怪談レストラン
第1話 「怪談レストラン」
原作:松谷みよ子・「怪談レストラン」原作チーム 台本化:里沙
(2:2:0)
大空アコ | ♀ | 山桜小学校6年生。あだ名は「アンコ」 地味で控えめな性格をしており、どちらかといえばクラスでも目立たない存在。 怖い話は苦手だが、好奇心旺盛で真実を確かめずにはいられない性格。 |
49 |
甲本ショウ | ♂ | アコのクラスに転入して来た、帰国子女の美少年。金髪でサスペンダーの服装が多い。 怖い話が好きで、世界各地の怪談を収集している。 |
30 |
佐久間レイコ | ♀ | アコのクラスメイトで学級委員。頭脳明晰で成績優秀、科学的根拠のないことは信じない現実派。 | 11 |
お化けギャルソン | ♂ | 「怪談レストラン」のオーナーであり支配人。 本人曰く支配人なのにギャルソンなのは少々納得がいかないらしい。(Nと被り推奨) |
1 |
先生 | ♀ | アコのクラスの担任。本名は石本ミチコ。(レイコと被り推奨) | 4 |
声 | ♀ | 「怪談レストラン」で掛かってきた電話からの声。(レイコと被り推奨) | 3 |
N | 不問 | ナレーター | 24 |
001 | お化けギャルソン | 「怪談レストラン」へようこそ。 わたくし、支配人のお化けギャルソンです。 支配人だけど、何故か、ギャルソンです。 当レストランでは、背筋がぞーっ!とするような特別料理をご用意しております。 早速、本日のメニューをご覧下さい。 前菜は死んでも食べたいという幽霊達が行列を作る「怪談レストラン」。 ではどうぞ、お楽しみ下さい。 |
N | THRILLER RESTAURANT 第一話。「怪談レストラン」…。 | |
アコ | 今日も時間ぴったし。放課後まで、後5時間25分。 またいつもと同じ一日が始まるのかぁ。何か変わったことでも起きてくれたら…。 うわっ! |
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N | 騒がしい朝の教室で、校門が閉じられていくのをぼんやりと窓から眺めていたアコの傍を、強い風がカーテンを翻させて通り過ぎていった。 そのカーテンが元の位置に戻ったとき、教壇の前には先生と一人の男の子が立っていた。 |
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ショウ | 甲本ショウです。よろしく。 | |
先生 | ショウ君は、お父さんの仕事の都合でこれまでロンドンにいましたが、日本語はぺらぺらです。 みんな、仲良くね、 |
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N | 日本人離れした容姿の美少年である。誰が見ても格好いいと思うショウに、クラスの女の子達が騒ぐ。 それを、男子生徒達がおもしろくなさそうに文句をたれてた。 |
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先生 | はい、静かに!席は、そうね… | |
レイコ | 先生! | |
010 | 先生 | はい、佐久間さん。 |
レイコ | アンコの隣が空いてます。 | |
アコ | ええっ!?…えっ…あっ! | |
先生 | そうね。じゃあ、大空さんの隣に決定! | |
N | 先生のその言葉に、クラス中の女生徒の顔が不満げになり、後ろの席に座るアコを睨んだ。 クラスメイトの視線が集まる中、少年は黙ってアコの隣に座り、前を向いている。 |
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アコ | あのー…みんなアンコって呼んでるけど、本名はアコです。大空アコ。宜しくね。 | |
N | 小声で自己紹介するアコだったが、ショウは黙ったままちらりとアコを振り返るだけで何も言わず、また前を向いてしまった。 | |
アコ(M) | なっ!?何よ、いきなり無視!? | |
N | 放課後。アコの席に、レイコ達が集まる。 | |
レイコ | アンコ、クラス委員として一言言わせてもらうけど、ショウ君にこの街を案内してあげたらどうかしら。 | |
020 | アコ | あたしが?なんで? |
レイコ | あら?理由が必要? | |
N | アコの隣で黙ったままのショウにクラスメイトの男子がちょっかいを掛けてくる。 その挑発に、ショウは何も言わず立ち上がると、黙って教室を出ていった。 そんなショウの姿を、みんなはぽかんとして見送っていた。 どこに行ったかと思えば、彼は、屋上からこんもりと茂る山の方向を見つめていた。 |
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アコ | そこから見える山っぽいところは、山桜(やまざくら)神社。 あの、余計なお世話かも知れないけど、街の紹介をするね。 その後ろにあるのがおばば山で、あっちの高台には死に神病院。 |
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N | アコの手が、山の中腹に見える建物を指さす。 | |
アコ | 怪談レストラン。 | |
ショウ | 怪談レストラン? | |
アコ | うん。いつの間にかそんな呼び名が着いたの。 この山桜町には、変な場所がいっぱいあって、口の悪い人は、呪われた街…なんて言ってるのよ。 |
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ショウ | 案内してくれるかな。 | |
アコ | えっ!?どこに? | |
030 | ショウ | 怪談レストラン。 |
アコ | ええっ!? | |
ショウ | 急ごう!日が暮れる前にっ! | |
N | そう言うと、ショウはアコの手を握り駆け出す。階段を早足で下りていく彼に、アコは焦ったように声を掛けた。 | |
アコ | ちょっ!だめだよ!あそこは幽霊が出るの!入った人は、みんな呪われるって…(焦る) ねぇ、ちょっとぉ…! |
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N | 「怪談レストラン」。二人はその前で立ちすくんでいた。カラスが不気味な鳴き声を上げ、飛び立っていく。 | |
アコ | ねぇ、不気味でしょう。 廃墟にしか見えないのにたまに夜中に営業してるって噂があるの。 しかも支配人は幽霊だって…。 |
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ショウ | 入ろう。 | |
アコ | え?えええええっ!? | |
N | ショウがアコの手を握り、臆することなく敷地にはいる。 鍵の掛かっていなかったらしい扉を開け、中に入る。 |
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040 | アコ | お…お邪魔しまーす…。 ええ!?ビデオ!? |
N | いつの間に用意していたのか、ショウがハンディビデオを撮りだして周りを撮影し始める。 アコの方を撮りだしたそのとき、アコの後ろのドアがすごい勢いで音を立てて閉まった。 |
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アコ | ふぁあっ! | |
ショウ | 奥に行ってみよう。 | |
アコ | あ、待ってよぉっ! | |
N | 臆することなく進んでいくショウに、アコは慌てて着いていく。 レストランの中は、整然と整えられていた。テーブルには綺麗にテーブルクロスが掛けられ、椅子は等間隔に並べられている。 窓にはカーテンはなく、夕方の木漏れ日がうっすらと入ってきていた。 |
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アコ | ……掃除さえすれば、すぐにでもオープン出来そう。 でも、案外普通だよね。 |
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ショウ | だと良いけど。 | |
アコ | えっ…それ、どういう意味? | |
N | 厨房には皿が並べられ、まな板には何かがこびり付いたような包丁が突き刺さっている。 | |
050 | アコ | な…なんか…まるでさっきまで使ってたみたい…。 |
ショウ | 幽霊船の話、知ってる? | |
アコ | え?どんなの? | |
ショウ | ある船が、無人で航行する幽霊船を見つけたんだけど、厨房では湯気の立ったスープが作りかけのままだったんだ。 | |
アコ | それって…作り話…? | |
ショウ | ほんとの話だよ。 | |
N | 時間は過ぎていく。窓の外はすぐにでも日が落ちようとしており、レストランの中を赤く染めていた。 | |
アコ | ねえ…もう帰ろうよ。 | |
ショウ | 映像を確認してみる。 | |
アコ | えっ!?ここで!? あ…あたしちょっと…もよおして来ちゃったんだけど…。 |
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060 | ショウ | なにが? |
アコ | 何がって…あの…。えっと…。 | |
ショウ | ああ、トイレか。それなら向こうだ。 | |
アコ | えええ…。 | |
ショウ | 着いてきて欲しいの? | |
アコ | うっ!? …一人で行けます! | |
N | アコがトイレに向かおうとするのに関せず、ショウはビデオを確認し始める。 ビデオには、ここに入ってきたところから映されていた。 |
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ショウ | これはっ!? | |
アコ | ?どうかしたの? | |
ショウ | 写ってる! | |
070 | アコ | ええっ!? |
N | ビデオを進め、レストランの中。ここでも、うっすらとした人影がレストランの中を歩き、真ん中のテーブルのところですーっと消えていった。 | |
アコ | うわっ!さっきはこんなの、見えなかったよ…!? ゆ…幽霊だ! |
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ショウ | 静かに! | |
アコ | !? ど…どうしたの…?誰か、いるの? |
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N | 辺りを見渡す。 レストランの中は夕日で赤く染まり、外では遠くカラスが鳴いている。 ビデオには繰り返し、ぼんやりとした人影が映り……。 そのとき、突然、暖炉の上のレトロな電話が鳴り響いた。 |
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アコ | うぁ……何で電話なんか掛かってくるのよ…。 | |
ショウ | 君が出て。 | |
アコ | あっ、あたしが!?何でよ! | |
ショウ | 僕は、カメラを回すから。 | |
080 | アコ | ……っぁ…。 |
ショウ | 大丈夫、取って。 | |
N | ショウの力強い声に押され、鳴り響く電話を、アコは躊躇いがちに取る。 | |
アコ | もしもし…。 | |
声 | ようこそ…怪談レストランへ。(おどろおどろしく) | |
アコ | うわっ!…あ…足が…動かないっ! | |
ショウ | ……っ! | |
アコ | ……ねぇ…今、何も写ってないよね…。 | |
N | アコが不安そうにショウに訪ねるが、ショウのビデオには、はっきりと映し出されていたのだ。 地面から頭と手だけを出し、アコの足を掴む、ぼんやりと光る影を! |
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声 | ご注文は…。 | |
090 | ショウ | …っ!? |
N | いきなり、ショウがアコの足下に何かを投げつけた。パーン!と言った音が響く。何をしたのかも判らないが、アコの足はそれによって自由になる。 | |
アコ | ああっ! | |
ショウ | くっ…! | |
N | 素早く、ショウがアコから受話器を取り上げ、元に戻して二人手をつないで走り出す。 ドアを開け、レストランから飛び出していく。追いかけてくるものの気配はなかった。 レストランの敷地外、二人ははぁはぁと息をしながら立ち止まっていた。 |
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アコ | はぁ…はぁ…。 さっき投げたの、何だったの? |
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ショウ | 錆び付いた釘だよ。錆には、魔女除けの効果があるんだ。 日本の幽霊にも効き目があったかどうかは判らないけど。 |
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アコ | じゃあ、やっぱりさっきの…! | |
レイコ | バカね。人が幽霊とか何とか騒いでるのは、結局は錯覚なのよ。 | |
N | いきなりアコの後ろから声が掛かった。 見ればそこにはクラスメイトの委員長、佐久間レイコが立っている。 その手には、折り畳まれた携帯が握られていた。 |
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100 | アコ | あー! |
レイコ | このレストラン、ずいぶん昔に潰れたのに、電話回線だけは生きてたみたいね。 | |
アコ | もー、脅かさないでよ!幽霊みたいなお芝居までして…。 | |
レイコ | ?何も言ってないわよ?私。 | |
アコ | えっ…。 | |
レイコ | ただ携帯から掛けただけ。 | |
アコ | だって…あの声…。「ようこそ」って…。 そうだ!さっきのビデオは!? |
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N | ビデオを再生する。 そこには、確かにアコの足を掴む何者とも着かない影が映っている。 そのとき、アコ達の上から声がした。 |
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声 | ご注文は…? | |
アコ ショウ レイコ |
はっ!? | |
110 | N | それ以後は声も何も聞こえない。 レストランは、夕日の赤を浴びて不気味にそこに佇んでいるだけだ。 |
ショウ | このことは、誰にも言わないでくれるかな。 | |
アコ・レイコ | え? | |
ショウ | 僕たちだけの秘密にしよう。 | |
アコ | 秘密? | |
レイコ | おもしろそうね。 | |
ショウ | この街に来て良かったよ、おもしろい場所が沢山ありそうだ。 | |
アコ | そんなこと言う人、初めて…。 | |
ショウ | 明日は、どこに探検しに行こうか? | |
アコ | ええ? | |
120 | N | 楽しそうに言いながら歩き出すショウの後を、アコとレイコは呆気にとられたような顔で追いかけた。 |
アコ(M) | その後、「怪談レストラン」がどうなったかって? 実はオープンしたんです。名前もそのまま、「怪談レストラン」。 でも、その話は…また、いつか。 |
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第2話 『キキーモラ人形』を続けてやる場合はこちらへ。 |
参考「怪談レストラン」アニメキャスト
大空アコ:白石涼子 甲本ショウ:優希比呂 佐久間レイコ:浅野真澄 お化けギャルソン:平田広明