横山秀夫 04



FACE

2002/11/05

 早くも登場した横山秀夫さんの新刊は連作短編集である。未読の方に最初に断っておかなければならないことがある。

 主人公であるD県警所属の平野瑞穂巡査は、本作が初登場ではない。『陰の季節』に収録の「黒い線」が初登場作品である。作中、平野巡査は心に傷を負い、休職を余儀なくされる。本作は彼女の復帰後という前提で書かれているため、同時に「黒い線」のネタばれになっている。「黒い線」を先に読んでおくことをお薦めしたい。

 本作は短編集だが、全編を通じた平野巡査の葛藤の物語であり、成長の物語であり、再生の物語だ。乃南アサさんが描く音道貴子巡査の物語とは違った魅力がある。

 音道巡査がひたすら職務に邁進するのに対し、平野巡査は疑問を抱き、迷う。平野巡査が素朴な疑問、言い換えれば民間人の視点を捨てられずにいる点が、読者に訴えてくるように思う。もちろん、置かれた立場が違うので一概には言えないし、音道巡査が長いものに巻かれているというわけでもないが。

 「魔女狩り」における、特ダネ合戦の舞台裏。「決別の春」における、放火事件の真実。「疑惑の〇〇〇〇」(タイトル自体がネタばれです…)における、繰り返される苦い経験。「共犯者」における、警察を恨むに足る理由。「心の銃口」における、銃を手にするということの意味とその重さ。

 組織の目には、平野巡査は警察の職務範囲を越えて入れ込みすぎ、立ち入りすぎと映るのかもしれない。警察に限らず、組織に必要悪は付きもの。だが、平野巡査は疑問を疑問として受け止める。それは青臭さではない。優しさ、そして本当の強さ。

 男社会での孤軍奮闘、などという陳腐な表現は本作には相応しくない。横山流警察小説としては珍しい、個人の魅力を前面に出した好編揃いの作品集である。



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