半世紀近く前の、「子供の科学」1973年9月号に、タミヤの「プラバン」を使ったレーシングカーの模型が紹介されていました。誌面画像の一部を上に引用させていただきました。
当時、こういう工作は、木材とボール紙で作るのが定番だったため、オールプラスチックの工作は珍しいものでした。
前からちょっと気になっていたので、今になって作ってみましたが、諸般の事情で3Dプリンターによる製作になりました(単に楽だったから)。
2020.6.11
この工作には、1.2mm厚・0.5mm厚のプラバンを使用します。他にRE-140モーター、直径28mmタイヤ、電池ボックス、スイッチが必要です。
本誌の原形では、一番長い部品である側板が161mmあり(全長190mm)、私の安物プリンターで造形できません。しかし、たまたま買ってあったタイヤが直径24mmと少し小さかったため、これに合わせて車体を元の0.86倍に縮小し、ギリギリ造形できるサイズになりました。
縮小後のおおまかな寸法はこのような感じです。最初に全体を元の寸法でモデリングしてから0.86倍に縮小し、それによって薄くなる板の厚みを再修正して作りました。
0.5mm厚が使われているところは3Dプリンターの造形では薄すぎるので、適宜厚くしてあります。他、実際に使ったタイヤの幅に合わせて一部寸法を調整しました。
ボディーの完成イメージです。白いプラバンで作れば、未塗装でもきれいなものになりそうです。
ただ今回使うのは、すぐに分離沈殿してしまう水洗いUV樹脂なので(手持ちの白がそれしかなかった)、外見がボロボロになるのを覚悟しております。
データは3D CAD(Autodesk Fusion360)を使用して製作しました。実際にプラバンに作図して切り出した部品を、接着していく過程と同じです。
各部品の形はほぼ元記事と同じのため転載できませんので、こういう構造になっているというご紹介にとどまりますがご勘弁ください。
最初に上板に左右の側板を接着し、クサビ形のフレームにしました。
ひっくり返したところです。片側の側板の後部には丸穴が開けてあり、ここにモーターのシャフトのボスがはまり込みます。
また、その位置の軸受けのみ、他の3箇所よりも1mm深く彫られています。
軸受け部分には、もう一枚1.2mm板を重ねて補強するように書かれています。
電池ボックスとモーターを取り付けます。
本当はころんと丸くて可愛い?RE-140モーターを使うのですが、車体を縮小したおかげで収まらず、FA-130に変更しました。FA-130はプラ模型の車にもよく使われていましたが、実際便利なんですね…。
電池ボックスも手持ちの品が収まらず、3Dモデリングで一体化しました。それでも一部が仕切り板にめり込んでいます。本誌作例と異なるのはこのあたりだけです。
前後パーツの接着。
基本部品はほとんど1.2mm板ですが、本誌の部品図の寸法は厚みを1.0mmとみなしているようでした。あまり細かい単位で定義しても、子供の鉛筆による作図では正確にできませんし、切り出しも難しいですものね。
ふだん鉄道模型を自作される方は、0.2mm単位の相対量なんか簡単に読めるという方も多いと思いますけども。
後部の板の接着。
左右の側板と、床板の接着。
側板は大きな曲線が数か所あるので、プラバンをカッターで切り出すのは割と難しいですが(刃先がちょっと欠けちゃったり…)、3D CADでは簡単です。
フェンダーの内側にも曲線で切り出した板を接着。
実体が手元にできていくわけではありませんが、画面上でも少しずつ形ができていくのは楽しいです。
このあたりから、寸法が記されていない部品が多くなり、現物合わせやフリーの工作になります。
フェンダーカバーは元記事では0.5mm板を大きめに切ってあてがい、透けて見える骨組みを鉛筆で写し取り、ハサミで切って合わせるように書かれていました。 なお3Dプリンターでは厚さ0.5mmでは少々弱いので、1.0mmにしました。
残りの部品は、本誌の完成写真を見て大体の大きさを決めて取り付けました。これでボディーは完成です。まだ実体がありませんけど。
(以上、部品番号と部品名称は本誌より)
白い樹脂で造形したかったのですが、手持ちの白はすぐ分離してしまう水洗い樹脂だけでした。
新しい樹脂を買うほどの工作でもありませんし、途中で機械を止めて撹拌しながら造形すれば、分離しやすい樹脂でも何とかできるだろうと考えました。
使用した3Dプリンターは、Anycubic Photon です。
造形物が大きいため横置きできませんので、2分割して垂直に立てました。それでもサポートを付けると車体はギリギリです。
ここまで大きいものを Anycubic Photon で造形したことがなく、ちゃんとカタログスペック通りに最後まで作動するか不安もあります。
造形時間の見込みは17時間です。
この白い部分が造形物です。開始約13時間目です。
あとでお見せしますが、分離するなんてものじゃなかったです。20分もすれば、目に見えて顔料が沈殿し、上澄みができてきます。
当初、3時間ごとに止めて撹拌しようと思いましたが、1時間ごとでも足りないぐらいです。とはいえ、夜通しそんなに頻繁に付き合っていられません。
ちなみにこれはWANHAO製の水洗い樹脂で、これでも分離しにくいよう改良されたあとの品です。購入したのが1年以上前なので、今はまた変わっているかもしれません。
造形終盤です。あと1cmぐらいのようですが、機械の上端がもうつっかえそうです。
造形物の縦サイズに加え、1層の造形ごとに機械が上下する高さが5ミリ程度必要なのです(事前に設定可)。
万一ぶつかったら、ちゃんとそこで停止するように作られているのだろうか?いやこれは何とも言えないなぁ…。
ついに終わりました。
最後のほうは、一時停止しても造形物がほとんどバットから上昇できないので、樹脂をヘラで撹拌することもうまくできませんでした。
これは ひどい(笑)
どんどん分離していき、みるみる造形色が(おそらく性質も)変わっていきます。
いたるところにある年輪のような線は、1〜2時間ごとに機械を止めて撹拌し直した跡です。機械を一定時間止めると造形面も少し冷え、変形の度合いも変わってくるので、そこに段差もできます。普通は、途中で止めたくないですヨ。
夜間、撹拌の間隔が開いたところがあり、一部断裂しかかっていました。危ないところでした。
あとで、接ぎを当てておきましょう…。
分離による造形ムラも考慮して、露光時間を長めにしておいたのですが、もっと上乗せしておかないとだめだったかも。
一部、ボディー表面にも穴が開いていました。しかし、さっきのような断裂が表側に出なかったのはある意味奇跡。
水洗い樹脂は造形物を水で大雑把に洗えるのが一番の利点で、それはアルコールが十分使えない状況では大変助かります。しかし、使った樹脂は造形後いつまでもベトベトしており、なかなかサラサラに乾ききった感じになりません。この記事を書いているのは造形後4日目なので、だいぶべとつきはなくなりましたが、まだ表面の手触りは固形石鹸を触っているような感じです。独特の鋭い臭いも、ずっとしていますね。
ここからは1時間もかかりませんが、一番楽しい作業です。
モーターと電池ボックス金具、スイッチを取り付けて配線しました。
モーターの後部を押さえている板が他より白いのは、これだけ後付けのプラ板だからです(一緒に造形してしまうとモーターが付けられません)。
スイッチは、本誌では小型のプッシュスイッチが使われていました。押し込めばON、引き戻せばOFFになるタイプです。当時の模型店には数十円の安い品があったのですが、今はないので、手持ちのトグルスイッチを使いました。
車軸は直径2mmの真鍮棒をペンチで切って作り、ゴムタイヤににゅっと差し込んで使いました。
車輪を軸受けにはめると、モーターのシャフトがタイヤ表面に接触して動力を伝えるしくみです。別途ギヤボックスが必要ないので、簡単な自動車工作としてはよく行われます。
モーターのシャフトがタイヤによく接触するよう、この位置の車輪の軸受けのみ、他の箇所よりも1mm深くなっています。
動きを確かめてから配線の接続部をハンダ付けし、軸受けにプラバンの細帯を接着して車輪が落ちないようにしました。
車体を持ち上げると、タイヤが少しモーターのシャフトから離れて回転が止まるため、扱いやすいです(その間、モーターは無負荷で回ることになりますが)。
完成??しました。
謎のシマシマですが、全体は丈夫でしっかりしています。
これ本当にプラバンで作ったらきれいでしょうね。
これが思ったより調子よく走りました。片側のタイヤにモーターを押し付けているので、バランス悪そうと思ったのですが、まあまあです。
動画が再生できなかったらごめんなさい。
同じFA-130モーターで走る3Dプリンターの蒸気機関車(D51)と。
スイッチを入れたら、あとはどうなるかハラハラしながら見ているしかないという点で、面白さも同じです。
以上、使う道具と素材は違いますが、昭和40年代の記事をもとに工作したら普通に楽しむことができました。ありがとうございました。