山口雅也 04


キッド・ピストルズの妄想


2000/08/22

 本作は、シリーズ最高作との呼び声が高い。僕もその点に異論はない。しかし、やや難解であるのは否めないか。

 今回も、「パラレル英国」を舞台にパンク刑事のキッド・ピストルズが三つの事件に挑む。今回のキッドの役どころは、探偵というよりは心理分析官である。キッドは作中で、次のように述べている。

「…人はわけのわからない事件に出会うと、みな、狂人のやったことでしょう、で済ませてしまう。おいらが知りたいのはその先だ。狂気には狂気なりの筋の通った論理があるはずだ。」

 それぞれの事件で、それぞれの妄想に憑かれた者たち。「神なき塔」における反重力という妄想。「ノアの最後の航海」における大洪水という妄想。「永劫の庭」における美学という妄想。キッドは、狂っているなどと突き放しはしない。キッドが見出す、妄想の中の論理性が本作の読みどころである。

 キッドの頭脳の前には、そこらの有識者連中など足元にも及ばない。いかにも名探偵でございというキャラクターに語らせたら、ただ嫌味にしか聞こえないに違いない。パンク刑事のキッドが語ると、なぜか薄っぺらではなく説得力があるように思えるから不思議である。キッドだからこそ、共鳴するものを感じ取ったのかもしれない。

 不可解な事件には事欠かない昨今である。真犯人なりに筋が通った論理というものがあるのなら、キッドに解明してほしいものだ。それを僕が理解できるかどうかは別として。

 本作は、できれば二度読んでほしい。一度目はとにかく難解という印象しか持たなかった僕だが、二度目は大いに楽しんで読めた。京極さんのファンなら、この面白さがわかってもらえると思うんだけどな。



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