2. 私の大学院体験記:総括と評価

2-1-5 大学教授恐怖症

人は自分の理解できない原理で動いている人に強い恐怖を感じるものです。見たこともないような外人から聞いたこともないような外国語でいきなり怒鳴りつけられたときには大変な恐怖を感じるそうですが、これは相手がどのようなロジックで動くのかがさっぱり分からないせいでしょう。外国人差別の根底には常にこのような恐怖があると聞いたことがあります。また、よく外国にいって喧嘩をするときには日本語で怒鳴り散らせば良いというのは、これを逆手に取った方法だと考えられます。一方、人はまた暴力団や秘密警察などから徹底的にひどい目に合わされると、暴力団とか秘密警察とか聞いただけで強い恐怖を感じるようになります。これらの組織もまたこのような反応を逆に利用しているのはよく知られています。私には多分その両方の反応が起きたのでしょう。

その後の出来事です。大学院を中退して数年経って、ある大学教授に話を伺いに行ったことがあります。この教授は、日本でも間違いなく5本の指に入るトップクラスの研究者であるのに、丸い眼鏡でいつもニコニコと微笑み、学生の生意気や誤りもやんわりとたしなめるといった、間違いなく「業界で最も人当たりのよい紳士」です。私にも丁寧な対応をして頂けました。しかしその帰りの電車のホームで、数年全く引っ込んでいた鬱が再発し、直るまで数ヵ月苦しむこととなりました。大学院で研究を続けられないことを再認識させられる出来事でした。

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