山白朝子 02 | ||
エムブリヲ奇譚 |
山白朝子名義の第1作『死者のための音楽』は、多様なテイストを持つ怪談集だった。本作は、紀行作家の和泉蝋庵と、旅に同行する耳彦の体験を集めた連作短編集になっている。時代設定が江戸時代らしい点も興味深い。
耳彦曰く、蝋庵はすさまじい迷い癖の持ち主。予定通りに目的地に着いた試しがない。一方、耳彦は博打癖の持ち主。何度も酷い目に遭わされたが、蝋庵に博打の借金を肩代わりしてもらったこともあり、旅のお供をやめるにやめられない。そして毎回予定外の地で宿泊を余儀なくされ、2人が不思議な体験をするのがお約束。
…なのだが、最初の2編がいきなり変則的である。「エムブリヲ奇譚」。どうして拾おうと思ったのだろう…。医学的に云々という突っ込みは野暮なんだろう。「ラピスラズリ幻想」。ネタばれしない程度に言うと、終わりなき旅ですか。
「湯煙事変」。決して夜に行ってはいけないという温泉。しかし、耳彦に行かせる鬼のような蝋庵…。その結果は。「〆」。何だこのタイトル??? そういう意味ですか…。耳彦の行為は、責められる謂れはない。人は罪深いのだ。
「あるはずのない橋」。しかし耳彦は渡ってしまう。蝋庵の迷い癖より耳彦の無鉄砲さの方がすごい気が…。ほら言わんこっちゃない。「顔無し峠」。タイトルから想像するような怖い話ではなく、そういう点では意外性のある1編。
「地獄」。文字通り地獄。黒乙一全開な恐怖の1編。というか、ちょっと待て蝋庵!!!!! さすがの耳彦でも限界だ…。「櫛を拾ってはならぬ」。耳彦が辞退(?)したため、代役を立てて旅に出た蝋庵。わざわざ耳彦に聞かせる蝋庵はいい性格しているな…。
「「さあ、行こう」と少年が言った」は、これまた変則的な内容。彼女の境遇があんまりだが、最後を飾るには相応しい1編。これでこのシリーズは完結なんだろうか。完結なんだろうねえ。蝋庵に付き合えるパートナーが見つからない限りは…。