13. カルメン

  なんのために歌うのか
  うれしいわけでもなく
  まして悲しいからでもない。
  

  ネーコは縦坑を落ちてゆきました。まっさかさまに。
 「うわあ、つかまるとこがない!」
 縦坑に飛び込んだときに、ちょっとだけあてにしていた、つかまれるところが、ぜんぜんありませんでした。どこかにつかまって落ちる勢いをころしてあげなきゃ、でも、どこにもつかまれません。せめて、壁をたたけるだけでもいいのに…
 「死んじゃうかもしれないな…」
 猫だったときみたいに、器用に体をひねって頭を上にしました。
 「光ってる‥」
 縦坑の壁は、巨人エリテヘテのいた洞窟みたいに青く光っていました。ネーコはその光を見るうちに、ぼおっとしてしまって、もうどこにもつかまろうともおもわずに、ひたすら落ちてゆきました。
 「しんじゃったら、パーチクはなんてゆうかな。フェリシアにしたみたいに悲しんでくれるかな?」
 まわりの青い光はどんどん上に流れてゆき、ネーコにはそれがもう、どちらに流れているのかもわからなくなり、目はうつろ。暖かくなって、眠ってしまいたくなったのですけれど、その時、足の裏にかたいものがおしつけられるのを感じて、ハッとしました。
 気がつくと、ネーコの両足は地面にとどいていて、縦坑の底にぼおっと立っていたのです。
 「あれれ?ついちゃった…」
 まわりを見回すと、不思議な光の中に、暗いところがあることに気がつきました。目をこらすと、そこにはなにか、丸くなったものが見えました。
 「女のひとだ…」
 青い光が、女のひとの顔を照らしています。
 照らされているのに、女のひとの顔はぼんやりしていて、よく見えません。
 女のひとは、ネーコの顔を見つめています。
 ぼうっと見つめています。ネーコはとっても気づまりなきもちになりました。
 「あの…わたしネーコ…あなた…だれ?」
 「…わたしはカルメン。歌の巫女カルメン。おまえは、わたしを代わるものか?」
 「かわるもの?」
 「…ちがうのか…まあ、ちがうといっても、ここにきて死ななかったのだから、おまえはつぎのカルメンなのだ」
 「わたし、ネーコだよ」
 「そう、いまのおまえの名はネーコ。しかし、わたしが死ねばカルメンに変わるのだ」
 「ふうん、ふうん、でも、カルメン当分死なないよね」
 「…少なくとも、つぎの満月まではな。おまえもそれまではネーコだ」
 「そっちいっていい?」
 カルメンの横にいってならんですわりました。
 カルメンはそのまま黙ってしまい、ネーコもぼおっとひざをかかえています。
 そのまま時が流れ…
 ネーコのおなかが鳴りました。
 「怠惰ではない物のさだめか…」
 カルメンは胸にかかえていたものをかかえなおしました。まあるい形のものです。弦が張ってあります。
 「それ、なに?」
 「手琴というものだ。これは特に、百七声の手琴と呼ばれている。おまえがカルメンの名とともにつぐのだ」
 いいながら手琴をつまびきはじめました。
 きれいな、不思議な音。静かなのに、胸がおどるような、それでいて動くことはしたくなくなる音。ネーコはその音にききいりました。
 カルメンの鳴らす手琴のしらべは、聞いていると心がトロ〜ンとして、おなかがへったことも忘れてしまいそう。パーチクのことまで…
 しばらく手琴を弾いたあとで、カルメンはネーコにいいました。
 「この手琴のしらべは、人を怠惰にする。しかし、人はあまりに怠惰でありすぎると、おなかがすいて死んでしまう。ネーコや、ここに食べ物がある。おたべ」
 よく見ると、カルメンの前にはやぶけた袋が落ちていて、やぶけたところから、パンやらリンゴやらが転げだしていたので、ネーコは急におなかがすいて、食べたい物をひろうと、元の場所に座って食べはじめました。
 「カルメンはたべないの?」
 しばらく食べたあとで、カルメンがさっきからなにも食べていないことに気がついて、ネーコはちょっとはずかしくなって、聞いてみました。いままでだと、ひとりでものを食べたりすると、きまってハーコがかぎつけて大騒ぎしたし、人といっしょに食べるほうが楽しかったんです。
 「わたしはいい。…それにしても、おまえはおいしそうに食べるな…ちっとも怠惰ではない。しかし、ここに落ちて死ななかったということは大部分が怠惰なのだ。不思議な子だ」
 カルメンは、やはりここに落ちて死ななかった自分と、自分に歌を教えた先代のカルメンのことを思いながら、ひとりごとのようにつぶやきました。彼女自身はひどくおとなしくてすべてをおっくうに思う娘だったので。月に一度落とされてくる食べ物を拾うのもおっくうなくらい。でも、この穴の底でぼおっとしていると、不思議とおなかはへらないのでした。
 ネーコが静かになったことに気がついてそちらを見ると、ネーコはもう、こっくりこっくりといねむりをはじめていたので、カルメンは手琴をちいさくつまびいて、ちいさく歌を歌いました。



 街に買い物にでていたヤールガーマス師は、街のそこここでレド国の王様がメブチ領を攻めるのではないかといううわさを耳にしましたけれど、師の住んでいる場所はそうしたことが起きてもまったくなにも関係がなかったので、メブチ公も下手なことをしたものだなどと思いながら家に帰ってきましたが、家がさわがしい。
 さてはばあさんが卒中にでもなったのかとちょっと心配になって、いそいで家に入ってゆきました。
 家の前には騎兵の馬がつかれきってたたずんでいます。その鼻を軽くなでてあげてから、母屋に入ると、ばあさんは一生懸命お湯を沸かしているところです。ひとまずばあさんは無事でした。
 「パーチク!わたし薬草を買ってくる!ヤールガーマス殿はまだ…あ!すいません!!おかえりなさい」
 デ・ロタールは血まみれの布を手に、帰ってきたヤールガーマス師にあいさつをしました。
 「どなたかケガを?」
 デ・ロタールはちょっとこまった顔をしましたが、決心して話しはじめました。
 「今回の旅で、私たちはあぶないところを盗賊のヒリヒというものに助けられたのですが、さっき、そのヒリヒが大けがをして私たちを頼ってきたのです。盗賊とはいえ、かつて助けられた人を見捨てることはできません。どうか、お見逃しをいただきたく、ケガが治ればでてゆかせますので…」
 ヤールガーマス師は両手のひらをデ・ロタールに向けて黙らせるといいました。
 「石切りのヒリヒといえばここまでも名を知られた剣豪。その彼がどうしてそのようなケガを…興味があります。おもての馬の飾りはメブチのもの、目につかないようにせねばなりますまい。馬具を片づけてきます」
 どうやら、とりあえずヒリヒをかくまってくれるみたいです。
 ヤールガーマス師は寝室へ行ってみました。あの、恐ろしい使い手であると名高い盗賊は、どんな男なのだろうと。自分も剣を愛するものとして、ケガをしているとはいえ、その剣気を感じてみたかったのです。
 ベッドに青い顔で横たわっている男は、ヤールガーマス師が入ってゆくと、瞬間すごい目をしましたが、師がそれにこたえなかったのですぐに気配を消し、わきにいるパーチクのことばにこたえはじめました。
 「ネーコが死んだかどうかはわからないんですね?」
 「‥アア、穴に飛び込むのは見えたが、…死んじゃいねェかもしれねエ…あの穴にャ、タマに娘を投げ込むって聞いた。穴の真上に満月がくる晩じゃネエとダメらしい。たいていは死なないで…カ…ナンだっけ、トニカク穴の底で歌を歌う女になるンだそうだ…イマ穴の中にいる女はもう死にそうだから、そろそろかわりの娘をなげこまなきゃっていってたのサ…」
 「それはだれに聞きました?」
 「城の殿様近くのじいさんだ…得意になって話してくれたヨ…とちゅうでしゃべりすぎだってダマっちまったけどサ…」
 「ほかになにか知ってませんか?」
 「城は、新しい魔法剣士をヤトったんだ…オレはそいつにヤラレた。卑怯なくらい強かったゼ…」
 「ありがとう。じゃあ、ぼく、これからメブチ領へゆきます。知らせてくれて、ありがとう。あんた、いい人だと思う。ほめてんだから、おこらないでね」
 ヒリヒは手を上げました。疲れ切っています。
 パーチクがわきをすり抜けようとするのをヤールガーマス師はサッとつかまえて、しゃがんでパーチクと同じ高さに顔をもってきて、パーチクに街で聞いてきたことを教えました。
 「王国軍がメブチを攻めるといううわさを聞きました。たしかに最近街道に軍勢の往き来がはげしい。お気をつけて。わたしもお力を…」
 「ありがとうございます。ゆくのはぼくひとりの方が身軽でいいと思います。ハーコはおいてゆきます。もうしわけありませんが、めんどうみてやってもらえますか。ぼくはできるかぎりやってみます。きっとうまくいきますよ」
 そこへヒリヒが呼びかけました。
 「オイ、パーチク!ネーコはナ…」
 パーチクがふり返ると、弱くニヤッとして、「オレ、あの子になんもできんかったヨ!」
 パーチクはかけだしました。



 デ・ロタールが薬草を買ってもどると、気を失ったヒリヒを看病するヤールガーマス師の姿がありました。
 「パーチクは?」
 「ネーコ殿をつれもどしにでてゆきましたよ」
 「そうですか…」
 「あの子供は何者ですか?」
 デ・ロタールはパーチクについて話しました。
 「ネーコ殿は猫なのですか…すごいわざをおこなう者もいたものです…道理で素早い。心配ですが、私たちはいまはヒリヒ殿の看病をせずばなりますまい」
 「はい。がんばります」
 デ・ロタールは、ヒリヒのキズは深いものの、手をかければ命には心配がないとわかっていましたが、ここ数日は油断できないと思っています。



 パーチクはハーコにるすばんをたのんですぐにメブチ領に向かいました。心は不安でいっぱい。まさかメブチ領にいったなんて、思いもしませんでした。ヒリヒについていたから、まさかそんなあぶないことはしないだろうと思っていたのが甘かったみたい。
 「でも、ハーコに答えた口ぶりだと、あの時ぼくには連れ戻せなかったもんな…」
 自分にいいわけするみたいにひとりごとをつぶやきながら、メブチ領への道をゆきました。途中の街や村でうわさを集めます。レド国王のメブチ討伐軍はとうのむかしにメブチ領めざして進撃していったあとで、とちゅうの街や村では軍隊が食べ物や板やロープなどをねこそぎ買い上げていってしまった後だったので、みんな不満をぶちまけています。
 「でもまあ、メブチに勝ち目はないだろなあ」
 「ドラゴンをつんだ馬車が何台も走ってったぞ!」
 「メブチ討伐軍は重装備の六コ師団で、三コはイファンとの国境を封鎖するのに使うとか。こりゃあ、だれも逃げられめえ」
 などと、王国の寄せ手についての情報はたくさんあるのに、「メブチの縦坑」や、その底で歌を歌う者については、みんな首をふるばかり。それでもパーチクはメブチ領に向けて進みました。メブチ領に近づくとともに、不安をもつ人のわりあいが多くなってきて、情報もあいまいになってきました。どれが本当なのか、決めることがむつかしい。どれも本当みたいだし、でも本当のことはそれらの情報の中の、ほんのひとにぎりだし。
 しかし、パーチクには経験というものがありました。街や村にあふれているうわさのどれがほんとうで、どれが不安とめだちたがりやの生みだす尾ひれのついたホラなのか、だいたい見きわめることができました。もっとも、かれはどれがウソでどれがほんとだなどと騒いで人に教えようなんて気持ちは持っていませんでしたから、自分のみちびきだした答えは全部相づちとともに心の底にしまこんでしまっていたのです。
 パーチクのようにいろんなところをふらついて、自分の土地や暮らしを守る必要のない人の目というものは、ふだんはかなりふつうのことじゃないのですけれど、いざというときはそれなりに正しいってこともあるんですよ。
 「それにしても、ほんとにほしい情報って、めったに聞けないよね」
 そうおもいながらもメブチ領に近づいてゆきました。レド国の軍隊は、メブチの人々に逃げるひまをあたえないように、すごい早さであつめられて、すごいはやさで押寄せていったみたいです。なかにはいくさが起こりそうなことに気づいていない村さえあったのです。
 それでも、パーチクはついていました。ひとりで人気のない街道をすたすた歩いていると、彼になにか魔法をかけようとした者がいたのです。
 言葉にはしづらい、くすぐったいような、一瞬の不安のような、不思議な気持ちをパーチクは感じ、すぐに、これは笑いの魔法だってわかりました。ひとりでいたから、カンが鋭くなっていました。
 「あれ?ひょっとすると…この気配は…あ、ああ!あは、あははははは…」
 パーチクが笑いはじめたので、魔法がきいたと思って、道端のやぶからのこのこ出てきたのは古チュウリン。
 「う、こ、この子…!」
 「あははははは、正気のとき合うのは初めてだねチュウリンくん。ぼくはパーチク。よろしくね」
 「お、おまえ、豚になって悪い魔法使いに煮て食われたんじゃなかったか!」
 「あははははは、なめてもらっちゃこまるよ。こないだはきみにしてやられたからね、今日はちょっとお返しをしてあげる」
 古チュウリンは、自分と同じくらいの背たけのこの小さな子供が、なんでこんなふうな生意気な口のきき方をするのかわからずにきょとんとしましたが、すぐに腹が立ってきました。
 「こども!チュウリンからかうよくない!ころすよ!」
 おどすつもりで小僧のおなかにしっぽのムチをくれました。
 「げふっ!」
 おなかを押さえてうずくまるパーチクの背中めがけもうひとムチ!…あれ?
 しっぽが地面に埋まってぬけません。あれ?足も!あれ、地面がおなかまで!あれ?あごが地面に!
 「まってまって!坊っちゃんひとが悪いね!魔法使える言わないひとが悪いね!チュウリン悪かった!あやまるからいきうめるやめる!おへは…」
 パーチクが土を食べはじめたチュウリンを元どおり地面から引きだしてあげると、チュウリンはすごい早さで逃げようとしましたけれど、パーチクはそれをみこしてまた彼を埋めてしまったので、チュウリンは泣き声をあげました。
 「もうやめて!なんでかわいそうなチュウリンいじめるですか!」
 「だって、逃げようとするんだもん。逃してあげてもいいけど、ちょっと教えてほしいことがあるんだよね」
 「なんにも知らないから逃がして!」
 「てきとうなこというと殺すよ!」
 チュウリンの鼻だけが地面に埋まりました。見えない手で地面に顔を押しつけられているようです。息が止まる前に鼻を地面から抜いてもらえました。しぬ!しんじゃう!
 チュウリンはふるえあがりました。身体じゅうの毛がさかだちます。この子供、子供じゃない!ヒリヒより怖い!
 「きみが商売してたメブチのお城に、メブチの縦坑っていうのがあるよね」
 「あ、あるよ」
 「さいきん、その縦坑をつかさどる巫女の交代があったってきいたんだけど、ほんと?」
 「い、いや、交代は近いというはなしはきく、でも、交代した話聞かない。交代のとき、城では大きい祭りになるからわかるよ。歌が聞こえてくる。怠惰の歌が。それに、満月になるのもっと先ね!」
 「で、その縦坑って、どういうしくみかは知ってるんだよねえ?」
 チュウリンはその知識には自信がありました。
 「カルメン、星の声の怠惰と黒小人の技を統べるもの、星の声、縦坑に集まるを歌に換え、黒子人に富を産む力あたえる。黒子人、お礼に宝くれるね。これ、メブチのひみつ」
 「そっか、歌うって、そういうことなのか…あのお城は、領地からの年貢だけじゃなくて、黒子人の力を借りてたんだ。すごいこと考えたね…」
 「かわりに、歌の巫女のいのち、どんどん黒小人吸い取る。いちど吸われたら、もうもどれない。縦坑でる、即、死」
 「死んじゃうの!?」
 「黒子人、娘のたましのいちばん大事なところを最初にもらってしまうときいた。たましの、大切なところを」
 「魂?!」
 パーチクの声がするどくとがりました。
 チュウリンはこの意味に気づかずに得意になって続けます。
 「そう、たまし。たましの部品、いくつかはなくなってもだいじょぶね。でも、いくつかはなくなると死んでしまう」
 パーチクはドキドキしてきました。意外なところで、彼のもとめていた秘密があきらかになるかもしれないのです!
 「で、で、き、きき、きみ、魂をとりあつかったりできるの!?できるの!?」
 チュウリンは首をふりました。
 「リズム必要。チュウリン歌えない。だからたましあつかえない」
 「で、でも、魂の扱い方は知ってるんだよね!」
 これにもチュウリンは首をふりました。
 「歌えないもの、知ってるワケない。おまえもそのくらいわかるはず、子供!」    パーチクは目に見えてがっくりしました。そのスキをチュウリンは見逃しませんでした。パーチクがハッとしたときにはもう近くのやぶの中に。
 「子供、魂あつかおう思うのよくないのこと!だれもうれしく思わない。おまえもいい思いしない!やめるがしあわせ!」
 パーチクはカッとなってチュウリンの消えたあたりの茂みをごっそり地の底へ沈めてしまいましたが、チュウリンが逃げおおせたことはあきらかでした。
 「くそ!やなこというやつだ!」
 パーチクは怒り狂っています。いままでぼくたちに見せたこともないくらい。ネーコがみたら、とまどってしまったかもしれません。
 「…みてろ!ぼくは負けない。ぜったい魂をあつかってフェリシアと…」
 それでも怒りがおさまらずに、でもさすがにもう罪のない茂みを地の底に沈めるのは気がとがめたのか、かたわらの石をけとばし、「うおおおお!」とだれもいない方にほえました。
 これでひとまず怒りは晴れたみたい。ため息をひとつついてからまたメブチ領に向かって歩きはじめました。
 もうちょっと調べなきゃね。

 あの時代に、レド国王がなぜメブチ領を攻めたかという問題の答えは、いまでも多くの歴史を調べる学者たちのあいだでは「これが正解」といえるだけの答えがみつかっていません。当時の文書がなにも残っていませんし、残っているうわさをかきとめたものはみな言っていることがバラバラで、しかもどれもがなんとなく本当らしいのです。というわけで、学者たちはいまだにあきることなく議論を繰り返えしています。
 メブチ公の領地を攻めるためにレド国王が号令した兵力は、直接メブチの城を攻撃するための兵を三人の旗本の領地から集めて作った二個師団、となりのイファン国に遠慮して、メブチ公が逃げ込まないように国境を封鎖するために集めた自分の王子と諸侯の軍隊で作った二個独立旅団と師団が二個。いずれにせよこれだけの兵力を準備することは大変な出費です。小さな領地ひとつをつぶすためにこれだけのお金をかけて兵を動員した秘密が、魔法があったことも黒子人がいることも信じないいまの学者たちにはまったくの謎なのでした。
 

 いま、ようやくパーチクはメブチ領にたどりつきました。メブチの城は、レド国軍の軍勢にびっしりとかこまれていたので、なんとかして忍びこまなくてはなりません。
思案するパーチクのわきを、どこかの騎士団が静かに通り抜けてゆきました。レド国の都の方へ。

14. ドラゴンつかい