編が挿入されていると言うべきか。

 詳しくは書けないが、「元」警察官の大道寺が遭遇する事件の数々は、警察官として最後の事件と密接に関わっているのである。読み進んでいくと、それが徐々に明らかになるという趣向である。構成のうまさは相変わらずだが、本作は各編のラストの切れ味に特に注目したい。基本的に三枚目キャラの大道寺だけに、苦笑せずにはいられない。

 最初の表題作「死んでも治らない」がいきなり傑作。恐怖の逃避行の結末とは。最後の方に配置するべきだった気がする。某作をもじったようなタイトルの「猿には向かない職業」。正攻法じゃないって? だって「元」警察官ですから。自分を大物と勘違いした男の末路、「殺しても死なない」。大道寺に関わるのは「まぬけな犯罪者」と決まっている。

 死んだ作家の仕事を引き継ぐことになった「転落と崩壊」。日本という国では洒落にならないぞこの結末。ネタにされちゃった「泥棒の逆恨み」。恐怖のシチュエーションがなぜかコミカルに感じられる。各編と最後の事件との関わりは、読んで確かめてください。

 待望の最新刊『猫島ハウスの騒動』の刊行記念サイン会は、8月5日(土)16時より、前回と同じ「TRICK+TRAP」にて開催予定である。今度は少しは胸を張って参加できるかな。



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