フランス・旅の極意 ルッソン8
Leçon1 旅にテーマを持つ
私が初めて海外旅行に出掛けたのは、1976年(昭和51年)、
32才の時である。職場の同僚から「ヨーロッパはすばらしかった」という
話を聞いて行きたくなってしまった。勿論、旅行社主催のツアでフランス・
イタリア・スペインの3ケ国を巡る旅であった。見ること、聞くこと初めて
のことばかり。中学校の教科書に出てくるような有名な絵や歴史的建造物、
街の景観やその雰囲気、30年以上経った今でも鮮明に思い出すことができ
る。ただ、その時の感動は確かに思い出されるのだが、私の人生の奥にまで
入り込んでくる、中味の濃い思い出ではない。それから数年後の4回目の海
外旅行は個人旅行であった。スペインに住む友人に誘われて、航空券だけを
買って4人で出掛けた。男性は私1人。3人の女性群は、心細い私の思いを
よそにウキウキしている。マドリードのバラハス空港には友人ご夫妻が迎え
に来てくれて、出会えた時には本当にホッとしたものだ。そして、友人の運
転するレンタカーに乗ってキリスト教の聖地、サンチャゴ・デ・コンポステ
ーラを訪ね、北海岸のガリシア、バスクを廻りパリに出た。(「ビーノで乾
杯」HP)
この時の旅は、その後の私の人生に大きな影響を与えた。色々な書物を読
み、中世ヨーロッパにおける《巡礼》の意味を知り、幾度となくその聖地を
訪ね、歴史の重みや人々の懸命に生きる姿に触れた。大聖堂に身を寄せ、何
百万人もの人が触れたであろう柱に手を添えることによって私の魂が揺さぶ
られ、人生の襞にまで入り込んでくる何かを感じたのは確かである。2~3
年後には、是非再びサンチャゴ・デ・コンポステーラに行ってみたいと思っ
ている。私のこれまでの旅のテーマの多くは《巡礼》であった。
《テーマを持つ》ことによって旅が面白くなり、また、深みを増したこと
は確かである。何でも良いと思う。一人の画家や作家に絞って由来の土地を
訪ねるも良し、食やワインに関心を持って出掛け、それを味わい、また、土
地の人たちと話して新しいことを知り、感じてくることもすばらしいことで
ある。
《旅は人生を楽しく、そして豊かにしてくれる》旅にテーマを持って出掛
けることをお薦めしたい。
(つづく)
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