「はあ、はあ、...」
緊張しています。手がふるえます。
伝説の宝石「68882」を超安値で手に入れたぼくは、いま、約束の聖櫃「LCIII」のフタを開けようとしているところです。
コンピューターは恐ろしいもの。
触ってはいけないもの。
しかもぼくがこれまで苦労して貯めたお金を根こそぎ奪い去ったもの。
いわばぼくの貯金そのものなのです。
「ミスするわけにはいかない...保証がきかなくなっちゃう。」

当時はそこら中の雑誌に「フタを開けると保証が受けられなくなるからショップにお願いして...」という呪文が必ずのっていました。わけが解っていない人を脅すには十分な迫力がある文句です。でもショップにくれてやるようなお金はありません。ぼくは貧乏な版下職人です。これからはDTPにしないと生きてゆけないというので仕方なくマックを買ったのです。
初めてコンピューターの中を見ました。なにがなんだかさっぱり分からないけど威圧感があります。目がくらんで、手のふるえがますます大きくなりました。
「おちつくんだ!おちついて、コプロのソケットを探すんだ!きっと基板の上だ!」
その時ぼくにその役目が理解できた部品といえば、フロッピードライブとファンと、スピーカくらいでした。それ以外の部分はロジックボードでもハードディスクでも電源でも全部基板だという認識なんです。その基板の上を必死で探します。
「あった!」
伝説の宝石「68882」と同じかたちの穴が見つかりました。
「方向は、...これでいい。」
ソケットに石をはめ込みました。思いきって。ごそっ。
聖櫃のフタを閉め、その上に呪われたアップル純正シングルスキャン13インチモニターを載せ、結合します。
「動け!」

スイッチオン!
「ぽ〜ん」
動きました。やった!
コプロを使うソフトを起動してみました。動いた!
その時です!


「ね、ちょろいもんでしょ?」

「だれだ!」
おどろいて振り向いたぼくの目の前に妖精がいました。妖精!
「...」

「わたしはトホホ妖精。ひとが(ちょろいじゃん)とか思って調子づいた時に現れるの。そうして、ますます調子づかせるのが仕事なの。」
彼女の話だと、彼女の仲間は大昔からいて、モヘンジョダロの人たちをレンガ焼きマニアにしたり、エドの人たちをミカンマニアにして傷みかけたみかんに大枚はたかせたり、ポルシェ博士の戦車を電気駆動にさせて走らなくしたり、イギリス人にへんてこな艦上攻撃機を作らせたり、航空自衛隊に使えない国産輸送機を採用させて、やっぱり使えないからと最初に断ったハーキュリーズを買わせたり、陸上自衛隊に、断ったハマーそっくりなもっと高い国産機動車を採用させたり、と、世の中の「なんでそんなことを...」という暴走はすべて彼女たちのおかげなのだそうです。」

「あなたいま、改造が終わってつまんないと思ったでしょ?もっと改造したいと思ったでしょ?」
図星です。ぼくはちゃんと動くLC3を見て、少し寂しい気がしてたんです。
辺りが暗くなり、トホホ妖精の眼がふたつ光っているだけになりました。

「そんなあなたのトホホな気持ちは大切にしなきゃね。」

彼女の声が遠くなってゆきます。
「うあああああ!」
身体中が熱い!気が遠くなりました。
・・・
とてつもなくどす黒い気分。身体の中にどす黒いエネルギーがたまって、破裂しそう。
「ううう、か、改造がしたい!...パワーアップがしたい!」
うめきともなんともつかぬ声が口からでました。
「サア、今からあなたは力のみを信じる暗黒の改造狂戦士。もう、純正のままのものを使うことには耐えられない身体...」

「え!バ、バーサーカーはちょっと...か、改造ブラックナイトとかじゃないの...?」

 「そんなレベル高い改造するほど頭よくないでしょ?だから、あなたは、身の程知らずな改造にも平気でたちむかう破滅の狂戦士、バーサーカーなの。」

 「おおおお!なんでアップルのサプライはバカ高いんだ〜!スカしやがって〜!なんでショップの店員は人を小ばかにするう〜!うおおお!保証なんか、クソくらえ〜!」
 力がみなぎります。理屈なんか抜きではんだをとかしたい!ケーブルに端子を圧着したい!

 でもぼくが本当に暗黒道に墜ちたのはLC630を手に入れてからした。

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