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2009.6.12
早いもので、トレインショップの全金属・NゲージC12が衝撃的なデビューを果たしてからまもなく10年です。同社が日本型蒸機の新作を手がけた期間は長くはなく、あっという間の2年でしたが、Nゲージの蒸気機関車の可能性に確かな足跡を残しました。 商業的に成功したのかどうかはわかりませんが、これらの形式を待ち望んでいた人たちの心に、ずっと残る模型となったことは間違いないと思います。
なお、どれも模型について知識と経験がある人を想定して作られている金属模型であり、初歩の方には向きません。
1999年8月末の発売です。この頃はアリイ(現マイクロエース)がNゲージ蒸気機関車に参入し、ワールド工芸のテンダードライブシリーズも少しずつ数を伸ばし始め、Nゲージの蒸気機関車が今までになく活気付いてきた頃です。
C12 |
C12 (拡大写真) この頃NゲージのC12は、有名なナカセイ製品がすでに伝説となり、欲しくても入手できない状況でした。 そこにこのフォルムと精密度でいきなりC12が登場したのですから、驚きをもって迎えられました。 基本的にはトレインショップの直販で、初回の値段は4万1千円でした。もちろん完成品です。 |
内部にはF-1016コアレスモーターが収まっています。ボイラー径を1/150で作ると薄い金属車体でもこのモーターは入らないので、火室部分のテーパーを少し太くしてスペースを作っているようです。これはNゲージのプラ製品にもよくある手法ですが、全体のバランスが優れているためそれほど不自然に見えないと思います。 前デッキの角度は実物より少しゆるやかになっています。これは曲線通過に伴う先台車の逃げを考慮したものと思います。走りは非常に静かで、ジージーいう感じがまったくなく、スルスル…という感じに動きます。 |
積まれている石炭はHO用かもしれませんが、Nゲージとしては粒が粗く、これが最後の製品まで引き継がれます。
事前にWEBで予約した人の一部には代引きで届けられたのですが、この送付方法が事前にはっきりわからずに、びっくりした人もいたようです。ある日帰宅すると、奥さんに天井までめり込む長さの角が生えていた、なんていうこともあったようですね。「前からあったよ」と言うつもりが初めから敗北した瞬間でしょうか。
なお、ほぼ同時期に乗工社から、有名なC56キットが発売されました。これが乗工社最後の製品になってしまいました。またこの4ヵ月後に、アリイからもC12が発売されました。模型の性質やターゲットがまったく違っていたとはいえ、告知時期がトレインショップ製品の発売時期と重なっていたことから、やはり影響はあったものと思います。
2000年5月の発売です。前作のC12から1年経っていません。アリイからは同じ年の1月に、すでにC56が発売されていましたが、このトレインショップ製品は一連のシリーズ中、現在に至るまで最も人気の高い製品ではないかと思います。
C56 |
C56 (拡大写真) 前年に発売された乗工社のC56がテンダーモーターであったのに対し、トレインショップはとことんエンジンモーターにこだわった模様です。これは発売告知時の同社のWEB広告からも見て取れました。 |
C12と違って開放キャブのため、モーターがより前側に位置しています。このためシャフトを延長したコアレスモーターを特注して対処したとありました(具体的な問題と解決方法は把握していません)。 当時すでにあった超小型の携帯モーターなら、モーターを完全にボイラーに内蔵することもできたのでしょうが、それではとても同じ走行性能は得られなかったことと思います。実際、スムーズによく走ります。 |
取り扱いにはそれなりに注意が必要ですし、手作りによるばらつきはありますが、プロポーションと走りをここまで両立させたC56の模型は他にありませんでした。この時期にトレインショップが手がけなかったら、このような製品はなかったかもしれません。製造したサムホンサは、もうありません。
この製品の希望小売価格は失念してしまいましたが、初回のWEB先行予約はかなり安く、¥49,300でした。一般的なプラ製品に比べればもちろん高いのですが、現在のワールド工芸や天賞堂の完成品に比べるとウソのような安さです。どうしてこのときに、無理してでももっと買わなかったんだろうと後悔することしきりです。
2000年9月の発売です。C56からわずか4ヵ月後です。また、三菱美唄2号機と真谷地5056の2種が同時に発売されました。
値段は¥68,000と大幅に上がりましたが、このときは競合がなかったこともあり、恐らくこのへんが妥当な価格設定だったのだろうと思います。
4110 真谷地5056 |
4110 真谷地5056 (拡大写真) C56の発売から日がたっていなかったこともあり、いきなり4110という微妙な形式が発売されたことにはかなり驚きました。日本型のNゲージでは初のE型蒸機です。 |
初めて説明書に手作り製品であることが触れられ、組み立てについて気に障る点があった場合はご容赦くださいとのおことわりが載るようになりました。たとえ個人的なワンショットの模型でも、ここまで作れる人はそう多くはないと思うのですが、その点を理解してもらえないことがあったのでしょう。 模型の主動輪は第二動輪で、そこが可動式ギヤケースになっています。第三動輪はフランジレスです。 |
いかにも古豪という感じの表情です。前面のエプロンにもなっているシリンダーブロックはロストのようで、ロスト表面のざらつきのため、ちょっとヨボった感じ(わけ分からん表現…)になっています。 でもそれが、まるで補修を重ねた実物の塗装のようで、実際に手にとって見ると妙に生きた感じに見えます。もしプラ量産品がこうであれば、怒られてしまうのかもしれません。 これまでのシリーズのカプラーは、前部・後部ともZゲージ用マグネ・マティックカプラーだったのですが(N用と連結可能)、4110では後部はNゲージ用となりました。 |
こんな機関車まで製品化されるようになるなんて、Nゲージの蒸気機関車も成熟してきたんだなあという感じがしました。ただこれが似合うレイアウトをお持ちの方は少ないと思うので、走行用よりも飾り物になっているケースが多いと想像します。
ここまで来れば、次はもうE10しかありませんね。
4110の翌年、2001年6月に発売されました。白線入り・白線なしの2種が用意され、価格は¥74,000となりました。学生さんの仕送り並みになりましたが、それでも現在の金属製品の完成品に比べれば安い価格帯です。
E10(白線なし) |
E10(白線なし) (拡大写真) やっぱり出ました。4110からは少し間を置きましたが、それでも1年経っていないのですから猛烈な開発スピードです。 製品はキャブフォワードなので、炭庫側が前になり、初めて点灯式ライトとなりました。後部の煙室側のカプラーはN用マグネ・マティックです。 |
プロポーションがとてもよいうえ、金属ではかえって難しいと思われる細部のディテールも、手作りで貪欲に再現されています。 設計、製造した方々の意気込みや情熱が伝わってくるような仕上がりで、今までの同社の模型の集大成といった感じです。 |
実物同様、第三・第四動輪がフランジレスです。第三動輪が可動式ギヤケースです。5つの動輪がすべてバネで、サスペンション風に程よく上下します。 |
キャブ下ステップとピストン尻棒が別パーツとして付属しています。ピストン尻棒は展示用と思われます。キャブ下ステップは取り付けたままでもゆるいカーブなら大丈夫です。
ナンバープレートはE10 1〜5までの5種ですが、それぞれのナンバーの赤と黒がセットされています。磨き出し済みです。
このあとアリイからも4110とE10が発売されたので、トレインショップのE10が唯一のNゲージ製品だったのはわずか3ヶ月でした。
市販の金属製品の中には、動力部の分解が不可能に近いものがたくさんあり、不調をきたすとそのままになってしまうものもあります。 しかしサムホンサの製造したトレインショップ製品は、すべて分解掃除を含むメンテが可能なように作られています(注:簡単というわけではありません。相応の知識経験が必要です)。紛失したときのために予備のネジも入っています。 ロッドピンは特殊な六角ネジですが、これを回すための専用のドライバーもすべてに付属していました。 |
トレインショップが発売したタンク機を中心としたこのシリーズは、今のところE10で終わりになってしまい、期待されたC10・C11はついに出ることがありませんでした。 Nゲージには大小色々なメーカーがありますが、作った商品の大ヒットに恵まれることは、その活動期間中それほどないことと思います。しかし、それとは別に心に残る製品というものは存在し、それを手にした人に深い印象を与えます。トレインショップの残した製品は、まさにそんな味わい深さのある製品だと思います。 |