『「巡礼」は、フランス語では「ペルリナージュ」と呼ぶ。何らかの聖なる性格をまとわしめられた土地に向かい、
心には尊崇、献身、信仰の思いをしっかとこめて、幾山河をも越えて旅することをいとわぬ情熱がそれである。
フランス文化を愛して、これを極みまで学び究めようとねがうならば、ついには、このような性格の旅へと最後は
収斂していくはずのものではないだろうか。』 ＝「フランス巡礼の旅」田辺 保著 朝日選書＝
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Limoges（リモージュ）---Perigueux（ペリグー）---Port Sainte Foy（ポート・サン・フォイ）---Bazas（バザス)
---Mont de Marsan（モン・ ド・ マルサン)---Orthez（オルテズ） 歩行日数２４日間
歩行距離：４９３．３ｋｍ 歩数：７２５、０６３歩 （万歩計） 1日平均：２０．５５ｋｍ ザック重量：約１０ｋｇ
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８月８日（月）晴れ：Saint Martim le Vieux---Bussiere Galant 19.1km(44.4km) 28,060歩 ＣＨ（シャンブルドット）泊
昨日２０ｋｍ以上も歩いて着いた時のことを思うと、不思議に疲れが残っていなかった。ただ、肩の張りはある。
これも徐々に回復していくであろう。心配はなかった。今日も昨日と同じ位の歩行距離である。
カルメンの家を８時に出発した。まず、目指すはFlavignac（フラヴィニャック）。標識を注意して見て歩けば迷うこと
はない。丘を越えて、緑の綺麗な森を通って順調に歩く。１０時前にFlavignacに着いた。教会で少し休み、昨日
書いた家内と友人への絵葉書を投函した。こんな田舎からだと日本へはいつ着くであろうか。
《綺麗な森の中を歩む》 《標識も完備されている》
《ネムの木の花が満開》 《フラヴィニャックの教会で一休み》
途中、森の中で用意した昼食を食べる。今日もパン、鰯の缶詰、リンゴと変わり映えしないが、カルメンがレモン汁
入りの水をくれた。美味かった。(^_-)-☆ 約４０分の休憩の後、Bussiere Galant（ビュシ・ガラン）へ向かう。予定より
早く着いたので、Cafeに寄り、ビールで咽喉を潤す。約束の午後３時に市役所へ行くと、マダムが待ち構えていた
ように対応をしてくれた。１５分位すると今日泊まる宿の主人が車で迎えに来てくれた。
"Bonjour! Ca va?" 《こんにちわ！お元気ですか？》 大柄な人の良さそうなご主人だった。
"Bonjour! Ca va bien." 《とても元気です》 『私の名前はAKIと言います。よろしく。』 『ここから４ｋｍ位先だよ。』と
言って、彼は私に車に乗るように促した。車が走り出して、私は『アレッ？』と思った。車は私が考えていた方向と
は逆に走っているのだ。『明日はこの道を４ｋｍ歩いて戻って来るのかなあ？』と思いながらも、口に出すことはで
きなかった。『仕方ない。』と思うより他なかった。その間に車はドンドン走る。本当に４ｋｍ？と思うほど遠く感じた。
１０分もして着くと、まず、２匹の犬が『ワン、ワン！』と大きな声で吠えながら迎えてくれた。(>_<) 農家を改築し
た建物だった。早速、私は２階の部屋に案内された。比較的狭い部屋ではあったが、今の私には上等。きちんと
したベッドがあった。まずはシャワーを浴びた。すると本当に身体が軽くなり、すっきりした。『夕食は６時半にしよう。
その間、ゆっくり休んでください。』と彼が言う。『エッ？食事を作ってくれるの？』いわゆる、Giteではなく、CH（シャン
ブルドット）だった。
Giteというのは巡礼の簡易宿泊所で、一部屋に数人が寝ることができ、２段ベッドのところが多い。そして、
ベッドにはシーツと毛布が１枚。基本的には持参した寝袋に潜って寝る。管理人も常駐していないところも
あり、市役所やＯＴ（観光案内所）が管理している所もある。それに対してＣＨ（シャンブルドット）は管理人が
おり、食事も作ってくれるところが多い。ベッドもホテルのようにシーツ、掛け布団、毛布が完備している。
《Bruceお手製の【豚肉のミンチとジャガイモのパイ皮包み】ソースも美味しかった》
２時間程休み、村の中を一人で散策してみた。本当に小さな村だ。昨日のカルメンの村よりも小さい。後から聞い
た処によれば、人口は７０～８０人。ほとんどの家が牧畜を営んでいる。カフェなど店は１軒もない。彼、Bruceは高
校の科学の先生をしていたが、定年退職後ここに農家を買い、改築して住んでいるとのことであった。彼は５匹の
犬、３匹の猫と一緒に暮らしている。
８月９日（火）曇りのち晴れ：Bussiere Galant---La Coquille 14.7km(59.1km) 21,566歩 Gite泊（１泊２食：２０€）
今日はこの２日間と比べると歩く距離が短いし、Bruceが予約してくれたGiteの開くのが午後３時ということから、
１１時に出発すれば十分だと考え８時過ぎに起きた。疲れもほとんど感じず、『朝シャン』をした。気分がすっきりした。
朝食を済ませ居間でくつろいだ後、宿泊代金を払おうとすると、『ゼロ！』という。『いや、美味しい食事もいただいた
しゼロではいけない。』『いいんです。』 予約してくれた観光案内所のマダムに聞いてはいたが、食事付きとは思っ
てもみなった。『なぜですか？』と尋ねたところ、説明が難しくて詳しいことは解らなかったが、『支援してくれるパトロ
ンがいる。』ようであった。私は恐縮して、１００円ショップで買った『祭』と書かれた扇子を差し上げると、喜んで受け
取ってくれた。
《＊息を呑む かがやく緑の 巡礼路＊》
Giteを出て暫くすると、雨がパラパラ落ちてきたので急いでカッパを着たが、幸い大振りにはならず直ぐに脱いだ。
１時間も歩くと国鉄の駅に着いた。Giteから駅までは昨日Bruceが私を迎えに来てくれた町までは戻らず、抜け道を
教えてくれたので、予定していた距離よりもむしろ短かかった。駅舎の前のバス停で昼食とした。今日もパンにサバ
の缶詰にリンゴ、相変わらずだ。フランスのパンは美味しいのだが、さすがに３日も経つとパサパサになっていて、
ペットボトルの水で流し込んだ。
Bruceに教えられたように国鉄の線路に沿って歩く。目指すLa Coquille（ラ・コキーユ）までは《巡礼の路》とはルート
を外れている。従って、サン・ジャックマークがない。少し不安であったが地図を片手に、出合わせた人に聞きなが
ら教えられたように歩くしかなかった。途中、何度か迷ったところもあったが、何とか、予定の午後３時半にはBruce
の予約してくれたGiteに入ることができた。
《見事な尖塔のLa Coquille（ラ・コキーユ）の教会》
Giteでは、ブルターニュ・レンヌのおじさん、ベルギーのお嬢さんと一緒だった。午後７時半夕食である。簡素な
昼食であっただけに腹はペコペコ。Giteのマダムが作ってくれた、サラダ、ラタトーユ、ソーセージ、そして勿論飲
み放題の赤ワインがとても美味しかった。食事後、Giteのご主人が、《名古屋に行ったことがある。》と言って、
私に写真を見せてくれた。名古屋市内の居酒屋で映した写真が沢山あり、話に花が咲いた。
午後１０時就寝時間となり、歯磨きをしていて気付いた。『アッ！入れ歯をどこかに忘れた！』(>_<) 私は
右下奥歯１本、入れ歯をしている。『そうだ。朝、顔を洗ったときに洗面所で外した覚えがある。』 Bruceのとこ
ろに忘れてしまったのだ。もうどうしようもない。このことをマダムに話すと、彼女は心配顔になった。『大丈夫、
大丈夫！』と、私はむしろ自分に言い聞かせ、諦めるより他なかった。
＊忘れ物 アー忘れ物 忘れ物＊
８月１０日（水）晴れ：La Coquille----Tiviers 19.5km(78.6km) 28,747歩 Hotel泊（１泊素泊：７０．６６€）
昨夜はどうも『寝言』を言ったらしい。『授業中生徒が騒がしく言うことを聞かないので、大声でどなりつけてい
た。』そんな現実的な夢を見た。定年退職をして１０年以上も経ってから見る夢ではないと、何となく自分を恥じ
る思いだった。ただ、これは《絶対寝言を言った》と思って、朝食時に聞いてみた。レンヌのステファンは遠慮し
てか「知らなかった」と言ったが、ベルギーのジュリーは「何か喋っていました。」とニコニコしながら答えた。
(^_-)-☆ ヤッパリ。
午前７時半、私が最初にGiteを出た。今日は全くの快晴。『午後は暑くなるぞ！』 森の中を快適に歩む。サン・
ジャックマークが完璧に表示してあり、迷うことはなかった。巡礼路はその地区の『カミーノ協会』なる組織が管
理している。マーク表示も適宜なくなっていないか調査をし、修復しているとのこと。感謝、感謝である。
《シュマン（巡礼の小路）を行く》
《若い彼らはGiteを遅く出ても、直ぐに私を追い抜いて行く。》
《野辺のブラックベリーの実 甘くて美味しい》
《ティヴィエ遠望：遠くに教会の尖塔が見えたときは嬉しく、元気が出る。あそこまで！あと２ｋｍ》
Thiviers（ティヴィエ）のホテルには午後１時半頃についた。昨日泊まったGiteのマダムが予約してくれた。レンヌの
ステファンとベルギーのジュリーはキャンピング場に泊まる。私も誘われたが、ルートから少し外れていることやたま
にはホテルに泊まって一人でゆっくりするのも良いという思いもあって、かなり高かったがホテルにした。
着いてまずシャワー、そして、洗濯。少し休んで４時頃から食材購入の
ために街に出る。ついでに、旧市街地をブラブラ。結構観光客がいた。
５時頃ホテルに戻り、前庭でビールを飲みながら休んでいた。暫くすると、
『何と、何と！』 半ズボン、吊りバンドをしたBruceが門から入って来る
ではないか。『ヤー、ヤー、ボンジュール、サヴァ？（元気？）』
私は当に狐につままれた思いであった。『なぜ、ここにBruce?』
『ＡＫＩ 入れ歯を持ってきたよ。』 ケースを渡された。(^_-)-☆
彼は私が昨日泊まったGiteのマダムに電話して、私の居場所を聞いて
３０ｋｍも離れたホテルに車で届けてくれたのだ。 感動!(^^)!
＊忘れもの 心が届いた 巡礼路＊
つづく
