Takapi Laboratory
チェロの楽しみ


英国王立音楽検定(ABRSM)

英国王立音楽検定( 公益財団法人かけはし芸術文化振興財団) 
本家・英語サイト

英国王立検定とは

チェロもピアノのように、なにか検定試験はないものかと探していましたら、英国王立音楽検定(ABRSM)というものを発見しました。日本で日本語で受験できます。様々な楽器で受験できます。

一番の魅力は、国際的に通用する証明書である事。100年以上の伝統があり、信頼されていること。基準がしっかりしていることです。

受験してみて分かったのは、とてもバランスのよい試験であることです。演奏実技だけでなく、オーラルテスト(コードの進行、終止形、初見、視唱、分析など)もあり、音楽をより深く理解できると思いました。

危険な点としては、この試験を目指して、試験曲ばかり練習して、なんとか合格しようと考える人が出るであろうこと。きっと音楽を楽しめない。音楽的視野が狭くなりそう・・・。合格目指して練習するよりは、復習として利用したほうが有効かも。私は数年前にレッスンしてもらった曲を再び練習して受験しました。「あ~以前やった時は、ここが理解できていなかったなあ」と思うところが沢山。いろんな発見があり、たいへん勉強になりました。試験勉強を通して、自分の苦手なことが炙り出されたり、音楽の知識の欠けている部分を補うことができました。試験に振り回されることなく、上手に利用して楽しんで欲しいな・・と思います。

試験用教材

英国王立音楽検定( 公益財団法人かけはし芸術文化振興財団) でも注文できます。amazonでも売られています。

本家・英語サイトから直接購入することもできます。

英国王立検定の仕組み

●音楽理論検定

●グレード5---音大入試突破レベル、楽典の範囲

やさしく学べる音楽理論 という本を購入し勉強。薄くて(重要)、各章ごとに問題もあり、自分がちゃんと理解できているか確かめながら勉強できた。 その後、英国王立音楽検定のグレード5のテキストで英語で勉強。(日本語訳もあり)

グレード5の内容は楽典です。移調楽器(クラリネットやホルン)の譜面を実音に書き直したり、簡単なメロディーを作る問題などもありました。

●グレード6---和声(バス課題、ソプラノ課題、メロディー創作、総合問題)

グレード5とグレード6の間には、大きな深い溝があります。 グレード5のちょっと難しくなったものがグレード6・・・・ではありません(汗)。全く別物です。 グレード5は楽典でしたが、グレード6は和声です。音大の和声を勉強し終わったレベルです。

独学は不可能だと感じ(間違っていても自分で気が付くのが難しい)、 月に二回プロの作曲家の先生に和声の個人レッスンを受けました。 いわゆる芸大和声と呼ばれている赤本を勉強し、 その後、ABRSMのグレード6のテキストと過去問題を国際標準の伝統的数字による 和声の表記を勉強し、バス課題、ソプラノ課題をやって試験の準備をしました。総合問題は、 アマチュアオーケストラで自然と身についた知識で十分に対応できました。 日頃からオーケストラのスコアを見慣れておくと良いと思います。

2015春から、この「新しい和声」という教科書が、芸大&付属高校で正式テキストとなりました。 約40数年ぶりの大改訂だそうです。中身もすっかり変わっています。 今までのは日本独自の記号で和声を表していましたが、 この本は国際標準の伝統的数字(つまりABRSMの試験の表記と同じ)による表記となっています。

日本の和声教育の歴史的転換(大げさ?)を体験することができたのは、 貴重かもしれません。新旧両方の和声の表記を知ることができたのは良い経験です。

実技試験

グレード8

チェロ実技のグレード8にメリットで合格することができました。合格証にもその旨が書かれます♪嬉しいです!理解ある家族と上司と、熱心に指導してくれた先生sのおかげです。感謝いたします!!

課題曲3曲、スケール、オーラルテスト、初見演奏、音楽を聴いてその特徴を述べる・・・という試験内容でした。スケールは、ABRSMから出されているそれぞれのグレードのスケール集から出されます。それ以外は出ませんでした。これは完全に暗譜で弾ける状態にしておく必要があります。実技試験でみっちりと弾かされました(大汗)。

具体的には、スケール(長調、短調(旋律的、和声的)を5-6種類。アルペジョも4種類ほど。クロマティックスケールは一種類。ドミナントセブン1種類、ディミニッシュセブン一種類、六度、三度、オクターブも一種類(ようするにテキストにのっているのと同じもの)。初見演奏はアレグロで、16分音符ばかりで、重音が出てきて、ハイポジションも少し出てきました。ABRSMで出されているグレード8用の初見テキストよりは簡単に感じました。

初見で歌うテストがありました。ヘ音記号かト音記号が選べます。私はチェロなのでヘ音記号を選びましたが・・・少々失敗。ヘ音記号は音が低く過ぎて声が出らんかった(TT)。 ト音記号を選ぶべきでした。すごく簡単な楽譜でしたし。

試験官がピアノで曲を弾いて、そのテクスチャーを述べなさいという質問がありました。テクスチャーってなに???と焦りました。これは、その曲の拍子や調性や作りを答えるのです。私の時は3拍子の曲だったのですが、「3拍子」なんて当たり前すぎて、「3拍子です」と答える発想がなくorz・・・。 聴いた曲を耳コピーで楽譜を作るつもりで聞いて答えるといいかもしれません。楽譜に書くのに必要な情報、曲の作り(構成など。対位法だとか和声的とか、右手がメロディーで左手伴奏とか)曲からうけたイメージなどを、ありったけ、思いついただけ、たくさん答えると良いと思います。どれか当たるでしょう(おい)

かけはし文化財団のウェブサイトで教材を注文することもできます。 教材はネットでいろいろ売られています。

聴音

グレード試験に聴音があるので、する必要に迫られてやりました。テキストはグレード試験を行っているABRSMのもの(グレード6~8用)を使用しました。CDも三枚ついてます。これが意外に良かったです。グレード6までは簡単にこなすことができました。グレード7あたりから練習が必要。グレード8はさらに難しくなっていきます。段階的に一つずつ地道に覚えていく感じなので、なんとかなりました。よくできた教材だと思いました。アマチュア楽器演奏家はやって損は無いと思います。なんとなく感覚で理解していたことが、理屈でハッキリする。理論で勉強したことを実践で使うための練習・・・といった感じでした。

●演奏ディプロマABRSM(←廃止になり、別の新しいものができるようです)

プログラムノート

参考:私のプログラムノート(PDF)
プログラムノートを書き始める前に、手あたり次第、作曲家や曲に関する資料を集めまくりました。集める方法はインターネットが一番便利でした。とっかかりとしてwikipediaが便利でした。日本語と英語の両方で調べると良いでしょう。英語のページの方が情報が多いこともあります。ウィキペディアには関係するリンクや参考文献のリストがのっていますので、芋づる式に情報を集めることができます。ウィキペディア、ほかのサイト、本には間違った情報が意外と多かったです。できるだけ一次資料を探し出して読むようにしました。作曲家の年表もとても便利でした。楽器の発展の歴史も参考になりました。「~と言われています」や「~と思われる」という表現が沢山使われている本はあまり信用できないです。自分で本当かどうか調べましょう。

楽器の歴史と作曲家の年表を照らし合わせると、面白い発見があることも。楽器や弓の発達が音楽に与えた影響や、音楽が変わっていく様子が垣間見えて、思わずうれしくなったりしました。

ブロッホという作曲家を調べたとき、日本語で信用できる確かな情報があまりありませんでした。でも英語で調べると、かなり多くの情報を得ることができました。アメリカでブロッホが勤めていた大学には、ブロッホ・ミュージアムがあり、そのサイトが役に立ちました。アメリカのブロッホ協会のサイトも情報が多かったです。youtubeでユダヤの聖歌を聴いたりもしました。

ショパンに関しては、ショパンの書いた手紙の日本語訳を読んだり、ポーランドのショパン博物館のサイトを見て、ショパン自筆の手紙の写真を眺めたり(ポーランド語読めないけど・・)、日本語だけでなく海外のサイトも調べるのが良いと思います。

プログラムノートの書き方

こちらにプログラムノートの書き方があります。(英語)

この書き方をじっくり読んでプログラムノートを書くことをお勧めします。要約すると、、、、科学論文のように、客観的事実を書くこと。憶測は書かないこと。何か書くときは、かならず根拠を示すこと・・・でしょうか。たとえ書かなくても「なぜ?」と聞かれたら、答えられる準備をしておく。

・観客は演奏を聴きに来ている、演奏者の意見を読みに来たのではない。
・ながながと曲の分析を書くな。
・かっこいいから・・・という理由で、難しい言葉を使うな。
・根拠を示せ。
・大げさなポエティックな言葉は使うな。

といった注意が書かれていました。また、良い例、悪い例が示されていて、けっこう笑えました(笑)

プログラムノートを書くときには、作曲家自身のついて、曲の背景、曲そのものの解説をバランスよく書く必要があります。

私は最後に、英語で書いたものをネイティブの方に添削してもらいました。やはり文法などは心配ですから・・・

最終チェック

試験官になったつもりで自分のプログラムノートに突っ込みを入れる(笑)「こんなこと書いてるけど、ほんと?」「具体的には?」などなど、自分で突っ込みを入れ、答えられるか試す。「ウィキペディアに書いてあった」ではダメ。少なくとも「年表や作曲家の手紙を読んで確認しました」や、「年表を見てみると、この作品を書いた時期に作曲家は●●しています。そのことから、私は◎●であると確信しました」「残念ながら、はっきりとした証拠は見つけられませんでした。しかし、調べている途中で偶然私は◎●を発見しました。そのことから●は◆であるという考えを強く持ちました」など、論理的に答えると良いでしょう。

口頭試問

ABRSMのウェブサイトにGuide to the Viva Voce requirements (PDF)(口頭試問の説明)があります。これを読んでおくと、どんなことが質問されるのか、どういったことが重要なのかが分かります。堂々と自信をもって自分の意見を言うことが重要なようです。プロの音楽家として、試験官と議論できるかを見られるようです。私は前もって車の中でしゃべる練習をしました(笑)

私が質問されたのは「どうしてこのようなプログラムにしたのですか?」ということ。その次に一曲一曲について質問されました。「ソナタ形式を説明して」「バッハを演奏するにあたって、どんなことを注意して練習しましたか?」「ピアニストとはどのようにコミュニーケションをはかりましたか?」「なぜブロッホを選んだのですか?」「あなたはこの曲について、ユダヤの文化の影響を受けていると書いていますが、具体的に何ですか?」などなど・・・・。けっこう突っ込まれましたが、しっかり調べてたのでバッチリ(^^)V 普通に調べて自分自身で書いていれば、ちゃんと答えられる内容です。

実技は合格ギリギリの点数でしたが、プログラムノート&口頭試問の点数は良く、「High Pass」でした。

やっておけば良かった・・・と後悔したこと

ディプロマ試験では、自分が演奏する曲の楽譜をコピーして試験官に渡します。試験官に渡す楽譜には、分析した結果を書き込んでおけば良かった・・・と後悔しました。書き込むことで、自分がその曲についてちゃんと分析したよ!ということを試験官にアピールできるからです。ソナタなら、第一主題がどの部分、第二主題がどの部分、ここは何調、ここは何調・・・などなど・・・書きこんでおけば良かった・・・と。

合格基準

演奏実技、音階、初見、オーラルテストのそれぞれの項目が最低合格基準を満たしていないと、 たとえ合計が合格点でも不合格になる…はずでしたが、こちらの ブログにも同様のことが書かれてます。 基準が変更になったようで、今は合計点が合格点を満たしていれば合格になるようです。

ABRSM パフォーマンスアセスメント

合否は無く、演奏を客観的にアドバイスしてくれる

自分の実力を客観的に知りたい!という理由でパフォーマンスアセスメントを受験しました。私の先生はいつも褒めてくれるので、自分の実力がどの程度かわからないので・・・。私が受けたのは合否の無い、聴音も無い、21歳以上ならだれでも受験可能な「パフォーマンスアセスメント」。わざわざイギリスから福岡まで試験官がやってきて、一人づつ審査してくれます。私の演奏を聴いて、アドバイスをA4の紙に英語でびっしり書いてくれます(翻訳を頼むことも可能。私は自力で読みました。ネイティブの癖字は解読が大変でした・・・)。以下が審査官が書いてくださったブラームス チェロソナタ2番1楽章の演奏に対する講評。


Vibrato added warmth and tone was clear. The dynamic range was wide and suttle shaping(<>) was included. Intonation was generally secure . there was some unreliability in higher register. there was some good tonal control shown. But with scope for a more passionate vibrato at times. faster passage work was not always clear especially in the middle, and double stopping was not quite in time. Overall this was a committed performance with the varying moods of the music well conveyed.


自分の長所・短所をあらためて確認。今後の練習の参考にしたいと思います。こうゆうのがあると、とってもモチベーションが上がって楽しいですよ♪パフォーマンスアセスメントなら合否もないし(^^; 発表会前のアガリ対策で受けるのも良いかもしれない。場数が多い方が本番でのアガリも減ると思うし。

Takapi Laboのオリジナル商品です