つかむ女 |
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ふらりとやってきた若い女。 大きなグラブをして、クラブのよう。 なんでも掴んでみせるといっている。 さっそくわきでる無理難題。 水を掴めとみんなはいった。 かの女、澄ました顔で小川に入り、優雅な腰をちょっとかがめ、両手を水につっこんで、掴みだした、きらきら、ゆらゆらの水の球。 ゼリ−みたいに両手にのせて、みんなの前に突きだした。 一人の男が両手を出した。たぶん掴めると思ったんだろう。 水玉はくだけて、しみ込んだ男のズボン。 みんなは笑った。 だけど女は澄ましたまま。 きれいなずた袋の口を広げ、みんなの前に突きだした。 放り込まれる食い物や小銭。 女は初めてにっこりした。 もっと他のものを掴んでみせろ。 みんなはもっと見たがった。 もっと色々みようとした。 女はなんでも掴んでみせた。 砂、飛んでく鳥、蜂、つきだされた槍の穂先。 射掛けられた弓矢だって、空気だって掴んでみせた。 男の心を掴み、女の声を掴んでみせた。猫の足音だって。 夜になった。星を掴んだ。月も掴んだ。もっとも、それらは掴むだけ。その場所からは動かなかった。 一人の欲深な男、酒場に居合わせた男は、掴む女をうらやんだ。 なんでも掴めるその力、自分の手にも欲しいと思った。 女の技の源は、女の手、大きなグラブ、女のグラブにあると思った。魔法のグラブにあると思った。 女が村をでるのをまって、こそこそ後を追いかけた。 追いつきざまに棒でなぐった。後ろから。両手を女のグラブにかけて、力任せに引っ張った。 グラブはすんなり取れたけど、中身が詰まったままだった。 グラブじゃなかった、本物の手だった。 男はわめいて逃げ出した。 両手ちぎれた女を残し、血相変えて逃げ去った。 次の日みんなで見に行くと、女の両手がのこってた。女はどこにもいなかった。 みんなはそれを葬って、ちょっと寂しい思いをしたさ。 ただそれだけの物語。 |
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