若竹七海 24


みんなのふこう


2010/11/30

 若竹七海さんの約2年ぶりの新刊は、またしても葉崎シリーズである。前作『プラスマイナスゼロ』以上にドタバタコメディに徹している。

 ローカルラジオ局の葉崎FMで、毎週土曜夜に放送される人気コーナーがある。リスナーから不幸自慢を募るという「みんなの不幸」。そこに届いた一通の投書に綴られていた、17歳のココロちゃんのあまりの不幸ぶりは、大きな反響を呼ぶのだった…。

 月1回ペースで、ココロちゃんの友人でラジオネーム「ココロちゃんのペンペン草」から、ココロちゃんの新作(?)不幸話が送られてくる。『人志松本のすべらない話』が足元にも及ばないほど、ネタとして美味しすぎる不幸の数々。そして、その後にニュースを読むと、たった今よんだばかりのココロちゃんの話が絡んでいるらしく…。

 という固定フォーマットが序盤は続く。吉本新喜劇のようなドリフのような水戸黄門のような…どこかでも書いたな…お約束の繰り返し。じゃあ展開が読めるのかといえば、ココロちゃんの不幸は予測のはるか上を行く。それでも明るいココロちゃん。

 これが延々と繰り返されるのかと思ったら、途中でフォーマットが崩れてくる。ペンペン草ちゃんとココロちゃんのすれ違いにより、新たな不幸話が届かなくなる。しかし、ココロちゃんは相変わらずの不幸ぶりを発揮していたのだった。そして…。

 前作同様、読み物としてはかなり軽いが、本作は軽さを狙っているのだろう。その点は潔い。ただ、個人的には、固定フォーマットを貫き通した方がよかったのではと思った。中途半端に事態が複雑化しているんだよなあ。しかもああいう方向に…。謎の要素が入ってしまうのは、ミステリー作家の性なのかもしれないが。

 日常に色々と転がっている、小さな不幸の数々。本作を読めば、ココロちゃんのあまりの不幸ぶりと前向きさに、それらはきっと笑い流せるだろう。いっそのこと、ポプラ社から文庫化された『プラスマイナスゼロ』と同時に、最初から文庫で出せばよかったのに。



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