=PARIS夏物語=(2)
3 ボンジュール・トレビアン・サヴァ!
“Bonjour!MIZUNOsan.Très bien ça va?”(おはようございます、水野さん。
お元気ですか?)
朝食を採るために1階の食堂に行くと、いつものおばちゃんが挨拶してくれた。
私たちは、この2ツ星のホテル・スラビアにはもう10回以上泊まっている。4年ぶり
であっても顔を覚えていてくれる。
「ボンジュール・トレビアン・メルシ!」私たちも懐かしく応える。
“Café?Thé?”(コーヒーにしますか?紅茶にしますか?)
「カフェオーレ」
“Café au lait.Ok!”そして、直ぐにコーヒーとミルクをいつもの陶器の入れ物
に入れて持ってきてくれた。
“Bon appétit”(どうぞ召し上がれ)パリの朝食は簡素である。要するに、パンと
コーヒーだけである。ヨーロピアンスタイルのホテルならどこのホテルでも一緒だ。
慣れればどうということはないが、最初はチヨットもの足らなかった。
「このバケットが旨いんだ。」と言って、私は4年ぶりの味を楽しんだ。
「それにこのカフェオーレ、どうしてこんなに美味しいんかね」女房もまたパリの
朝を満喫している。
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朝食後、ヴァカンスでパリにいないオーナーのソーレ氏ご夫妻へのみやげを持って、
フロントのY氏に前日のバスの忘れ物の話をすると、
「ノー、プロブレム!大丈夫、大丈夫、私からバス会社に電話をしてあげましょう。
ただ、まだ時間が早い。後でね」と気軽に言ってくれた。
99.999%諦めていたが、見つかるかも・・・・・・
4 盛夏の花園〜パリ植物園
ホテルから歩いて15分程のところに、パリ植物園がある。私たち夫婦は、肌に心地
よい朝の冷気がまだ残っている午前9時にホテルを出た。広いバス通りから路地の商店
街を抜けると小さな広場があった。カフェテラスはまだ早くてやっていない。若い女
性の店員さんが、竹箒で店の前の道路を履いている。
“BONJOUR!”(おはようございます)
「ボンジュール」見知らぬ人にも気軽に挨拶する。フランス人の清々しさである。
若いマドモアゼルから気持ちのよい挨拶を受け、『今、自分はパリにいるんだ』と
いう雰囲気に浸った。
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植物園のプロムナードは圧巻である。はとんど1Kmに達しんとするプラタナスの並
木のトンネルがある。外側はきちんと直線的に刈り込まれ、内側は、丸くトンネル状
になっている。日陰のベンチに腰掛けると、ひんやりとした風が肌を抜けた。
「ああ〜、いい気持ち」と言って、女房が背伸びする。
「夏のパリの贅沢だナ」パリは四季を問わず、いつ訪れてもその良さを持っているが、
『暑い真夏には、是非、公園の日陰でゆっくりしたい』それが私の夢なのだ。この贅
沢は何ものにも代えがたい。パリ第1日目にまずそれを体感した。肌をさらりと柔らか
な風が通り抜ける。これがパリの夏だ。
「見てヨ。綺麗な花」手入れされた花壇に係の人が水をやっている。
「ああやっていつも水をやっているからこれだけの花壇が維持されているんだよな」
「これを豊かと言うんだよね」と女房は目の前の光景を楽しみながら言った。
ベンチには、人生を知り尽くした老人が、朝の冷気を楽しみながら自分の過去を振り
返っているかのように、静かに物思いに耽っている姿があった。これもパリの風景だ。
【パリ植物園】
5 何するの!〜パリ地下鉄で
植物園前からバスに乗ってリヨン駅に出た。2日後にオーヴェルニュに旅立つ切符を
購入するためである。インフォメーションに行き、順番の札を貰って待つ。『初めて
ここへ来たときは、様子が解らず大変だったなあ』と多少感慨深かげに10年前のこと
を思い出していた。旅好きの私にはこのインフォメーションの雰囲気が何とも快い。
順番を待つ人々の目が輝いている。
“ピンポン!”と快い音がして、自分の順番が来ると、いそいそと窓口に向かう。幸
福行きの切符を手に入れるかのごとくである。そんな楽しさがインフォメーションの
雰囲気にはある。
“BONJOUR!”(こんにちは)窓口のお兄ちやんは、にこやかに私たち夫婦を迎えてく
れた。『8/12 ST.FLOUR 2CLASSE』と書いた紙片を窓口に出す。そして同時に、
『ドゥ』(2人だ)と右手の親指と人差し指を立てて言う。お兄ちやんはコンピュータ
のキーボードを叩く。そして、
「お待たせしました。サン・フルールまで2人、8月12日、二等車ですね」と言って
(いると思うのだが)、青い大きな切符をくれた。
「コンビヤン?」(いくらですか)と言ってはみたものの、
“〜*★☆▼△〜〜”フランス語である。解る訳がない。そこで、手で書く真似をす
ると大抵が紙に書いてくれる。これでOK。切符の買い方も慣れてしまえば別に難しい
ことではない。
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パリの地下鉄は本当に安くて便利である。市内なら一区間の料金でどこへでも行け
る。130円位である。乗り換え、乗り換えして行けば良いのだ。リヨン駅から地下鉄で
サンジェルマン・デュ・プレまで行くことにした。
「こっちだよ」と言って私が先に起つ。女房は後からトコトコと私に付いてくる。私
は完全に彼女専用の添乗員である。学生時代には真剣に旅行代理店に就職しようかな
どと考えていたのだから『まあそれもいいか』と思っている。それにしても、いつま
でたっても彼女が一人で地下鉄に乗れないということが私には理解できない。『私は
そういうことが苦手なの』と言って、あっけらかんとしている。添乗員を完全に信頼
しているのだ。
私たちは、連絡通路を抜けてホームに出た。暫らくすると電車が入って来た。
「さあ、乗るよ」と言って私は先に電車に乗った。その時、突然、
「何するの!」という大きな声。びっくりして振り返ると、彼女がナップ・サックを
抱えて、大急ぎで電車に乗り込んで来た。中学生位の少年がホームを走り去って行っ
た。ドアが閉まって電車が発車した。
「どうしたの?」と聞くと、
「何か後でモソモソするんで気が付いたの。ナップサックのファスナーを誰かが開け
ようとしていたの」確かに、ファスナーが半開きになっていた。『何するの!』の
−括は、いつもの彼女からはチヨット考えられないことであった。強い『おばさん』
を見た感じであり、頼もしくさえ思えた。そして、例の『アレッ・ドキッ症候群』は
もう完全に治っていた。
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【地下鉄の演奏会】
=(3)へ続く=