旬の部屋で途中まで紹介したのでこのページを作ったとばかり思っていましたが、2008年1月27日に火鉢を話題にした時まだ作っていないことに気づき作成しました。(2008年2月3日)
きっかけ
2004年12月4日夜半、台風27号くずれの熱低からからの寒冷前線が通過した時の強風で、家の西側にある風除けの椎の木が倒されてしまいました。幹の芯に腐れが生じ伐採しなければいけないと思いながら1日伸ばしにしていたのですがとうとう寿命がきてしまいました。幸いにも建物と反対方向に倒れたので被害はなかったのですがこの後片付けが大変でした。祖父の代からのもので優に100年は経っている代物で、幹の太さは約70cmチェーンソーで輪切りにするのですがバーが小さく、幹の半分しか切れません。反対側からも切り込みやっとのことで切断終了。半分枯れていたとはいえなかなかの重量で、厚さ30cm位に切らないと動かせません。画像は切断した椎と、チェーンソー(Husqvarna136)です。
この椎の木を焚き木にするのはなんとももったいない。何か細工が出来ないか?
そうだ!腐りが入っている中をくりぬいて火鉢を作ろう!!となったわけです。
準備期間
幹の上のほうは細いし、枝が生えているので使えず、といって根元は腐りが表面に出ているのでこれまただめ。中途の適当なところを選び約50cm幅で玉切りをし、これを約1年間野ざらしにして乾燥させました。中は腐りが入っているものの生きていた木なので推定40kgとずっしりと重く、とても動かせなかったのも野ざらしにした理由です。
芯に腐りが入っているというものの木質がかなり残っているため割れが入ってはいけないと思い、また乾燥すると硬くなるので、中を刳り貫くことにしました。最初は鑿を使いましたが、とても手作業でできるものではなく本来は推奨されていないチェーンソーの縦引きをして腐れ部分を取り除きました。この作業が2005年の7月頃です。
いよいよ外部の加工
約1年放置した2005年の暮に本格的な加工を始めました。まずは芯の刳り貫き部分を広げ、火鉢の中側を決める作業です。準備期間と同じくチェーンソーで中をえぐっていきます。
次は垂直を出す作業で、木であれば当然根を下にした方が格好が良いのですがこの木はどうもすわりが悪く上下を逆にしました。胴は、暫定で切り出したものであり、傾いているので出来上がりが垂直になるよう黄色のキャスター付き台車との間にスペーサーをを入れます。見た目でバランスが取れたところで火鉢の尻になる部分に水平線を墨付けします。本来は定盤を使うのですがそんなものはないので、我が家の屋外で一番平らな車庫の土間を定盤代わりにし、トースカンを使って台車を360度回転し水平面を墨付けします。ベースが完全な平面でないため、また胴を乗せている台車による誤差を補正するためトースカンの位置を変えて再度罫引きましたが誤差の範囲でした。
墨に従って裁断後、上面も同じように墨付けし胴の外観加工を終わります。といっても大きな丸太を真っすぐに切るのは至難の業で、どうしても曲がってしまい、墨を頼りに少しづつ、力を抜いてノコ引きします。それでも2mmくらいの段差ができてしまい、これを鉋で削って修正するのにえらく時間がかかってしまいました。
並行作業
この作業と並行して火鉢に入れる灰つくりもします。旧宅の掘り炬燵のヒーターが入っていた300mm角のステンレス製の箱の中で葦の枯れ草を少し入れては燃やし、燃え終わる前にまた少し入れるを繰り返します。木の場合はゆっくり燃えてくれるので、付き切りでなくてもよいのですが、草は一時に燃えるので休みの日でないと作業できません。しかしそのかいあって、山盛りいっぱいが半日でできました。できたては真っ黒ですが、芯に残った火によって炭素部分が燃え、白い灰ができあがります。草の繊維に含まれる珪素が頑丈な構造になっているため、木灰に比べふわっとしています。
他に燃えるものは何でも、剪定したブドウの蔓や枯れ枝などをとにかく燃やします。結構たくさん燃やしても一晩置いて完全に灰にすると驚くほど少ししかできません。昔は煮炊きや風呂はすべて薪でしたので灰もたくさんあったのですが、電気、ガスの現在では火鉢に入れる分を作るのは結構大変です。 木の灰は篩にかけて燃えカスを取り除き精製します。1週間とろとろと燃してでできた量は約2リットルです。更にこれを水洗して灰汁を出し火鉢の上面を飾る灰とします。
ヨシを燃す
ヨシからできた灰
木を燃す
木からできた灰
篩に掛けた灰
水に晒しているところ
穴埋め
上下が並行になった胴はできたのですが、老木ゆえ虫食いや、大きなヒビ割れが入っているのでこの部分に埋め木をして天板の部分を滑らかにします。幸いに前工程で切り落とした胴の上下材があるので、これを穴の形に削り、念のため接着剤を穴に垂らした後叩き込みます。接着剤が乾いたところではみ出した部分をのこぎりで切り取り、面一になるようカンナで仕上げました。細かなひび割れはパテで埋めました。画像右は仕上がり状態です。
他の部分の様子で、ここは木目の通りがちょっと変です。このような埋め木を7箇所しました。
内部の作業
火鉢の内部、灰の入る部分の加工です。まず桟を入れます。桟は胴に掘り込みを入れ差し込み、反対側は桟を上から落とし受けているだけです。
桟の上に、底板を張ります。板の加工はあらかじめ型紙をとり、これに合わせて杉板を切った後、少しづつ削って収まるように調整しました。左上が寸法違いで隙間が開いているのはご愛嬌です。
内張り
さてここまでの作業は木工でしたが、今度は金工です。内張りは銅と決まっていますが、ホームセンターで扱っているものは薄く、といって厚いものはサイズが小さくどうしようかと思っていたのですが、たまたま入った金物屋さんに、真鍮板と銅板の価格表が掲示してあったので取り扱っていることが分かり、あいにく在庫がなかったので取り寄せてもらい無事入手する事ができました。
側面はただ丸めるだけではありません。上の画像で分かるかと思いますが、胴の底の方(画像では上側)が1箇所出っ張っているのです。元の幹がこのような形になっていて、これ以上削ることができないのです。
従ってこの部分を整形します。小さな金鎚でたたきこの部分を延ばして収まりを良くします。ここほどではないのですが他の部分も小さな凹凸があるので同様にたたき、特に上側が木に密着するように整形します。また底になる部分は、杉板より1回り大きく切り取り、縁の部分をたたいて上に曲げ、ロー付けしろをつくります。
これらの下準備ができた所でロー付けをします。側板は温度面と外見面から、銅リベットを打ち接合面を銅蝋付けにしました。底面ははんだ付けです。最後に中央の画像のとおり、上端のフランジ部分をこれまたたたき出します。
木部仕上げ
外部のお化粧をします。まず全体を白木漂白クリーナーで洗いきれいにします。といっても真っ白になるわけではなく、黒ずんだところが多少色が抜けたかなといったところです。
仕上げには柿渋を塗り、「うずくり」で艶だしをしました。火入れ
まず中央部に珪藻板を敷きます。この珪藻板は七輪本舗さんで購入したものです。
次に葦で作った灰を入れます。一番上に晒した化粧灰を入れます。
さあ火入れです。
定番の楢炭を入れ、上に消し炭を置き火をつけます。種火は小さな消し炭でOK。種火から消し炭へ、さらに楢炭へと火が移って行きます。灯油やガスの火力には及びませんがこの火の色は見ていてとっても暖かです。
完成したのは2006年3月でした。
おまけ
上の画像で何か足りないものは?
そう、五徳です。ここまできたらこれも作ってしまえと番線を加工してつくりました。接合は銀蝋で、仕上げに耐熱塗料をスプレーしました。
しばらくは良かったのですが、熱で内張りの銅板が膨張し、銅との間に隙間が出来てしまいました。フランジによる効果がなかったので、この部分に4mmの銅パイプをはんだ付けして補強しました。これが現在の火鉢の様子です。
最後までお付き合いくださりありがとうございました。
なお背景は灰ならしで作った灰模様で、灰はもちろんこの火鉢のものです。