〜ビーノで乾杯!(6)〜
ガリシア・バスク編
【ガリシアの小さな美しい漁村・セデイラ】
ガリシアを行く
気が付くと朝になっていた。疲れていたとみえて、ぐったりと寝込
んでいたが、ふと窓からの明かりを感じて起きた。小さな四角い窓の
隅に土でできたマリア様の像が置いてある。朝の光に浮き出された像
に思わず手をあわせる。そんな生活がここにあるのだなあと思う。時
計は午前7時を指していた。外に出てみるとアストリアス独特の、ガ
リシアとは違ったオレオと牛小屋がある。朝食のためにいかにも人の
良さそうな主人が牛の乳をしぼっている。何ともけだるくも、落
ち着
きのある鳴声が、朝の静寂をくすぐる。イチゴ畑に露が降りている
真
っ黒な土が足の裏に心地よい感触を伝える。出口にはめずらしい木靴
が置
いてあるのを女房が見つけ、それを履いてはしゃぐ。ヴィジャヴ
ィシ
オーサの冷たい空気が体の中に生気を呼び戻してくれた。
朝食は絞りたての牛乳、手
製のクッキーとパン。夜中に
着いて朝早く出
なければいけ
ないので、この老夫婦とゆっ
くり話す時間はなかったが、
娘2人がオビエドの大学に行
っているという。スペインで
大学に通っ
ていると言えば、
かなりのインテリである。姉
の方はジャーナリスト
志望。
日本にも大変関心をもってい
るので写真を送つてほ
しいと
依頼され、名刺を渡された。
“テネン・ガルシア・ガルシア”
とあった。
上:ビジャビシオーサの朝 下:バールにて | 上:牧歌的な風景 下:昼食、美味しいワイン付き |
***
一夜の礼を言い、泊り賃を聞くと5000ペセタ(約12500円)
これには皆ピックり。前日のセデイラのホテルのほぼ2倍
とられたの
だ。私たちが泊る所がなくて困っていたので
足元を見られたのダ。
ラ
ルフの話ではレストランのウエイトレスが紹介料を
取っているはずだ
という。何となしに後味の悪さが残った。
サンタデ−ルに向ったのは午前8時であった。
アストリアス地方は
工業地帯なので道路はすばらしく良い。リバデ
セージャの街を出て、
広い道路となり丁度スピードを出しかけたとこ
ろで、道端に横転して
いる車を見つけた。
“Be carefull!”
入江の中につき出た半島の山の上に教会の鐘楼が見える。朝日が静
かな水面を照らす。そして、その向こうに古城が見える。サン・ビセ
ソテ・デ・ラ・パルケーラの町が眼下に広がっている。将に、箱庭の
ような美しさであった。
「またいつかもう一度来てみたいなあ」と私は呟いた。
いよいよバスクへ
雨の中をバスが走る。高速道路は山を切り開
いて造られており、名神や東名高速道路と同じ
ような景色が続いた。スペインでも最も工業化
の進んだこの地方は、むしろ、スペインらしさ
が感じられない。ただ、途中とてつもなく大き
な岩盤の出ている所があり、そこだけは奇景で
あった。約1時間の旅でサン・セバスチャンに
着いた。時計は午後1時30分を指していた。
その日の夜行でパリに出るのだが、それまでに
約7時間ある。バスの着いた広場からスーツケ
ースをガラガラ引
いて、国鉄の北駅へ向う。荷
物を持っていては行動も制約されるのでBarに入り、そこで預ってもらうこ
とにした。若い店員は私たちに大変愛想がよかった。そして、荷物預りも快
よく引き受けてくれた。バスク地方ではスペインからの独立を目指すグルー
プ、【エタ】やアンダルシア地方出身の多い警察官との衝突で爆弾事件が時
々ある。そのため駅などに荷物預りはあっても預ってもらえないことが多い
のだ
という。私たちはビーノとコーヒー、ミルクをたのんだが、隣の人が大
変美味しそうな「イカのすみ煮」を食べていた。ここのは本当に真黒で、見
た目にはむしろグロテスクな感じであ
る。
地下にレストランがあることを知ったので、私達はそこで昼食をとること
にした。そして,佐藤さんと私が、グロテスクだがあまりにも美味な臭いに
負けて【イカのすみ煮】を注文した。出されてあらためて驚いた。これ以上
の黒はないという程真っ黒なのだ。味はイカそのものの甘さとすみの深みの
あるうまさが大変よく合っていた。セデイラの【イカのすみ煮】にはガッカ
リしたが,ここのを食べて大満足であった。佐藤さんが少し残したので、ラ
ルフがイ
カをパンにはさみ、紙ナプキンにつつんでみつ子の大きなバスケッ
ト
に入れた。
昼食の後、切符を買うために北駅へ行った。そして、パリまでの乗
車券と
午後8時55分発のマドリー発、エンダイア(国境のフランス側の駅)行き
の特急券を手に入れることができた。エンダイアからフランス国鉄の特急に
乗りかえてパリへ出るのだ。出発までにまだかなりの時間があったので私た
ちは、ラルフ・みつ子組とは8時に先のBarで会う約束をして、街へ出てス
ペイン最後の買い物を楽しんだ。
列車はサン・セバスチャン北駅からエンダイアに向けて定刻に出発した。
私たちは大きなスーツケースを通路に並べた。車内はかなり混んでいたが、
女性陣は4人一緒に座ることができた。ラルフと私は通路に立って、いよいよ
終わりに近づいた旅の思い出に浸っていた。
列車はスペインとフランスを分けるイゲル川をゆっくりゆっくりと渡る。
エンダイアの街の明かりが近づいて来る。
***
ところが、この後とんでもない事が起きてしまった。
つづく
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