横山秀夫 05 | ||
深追い |
『半落ち』が見事「このミス」「文春ベスト10」同時第一位に輝いた横山秀夫さんの、何と今年3冊目の新刊である。
今回の舞台は所轄署である。地方都市の三ツ鐘署管内で起きる、事件の数々。県警との関係を織り交ぜつつ、所轄署ならではのネタの選択は相変わらずうまい。
表題作「深追い」。警察官が恋に悩むの図。狭い社会に噂は筒抜けだが、それがどうした。謎については無理があるようなないような気がするが、彼の本気はひしひしと伝わってくる。明るい結末ではないが、言い得て妙なタイトルに苦笑した。
「又聞き」。過去を背負い続ける若き警察官。職務で培われた眼力が導いた、あの日の真実とは。一層増す過去の重み。彼は生涯背負っていくのだ。「引継ぎ」。営業マンが売上げで判断されるなら、刑事は検挙数で判断される。大手柄を狙う男たちの欲望のぶつかり合い。それなのに、結末にふと微笑みたくなる。
「訳あり」。現役時代はもちろん、定年後の人生まで階級がものを言う警察組織の悲喜こもごも。キャリアにはキャリアの悩みがあるのね。「締め出し」の続きは書かないんですか横山さん。所轄署の立場を象徴する「俺たちだって同じなんだよ」の一言。警察OBの衰えぬ警察魂。十年前の苦い記憶を一掃できるか?
三ツ鐘署という息苦しい環境を実にうまく活用した「仕返し」。詳しくは書けないが、ある隠蔽工作と家族の問題を巧みにリンクしている。まあ、僕も将来社宅に住みたいとは思わないな…。最後の「人ごと」は、唯一警察官ではない一般職員が主人公。園芸を愛するところは漫画『家栽の人』を思い出す。結末も正に『家栽の人』。憎い締めですな。
「このミス」2003年版によれば、来年は7冊もの新刊が予定されているとのこと。タイトルも刊行月もすべて記載されていて驚いた。一ファンとしては嬉しい限りだが、出しすぎが裏目に出ないかと心配な気もする…。