柳 広司 20 | ||
パラダイス・ロスト |
好評の『ジョーカー・ゲーム』シリーズ第3作が到着した。第2作『ダブル・ジョーカー』は未読だが、やっていることは第1作から変わっていない。
それなのに、常に新鮮な驚きを感じられるのはなぜか。彼らの任務が多岐にわたること。そして遂行の手段は彼らの裁量に任されていること。そう、1つとして同じ任務はないし、同じ手法もないのである。スパイの世界には無限の可能性があるのだ。
「誤算」。任務が計画通りに進むとは限らない。予期せぬトラブルにも瞬時に対応することが求められる。任務中に記憶を失ったらしいスパイ。だが、この程度の誤算は、彼らにとって誤算のうちに入らないのではないか。しかし、本当の誤算は…。
「失楽園」。英国統治下のシンガポールにある高級ホテル、ラッフルズ・ホテルで発見された死体。彼はある噂について口論していたという。黄色い日本人にスパイなど務まるものか。その結果、シンガポールは…。歴史の影に、D機関が暗躍していたとは。
「追跡」。D機関の精鋭たちすら知らないという結城中佐の経歴。ある英国人記者が、果敢にも正体を追い始めたのだが…。もちろん、相手は一枚も二枚も上だった。結城中佐の正体は、著者の柳広司さんご自身、把握していないのではないか。
珍しく前篇・後篇に分かれた「暗号名ケルベロス」。サンフランシスコを出航し、ハワイ経由で日本を目指していた豪華客船《朱鷺丸》。ところが、ヨーロッパの戦乱とは無縁な太平洋上で、英国艦から停船を求められた。その理由とは…。
タイトル通り、戦時下の暗号戦が背景にある。当時、ドイツ軍が開発したエニグマ暗号は、解読不可能。暗号技術の発展に翻弄された者たち。D機関の精鋭には愚かにしか映らないだろう。しかし、任務を果たした彼の選択は意外だった。
このシリーズの時代設定は、日本が本格的に第二次大戦に参戦する前。シリーズ3作目になり、戦乱の足音が近づいていることを示す描写が目につく。D機関はあくまで帝国陸軍の指揮下にある。ただでさえ鼻つまみ者のD機関は、この先どうなるのか。