柳 広司 19 | ||
怪談 |
そのものずばりなタイトルは自信の表れだろう。本作は、小泉八雲ことラフカディオ・ハーンの『怪談』に基づき、柳広司さんが現代の物語として描き直した短編集である。
「雪おんな」。現在は家業の工務店を継いでいるが、かつては遊び回っていた男。業界のパーティーで出会った由紀子に、なぜか惹かれる。特に目立たない彼女に、彼は会ったことがある…。ありがちな展開とも言えるが、この続きが気になる。
「ろくろ首」。専門知識を悪用し、犯罪の隠蔽を図る医師。完全犯罪のはずだった。一体どこでミスをしたのか? 一言で述べれば執念なのだろう。ミステリーとしての完成度も高いが、本作中元ネタのアレンジに最も感心した、一押しの1編。
「むじな」。連日のタクシー帰りで、いつものように自宅までの近道を通ると、そこには…。下手に親切心など起こすもんじゃないってことですか。これまたありがちな手のようだが、実は元ネタの構成に最も忠実であることに、読み終えて気づかされる。
「食人鬼」。某有名作家の某作品集に収録の某編を思い出さないわけにはいかないが、もちろん明かせません。タイトル通りの話です。それ以上書けません。というか、タイトル以外元ネタに関係ないような気がするが。お、おえっぷ…。
「鏡と鐘」。具体的には書かないが、連日の嫌がらせにうんざりしていた初老の女性。探偵を雇って真相を調べさせると…。またまたありがちなずるい手だが、構成力に脱帽。どちらかというとサイコサスペンス寄りだが、オチだけはいまいちか。
「耳なし芳一」ということは…えっ、ええっ、み、耳を取られちゃうの??? と思ったがそんなことはないのでご安心を(?)。こんなシチュエーションを思いつく発想力に脱帽。本作中唯一、怪談らしく謎がぼかされるが、そこがまた効果的。
元ネタは有名なものが多いので、特に予備知識は必要ないだろう。大ヒットした『ジョーカー・ゲーム』シリーズのように、柳広司作品としてはとっつき易い。とはいえ決して軽い作りではなく、ミステリーファンに普通にお薦めしたい作品集だ。