山口雅也 06


日本殺人事件


2000/05/14

 山口さんのひねりが炸裂して、僕のツボにぴたりとはまった作品である。これは文句なしに面白い。本当の話。

 本作は、"Samuel X"なる人物の著書、"The Japan Marder Case"を山口さんが翻訳して出版したという設定になっている。まあ、それは冗談として、本作の舞台設定には思わず目が点になった。

 舞台となるのは、日本の三浦半島にあるというカンノン・シティ。日本人の母さんを慕い、憧れの日本にやってきた私立探偵のトウキョー・サム。そこは、今なお刀を携えたサムライが生き、茶道の家元がスターとしてもてはやされ、吉原のような遊郭が栄える摩訶不思議な世界なのだった…。しかし、時代はあくまで「現代」。

 と、設定だけに目を向けるとふざけるんじゃないと思うかもしれない。しかし、決してただのおふざけではないことは、本作が日本推理作家協会賞を受賞したことが証明している。本作は、紛れもない本格ミステリーなのである。ジャパネスクな香りに満ちた3つの難事件に、トウキョー・サムが挑む。

 3つの事件は、いずれもこの型破りな舞台でこそ成立し得るものだ。これぞ山口流本格ミステリーの真骨頂である。中でも傑作は、第三話「不思議の国のアリンス」。なお、一文字少ないあの作品とは何の関係もない。

 本格としての面白さはもちろんだが、主人公のトウキョー・サム(日本では東京茶夢と名乗っている)が、どこかずれていて何とも憎めない奴である。取り巻く人々も魅力的だ。また、本作はあくまで翻訳という設定なので、原文でローマ字表記されている言葉をわざわざ「サムライ(侍)」といった具合に表記しているのはご愛嬌というものだろう。

 まあ、僕の駄文を読むより文庫版の宮部みゆきさんの解説を読んだ方が、よっぽどためになるかな。もちろん、本文も読んでね。



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