高尾個性

森林科学の森の桜

花贈る人もなし、この春風の中。3月末の山陰、前日までの風雪が嘘のように春の陽気になった。喪主の兄と庭に出て「やっと春になったね」と話した。お葬式の日には相応しくないような言葉だったが、 のどやかさと母への感謝の気持ちを、何となく結びつけたかった。でも、私には才能がなかった。もやもやしていた中で、僧侶が言った。「この春風にのってお母さんは天国に 向かわれています」。それで、救われたと思った。 -1-

そんなこんなで、疲れていたので 休日は部屋でラジオを聞いて寛いでいるのが好きだった。が、金曜日のテレビで「振り子」(鉄拳)のパラパラ漫画が流れていた。亡くなる妻を少しでも一緒に居たいと、振り子を懸命に止めようとする姿。感謝と 僅かな時を少しでも長くしようとする絵に心を動かされ、女房と多摩森林科学の森へ桜を見に出かけた。

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