『旅は歩くことなり』＝名古屋の古本屋でこの本を見つけた時、《然り》と思った。
私たちが旅に出るとき、車や鉄道、あるいは航空機を利用するようになったのはほんの１５０年前のことである。
長い人類の歴史を考えると《旅は歩くこと》が基本なのだ。江戸時代の《お伊勢参り》にしても、１２世紀に始まった
と言われるサン・チャゴ・デ・コンポステーラへの巡礼の旅にしても、人々は黙々と歩いて目的地へと向かった。
当時年間５０万人もの人々がピレネーを歩いて越えたという。
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１回目：パリ⇒リモージュ ２０１４．８．７～９．１ 歩行日数：２５日間 ４７２．４ｋｍ ７０６，５１７歩（万歩計）
２回目：リモージュ⇒オルテズ ２０１６．８．６～８．２９ 歩行日数：２４日間 ４９３．３ｋｍ ７２５，０６３歩
３回目：オルテズ⇒ブルゴス ２０１７．８．２１～９．１１ 歩行日数：２２日間 ３８２．８ｋｍ ５８９，０７８歩（今回）
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第１４日目
９月３日（日）晴：Torres del Rio----Vianna--(Taxi)--Logrono（ログローニョ） 11.4km 19,071歩 Albergue泊（10€：素泊）
ケヴィンの背中の状態はかなり悪いらしい。リュックをログローニョのアルベルゲまで業者に車で運んで貰い、途中
の《ヴィアナからはバスかタクシーに乗ろう。》と決めて歩き始めた。《この分だと彼はもうカナダに帰るのではないか》
とさえ思った。しかし、その気は全くなく、《サンチャゴまで行く。》と平然と言う。大丈夫なのか？
《気持ち良いだろうなあ！パラグライダーが飛んでいた》
小さな山を３つ程越えて予定通りヴィアナの旧市街地に近づくと、スピーカーから大音量のけたたましい叫び声が聞こ
えてきた。スペイン語で何を言っているのかさっぱり分からない。どうやら《市民マラソン大会》の実況中継のような雰囲
気。若者から結構なお歳のおじさんたちが炎天下、ハアハア言いながら旧市街地の門の中に吸い込まれて行く。邪魔に
ならないように見守り、走っている人たちが途切れたのを見て後に続いた。教会のある街の中心広場がゴール。町中の
人が集まっているのではないかと思える程大勢の人たちでごった返していた。
《ヤー！、ケヴィン》と若い女性から声が掛かった。カナダの女性だった。私は顏は知っていたが話したことはなかった。
ケビンは同じカナダ人ということで２～３日前、親しく話したことがあるという。椅子が空いていたので、私たちもそこで
休むことにした。彼らは英語で話していたが、そのスピードが速いために私にはさっぱり理解できなかった。ケビンは
同国人と話ができてホッとしたのか、背中の痛みも忘れてしまったかのように楽しそうに話していた。(^_-)-☆
《カナダ人の女性と話し、ケヴィンは元気になった》
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広場のバルで３０分程休んだ後、旧市街地を離れ再びバルに入る。私はビールを、ケビンはジュースを頼んだ。そして、
マダムに《ログローニョまで行きたいのですが、タクシーを呼んでください。》と言うと、彼女は快く引き受けて電話をして
くれた。バルの中は広場の喧騒とは違い、近所の常連さんらしいおじさんが一人いて、マダムと楽しげに話をしていた。
温かいスペインの田舎の風景だった。しばらくすると、先に表に出て様子を見ていたケビンが《ＡＫＩ！タクシーが来た。》
と知らせてくれた。私がマダムに礼を言って外に出ると、ケビンが直ぐ近くに停まっているバスを指さした。バスの表示
には《ログローニョ行》とあった。何のことはない。バルの前がバス停で丁度その時ログローニョ行きのバスが来たのだ。
しかし、当然私たちは呼び寄せたタクシーに乗ってログローニョまで出た。１５分、２１€だった。バスなら１人２€。( ﾟДﾟ)
ログローニョはリオハ州の州都で、人口１４万人。巡礼路上の大きな町である。日曜日ということもあってか、
街には大勢の家族連れや若い人たちが繰り出していた。ほとんどのカミーノたちはこの町には泊まり、身体を休
める。市内には７つのアルベルゲがあるが、ケビンが選んでくれたアルベルゲは施設設備が素晴らしく充実して
いた。シャワー室には石鹸があったので、いつもはシャワーだけで汗を流していたものを、この日ばかりは久し
ぶりに頭を石鹸で洗いさっぱりした。《ＡＫＩ！洗濯ものを出しなよ。洗濯機で私のものと一緒に洗ってあげるよ。》
とケビンが言ってくれた。私は、いつも洗濯も水でジャブジャブするだけで干していた。見かねていたのか、彼が
一緒にやってくれるというのだ。《な～に、洗濯機に一緒に入れるだけだから大丈夫。乾燥もしてくれるしね。》
そして、１時間もしたら、《出来上がり！》と言って頼んだ洗濯物を持ってきてくれた。感謝、感謝である。(^_-)-☆
《バルではタパスやピンチョスを食べる。旨い。ワインにぴったりだ。》
当初、《レストランに入って、久しぶりに美味いものを食べよう。》と意気込んでいたが、スペインのレストランの
夕食は午後９時頃からという。私たちにとってはその時間はもう寝る時間なのだ。残念ながら諦め、繁華街のバル
でログローニョ名物のタパスやピンチョスを食べることにした。それはそれで結構旨かった。 《ＡＫＩ！、見てみろ
よ。》とケビンに言われ壁に掛けてあるテレビを見ると、スペイン対カナダのバスケットボールの試合をやっていた。
どうりで周りが騒がしいと思った。スペインが得点するたびに《オレ！》とか何とか叫んでいる。カナダのシュートが
決まると辺りは《シ～ン！》 ケビンは机の下で小さ目に手を叩いて喜んでいる。《大きな声をあげて喜ぼうものなら、
何をされるか分からない。》と言って、ウインクをした。そこで、私もカナダが得点する度に、遠慮深くガッツポーズ
を決めてウインクを返した。試合の結果は、接戦の末スペインが勝ったので私たちには残念だったが、楽しい至福
の一時だった。
第１５日目
９月４日（月）晴：Logrono---------Navarrete（ナヴァレテ） 13.3km 20,500歩 Albergue泊(10€：素泊）
どうしたことか、ケビンが１時間間違えて早く起きてしまい、午前７時に出発することとなった。背中の状態は
《昨日、リュックを運んで貰ったので大分良くなった。今日も運んで貰うよ。明日はできればバスに乗って、次の
町まで行きたい。》と元気な声で言った。ということは、《ケビンと歩くのも今日で終わりか？》と思った。
他のアルベルゲで泊まっていたカミーノたちも歩きはじめていた。朝食は街中のバルで食べようと出発したの
だが、なかなか適当なバルがなく、そのうちに町並みを出てしまった。３０分も歩くとさすがに腹が減ってきた。
仕方ない。《あそこにベンチがあるのでともかくリンゴでも食べよう。》と言って、私はリュックを下ろした。ただ、
ケビンは食べるものは何も持っていない。私の持っていたリンゴを半分ずつとクッキーを２枚ずつ食べた。( ﾟДﾟ)
《林の中から２匹のリスが出てきた。追っかけっこをしていて面白く、暫く見ていた。》
《聖人？？皆スタンプを押して貰う。バナナやリンゴは基本無料。》
《後ろ姿、右はペルーの元気な若者：サッカーボールを脇に抱えている。サンチャゴまで持って行く？》
午前９時半、ナヴァレテの手前でバルに入ると、ハンガリーのセルチョが休んでいた。《ヤー！セルチョ。元気か？》
《元気だよ。》とニコッと微笑みながら頷く。彼は暖かそうなスープを飲んでいた。そして、それを飲み終えると《では。》
と言って出て行ってしまった。《何か食べる？》と言って、ケビンはクロワッサンを頼んだ。大きくて美味そうだったが、
私はサンドウィッチとカフェコンレチェにした。
３０分程休んで出発。ナヴァレテのアルベルゲには１１時頃には着いてしまった。《時間が早いので、まだリュックが
届いていない。》とケビン。シャワーを浴びようにも着替えが無いので浴びられない。《しばらくベッドで休んでおれば
リュックはそのうちに来るよ。心配いらない。それよりＡＫＩ、先にシャワーを浴びると良いよ。》と言ってくれた。
ログローニョではレストランに入って旨いものを食べようと思っていたが、夕食の始まるのは午後９時からという
ことで入ることはできなかった。そこで、《今日こそはレストランで肉を食べるぞ。》と言って、昼食時間の始まる１時
を待って街中のレストランに入った。私たちはテーブルに白布の敷いてある上品な部屋に通された。マダムがメニュ
を持ってきてくれたが当然スペイン語。ケビンもスペイン語は分からない。私は《肉が食べたい。》と思っていたが、
《ホワイトアスパラとカラマレス（いか）》という字を見た途端に《イカの墨煮？これにしよう。》と頭の回路が急にそち
らに移ってしまった。ケビンはサラダと肉らしき１品を頼んだ。果たして出てきたのは、私のは《イカリングの天ぷら》
( ﾟДﾟ)。ケビンのは旨そうな骨付き肉。彼は牛だと言ったが、羊のようでもある。ただ、骨が多くて食べるところが
あまりない。( ﾟДﾟ) 格闘の結果、最後にはナイフ、フォークを止め、手や指で肉をむしり取って食べていた。それ
でも、２人でリオハ・ワイン１本を空け、満足な昼食だった。(^_-)-☆
《明日はナヘラまでバスで行きたいので、一緒にバス停を探してくれ。》とケビンに言われた。《今日でお別れだな。》
と言うと、《イヤ、ナヘラのアルベルゲで待ってるよ。》という。《遠慮しなくていいんだよ。》というと、《ブルゴスまでは
一緒に歩きたいんだ。》と言ってくれた。
その後、私たちはバス停らしき場所を探してみたが、ナヘラ行きのバス停が無い。丁度通り掛かったおじさんに聞い
て見ると、《ブルゴスまでは出ているが、ナヘラは通らない。》ということだった。( ﾟДﾟ) 結局、その後も一緒に歩く
ことになった。
《趣のある古い町並み》
ナヴェレテは大きな教会があり、趣のある古い町だった。昼食後私はケビンと別れ、街歩きを楽しんだ。石造り
の古い中世の町並みはどっしりしていて威厳さえ感じた。巡礼の町として栄えた様子が手に取るように分かった。
夕食は簡素だった。アルベルゲに戻る途中でスーパーマーケットに寄り、夜の食材をゲットした。ケビンはハム
とチーズさえあれば充分だといつも言っている。豆の缶詰とワインを開けた。ただ、昼間２人で１本のワインを空
けているので、流石に夜もというわけにもいかず、半分位は残してしまった。それは《明日泊まる人に飲んでもら
えば良い。》と言って冷蔵庫に入れた。代わりに（？）リンゴがあったので貰うことにした。
昼夜のワインが効いたのか、２人共８時半には寝てしまった。
《そして、真夜中事件が勃発した》( ﾟДﾟ)
つづく
