横山秀夫 16


64


2012/11/05

 『震度0』以来、実に約7年ぶりとなる新作長編である。体調を崩したと聞いていたので、もう書けなくなったのかと心配していた。こうして新刊を手に取れたのは大変喜ばしい。

 D県警の広報官・三上は、記者クラブとの対立に頭を悩ませていた。上からの指示で、ある交通事故の加害者を、匿名としたことがきっかけだった。そんな中、警察庁長官による、未解決誘拐殺人事件「64」の現場視察が1週間後に決定した。

 タイトルの『64(ロクヨン)』とは、7日間しかなかった昭和64年に発生したことに由来する、D県警内の符牒である。三上は遺族を訪ね、長官慰問を伝えるが、なぜか強く拒まれる。当時の捜査関係者には厳重な緘口令が敷かれていた。何かを隠している…。そして、時効を間近にしての長官訪問の裏にも、D県警を揺るがす目的が隠されていた。

 警察対メディア、警察庁対地方警察、そして警務部対刑事部。多様な警察官像を描いてきた横山作品の中でも、三上の立場は最も過酷ではないか。主要ポストはキャリアの指定席になっている地方警察の現実。長官訪問の意図を知った三上は板ばさみになる。三上は元刑事だった。しかし、広報官として長官訪問の段取りは整えなければならない。

 自身の家庭にも問題を抱えているというのに、三上はタフな男だ。序盤では刑事への未練を隠さなかった三上。いつかは刑事に戻りたい…。しかし、マスコミや上と真正面から向き合う過程で、三上が広報官の職務に目覚めていくのが大きな読みどころと言える。そんな三上の背中を、部下の諏訪、蔵前、美雲もしっかり見ている。

 大きな困難を乗り越えたかと思いきや…長官訪問の前日、物語は大きく急展開する。えええええぇぇぇぇぇ!!!!! 聞いていないぞそんなの!!!!! D県警と広報室は再び怒号に晒されるが、東京からもメディアが大挙して乗り込んできて、地元記者クラブだけ相手にしていた今までの比ではない。使いっぱしりにされる若いキャリアが気の毒になってくる…。

 強引に現場に同行し、前代未聞の会見場への中継を敢行する三上。ようやく見えてきた全貌とは…。執念のなせる業とだけ言っておこう。うーむ、これってどう転ぼうがD県警の面目丸つぶれってことだよね。あのしくじりがなければ、とっくに解決していたのか。

 やや中途半端な結末は、三上の決意の固さを象徴しているように感じる。



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