フランス 旅の極意 ルッソン8
Leçon6 旅は人
① フランスの友人Yからクリスマスパーテイに招待された。Yの兄さんの家に家族が
集まるという。私たち夫婦は、パリから列車で東へ2時間半、ナンシーの駅頭に立っ
た。アールヌーボー調の建物もあり、町全体が博物館のようであった。Yは約束通り
車で迎えにきてくれていた。市役所前のスタニスラス広場(世界遺産)などゆっくり
観光した後、兄さんの家に着くと、私たちは大歓迎を受けた。そして、Yから兄さん
の離婚した奥さんと更に、その奥さんの妹さん夫婦とその子供達を紹介されたのには
正直驚いた。兄さんと奥さんの関係は離婚してからの方が良くなったという。日本人
とフランス人の結婚観の違いを思う。また、Yの姉さん家族も遠くオーヴェルニュか
ら駆けつけ、総勢15名くらいになった。外国から突然現れた私たちからの贈り物は、
幼い子供達にとっては本当にサンタクロースが出現したかのようであった。そして、
私たちはと言えば、七面鳥の丸焼きやエスカルゴのニンニクバター詰め焼きを一生分
食べた気分であった。
また、家は内装工事の真っ最中で、兄さんが自分でこつこつと造っているという。
電気やガスの配管、水周りまで全て自分でやる。廃品の鉄製の立派な螺旋階段を買っ
てきて、《来週これを付ける》と言って、壁に立て掛けてあった。
「多分、あなた方が十年後に来たら完成しているでしょう。」気の長い話だ。当に、
ピーター・メールの『プロヴァンスの12ケ月』の世界である。
フランス人はおしゃべりが大好きである。クリスマスパーテイは真夜中まで続いた。
フランス語が解らない私たちでさえ、楽しく、夜遅くまで話し込んだ。
② ルクセンブルグの安宿で出会った彼女は、フランス東部の片田舎、【ルネヴィル】
で刺繍を勉強しているという。そう言えば、メッスの駅でルクセンブルグ行きの列車
に乗り込む彼女を見かけた。旅行案内書に載っていたホテルに着くと彼女がいた。学
校の休みを利用して小旅行に出たという。そして、余程縁があったのか、町中でも出
あった。夕食は私たち夫婦と3人で、ホテルでピクニックをすることにした。
サラダ、トマト、アスパラ、サケ缶、チーズ、ワイン、美味しいパン。これだけあれ
ば十分である。
彼女は盛岡から一念発起して、『ルネヴィル刺繍』を勉強しに来ているという。生
徒は南米のコロンビアから来た生徒と2人きりでみっちり仕込まれている。その学校
としては日本人は初めてで、期待の星という訳だ。彼女の作品の写真を見せて貰った
のだが、大変細かな作業で、根気のいる作業である。
また、彼女は趣味として銅版画を掘っている。これ又写真を見せていただいてビッ
クリ。なかなか、趣味の領域を遥かに越えている。彼女が日本に戻ってから、素晴ら
しいチューリップのリトグラフを送ってくれた。わが家の食堂の壁に掛けてある。
***
旅を通じての数々の人たちとの出会い。それは私の人生を確かに豊かにしてくれた。
人と人との個々の繋がりは、国や民族や宗教をも乗り越える強さがある。要するに、人
は皆同じという人間の基本的な存在価値を旅を通じて実感することができる。
旅は確実に視野を広げ、ものの見方や考え方を換えざるを得ないことに遭遇すること
がある。旅に人が介在するとなおさらである。だから旅はおもしろい。
【カンタールの山の上のレストランで】
(つづく)