若竹七海 23


プラスマイナスゼロ


2008/12/21

 若竹七海さんの新刊は、ジャイブという耳慣れない出版社から刊行された。ジャイブはコミック、ゲーム、アニメなどキャラクターコンテンツを柱にした出版社とのことだが、文芸書も手がけている。本作は『ヴィラ・マグノリアの殺人』『古書店アゼリアの死体』『猫島ハウスの騒動』と続く葉崎市シリーズの最新刊でもある。確かにキャラクターのアクは強いが。

 成績優秀品行方正、不運に愛でられしお嬢様、テンコ。成績最低品行下劣、腕っ節が強い不良娘、ユーリ。どこをとっても平均的な、歩く全国平均値こと、ミサキ。タイトルの『プラスマイナスゼロ』とは、葉崎山高校に通う凸凹女子高生トリオの通称である。

 ミステリーの部分には期待しない方がいい。ドタバタコメディとして読むべき作品だろう。初夏。最初の「そして、彼女は言った」から幽霊に悩まされるという話であるから、合理性も何もあったものではない。その挙句にこのオチ。成仏してくださいませ。

 夏。一押しは「青ひげのクリームソーダ」。この結末こそ若竹流。しかし、何て冷静なんだ。秋。「悪い予感はよく当たる」は、葉崎山高校収穫祭の熱気が伝わってくる。本作中最も謎に重点を置いているが、謎より雰囲気を楽しみたいと言っては失礼か。

 冬。クリスマスに子供に聞かせたい(嘘)「クリスマスの幽霊」。幽霊は出てきません。春。このパフォーマンスで卒業生は晴れやかに旅立てるのか「たぶん、天使は負けない」。この馬鹿馬鹿しさはまさにゲージツだぜ。でもそのマジック、観たくはないかも。

 一年前の春。最後の「なれそめは雲の上」は、このトリオがつるむきっかけを描いている。ミサキは同級生にいいように利用される生徒だったが、そんなミサキが爆発して自分を出すシーンが印象深い。持つべきものは友だよね。これで終わらせるのは惜しい。

 若竹さんらしい毒をまき散らした、ドリフのコントを彷彿とさせる全6編。半分の3編はジャイブの『ピュアフル・アンソロジー』に収録された作品だが、どこがピュアフルなんだよっ! とはいえ、やはり読み応えは軽量級である。ケータイ小説世代向けかな。目の肥えた読者に読ませるにはちょっと苦しいか。若竹ファンには楽しめるとは思う。



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