横山秀夫 02


動機


2000/12/30

 年末恒例の『このミステリーがすごい!』が今年も発表された。20位内にランクインしている作品のうち、僕が読んだのは宮部みゆきさんの『あやし 〜怪〜』(第14位)のみであった。これじゃあいかん、などと思ったわけではないが、とりあえず以前から気になっていた本作『動機』(第2位)を手に取った。

 表題作であり、日本推理作家協会賞短編部門を受賞した「動機」。30冊もの警察手帳が盗まれるという物語だが、思い切ったタイトルである。動機が不可解な事件ばかりのこの世の中。しかし、読者はミステリーには明確な動機を求めるのだから勝手なものだ。なるほど、このタイトルは伊達じゃない。派手さは要らない。動機こそすべて。

 唯一書き下ろしで収録された「逆転の夏」。女子高生殺害の大罪を犯し、すべてを失った男。仮出所して働いていた彼に、殺人依頼が舞い込んだ。殺人の前科を持つ者の苦悩を描いている点が注目される。彼の苦悩は、すべて身から出た錆。それなのに、強く惹きつけられるのはなぜだろう? 個人的には、「動機」よりもこちらを推したい。

 地方紙の女性記者が主人公の、「ネタ元」。うーん、何だかなあ…。これじゃ彼女を応援する気にはなれないぞ。自分自身がネタになってしまうんじゃないか? 僕には新聞記者は務まらないだろうとだけ言っておくか。

 最後を飾る「密室の人」。と言っても密室殺人が起きるわけではない。主人公はお堅い職業の横綱とも言える裁判官。読んでみると、タイトルの深さがよくわかる。欧米と比較して堅く閉ざされ、冷たい箱とでも言うべき日本の法廷の現状。元新聞記者ならではの皮肉だろうか。裁判官である以前に、彼は市井の人であるべきだった。

 来年には横山さんの初の長編が予定されている。来年の楽しみが一つ増えた。



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