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モラルハラスメント
8.虐待からの脱出とその後のつらさ
1.脱出するきっかけ
1)気づき
被害者は、加害者によって巧みに支配されており、自分のせいなのだと
罪悪感を感じていたり、混乱のせいで頭が真っ白になったりしています。
そのため、精神的な暴力をふるわれていても、それが暴力であるとは
なかなか気づきません。
その中では、被害者が自ら誰かに相談することも、誰かが介入してくれることも
稀なことかもしれません。
しかし、この虐待の構図から抜け出すには、何らかのことをきっかけに、
外部とのつながりを取り戻すことが不可欠なのです。
虐待が起きている場所とは違う価値観のものに触れる、その場に
属していない人と話をしてみるなどのことをきっかけに、今自分に
起きていることが当たり前のことなのではなく、虐待なのではないかと
疑ってみることが、まず脱出のための第一歩になります。
2)エンパワーメント
被害者は、被害を受け続け、自尊感情を踏みにじられています。
その中で、この状況を耐え抜くことが自分のためになると感じている
ことがあります。
しかし、最悪の状態をできるだけ長く耐え抜くことは、賞賛されること
なのでしょうか。
加害者の苛立ちや不安は理解できるとしても、加害者からの虐待に
耐える必要はないはずです。
その気づきを得、虐待の構図から抜け出すためには、第三者からの
介入や通報、被害者本人から第三者への相談などを通して、被害者が
エンパワーメントされることが必要です。
その中から被害者は、自分の権利を感じ取り、自分の中の自尊感情や
生きていく力を信じることを少しずつ思い出していきます。
その結果、自分に起きていることが自分のいたらなさからくる当然の
結果なのではなく、加害者からの暴力であることを認識できるように
なるのです。
そして、その暴力を受けるいわれはないことを確信し、その虐待の
構図から脱出する準備を始めます。
2.脱出
1)出口
状況を改善したり、虐待の構図からの出口を見つけるためには、
相手のモラルハラスメント的なやり方に反応しないことが必要です。
そうすれば、そのやり方は効力を失い、被害者を動揺させるという
加害者の目的は達成されません。
相手の挑発に乗らないこと、相手のあいまいなほのめかしによる攻撃に
対しては、その言葉の意味を具体的に確認し、ほのめかしの内容を
はっきりさせること、後からの攻撃も考え、何を言われたか書きとめておくこと、
手紙やFAXなどで文章が送られてきたときには、とっておくこと
などが有効です。
また、ふたりだけで直接話をしないこと、どうしても話をする必要が
あるときには、第三者を間に立てることなども大切になってきます。
しかし、このように被害者の態度が変わると、一時期、加害者の攻撃は
激しくなります。
それでも、自分の権利を守ることは当然であるとの確信を持ち、
加害者と対立することを恐れずにその場に臨むことで、被害者が
自分の中の力を思い出す助けにもなるでしょう。
2)脱出
加害者の支配から抜け出すために一番いいのは、加害者から
離れることです。
しかし、すでに虐待の構図ができあがっている中、その場の権力の
中心である加害者から離れ、モラルハラスメントが行われている場から
抜け出すためには、実は莫大なエネルギーを必要とします。
そこで、そのエネルギーを保ち、心理的に加害者に抵抗するためには、
誰かの助けが必要になります。
その人は、加害者の影響を受けていない人で、まわりの人を支配コントロール
しようとしない、安心できる人である必要があります。
そのような人を見つけ、その人と話をし、エンパワーメントされながら
虐待の構図からの脱出を図るのです。
他者の絶対的な権威から解き放たれるパワーは、その後の被害者の
回復のために大切なものになるでしょう。
3)加害者の怒りと憎しみ
被害者が脱出を図ろうとすると、加害者の心には、ますます被害者に対する
怒りと憎しみの感情がわき起こります。
加害者は、被害者が他の人とつながることや自分から離れていくことを
裏切りと取り、自分こそが被害者であると訴えるのです。
被害者のささやかな抵抗に激怒し、被害者が自己決定をすることを
許せません。
この段階になると、報復したいという気持ちが、加害者の心を支配して
しまうのです。
3.脱出後の心理
1)抑うつ
虐待の構図から脱出した後、被害者にはいろいろな感情が表れてきます。
まず、自分がどれだけ深く傷ついていたかにようやく気づきます。
自分の心に、今まで思ってもみなかったほど多くの深い傷が
刻まれていることに気づくのです。
それらは、辛い状況を生き延びるために、無意識のうちに自分で心の奥に
押し込め、抑圧せざるを得なかったものなのでしょう。
それが、安心できる場を確保したために、ようやく少しずつ感じられるように
なったのです。
そして、加害者との闘いが終わった今、自分というものが土台から
すべて壊れてしまったかのような感覚にもなります。
今までのことを振り返ると、自分は加害者にだまされ、利用されていたのだと
感じます。
この時期は、そのことで加害者を責めるというより、自分自身が情けなくなり、
自責感を感じてしまいます。
また、加害者の影響がまだ強く残っている場合には、その場を離れて
しまったことに対する罪悪感をぬぐい去ることは難しいものです。
2)加害者への怒り
被害者の気持ちは、加害者に今まで利用されていたということからくる
自分への自責感や抑うつ的な気持ちから、屈辱感、相手への怒りへと
変化していきます。
今まで失われていた自分の正当な権利を取り戻したいという気持ちになり、
相手を告発したくなったり、相手に謝罪を要求したいという気持ちが
わいてきます。
3)PTSD
被害者は、加害者から離れ安全な場所にいても、またいつ攻撃される
かもしれないと常に緊張し、不安感や恐怖感が続いています。
なかなか眠れなかったり、眠りが浅かったり、小さな刺激にも
ひどく驚いたり、いらだったりします。
そのような状態はしばらくすると消えていきますが、その後も突然、
暴力を受けていたときの体験がよみがえり、そのときと同じような感情や
感覚になることがあります。
また、眠っているときに悪夢を見たり、夢の中で虐待されたりもします。
そのようにして被害者は、何度も恐怖や絶望感を味わわされてしまうのです。
また被害者は、モラルハラスメントが行われた状況を思い出さないように
するための無意識の心の働きによるさまざまな心理状態を体験することが
あります。
その場に関わりのある活動に対して、たとえそれが今までの自分にとって
大切なものであったとしても、興味を失ってしまうことがあります。
また、感情が麻痺したように何も感じない状態になることもあります。
加害者からの暴力が、自分の身に本当に起きたことのような気が
しなかったり、日常生活は送っていても機械的に続けているだけだったり、
日々のことがらを遠くから眺めているだけで、実際の感覚が乏しいような
感じがしたりもします。
しかし、これらの影響は、次第に小さくなっていきます。
4.脱出後の攻撃
1)セカンドアビューズ
被害者は、虐待そのものもつらいのですが、加害者側に立ってしまう人や
傍観者的な立場の人からも傷つけられてしまい、辛い思いをします。
加害者の暴力は、まわりの人には見えにくく、また加害者は外に向けての
顔はいいために、虐待の場から離れた被害者がその被害を訴えても、
まわりの人はすぐには信じられません。
そのため、被害者の思い違いなのではないかとか、かえって被害者の方が
加害者なのではないかと見られてしまうことにもなるのです。
また、加害者は、第三者が介入することを嫌います。
一方被害者は、介入してほしいと思っています。
つまり、傍観者的な位置にいて何もしないでいることは、加害者側に
都合が良いことになってしまうのです。
ですから、傍観者的な立場でいられると、被害者にとっては、加害者側に
立たれたような気がするものです。
ただし、中立の立場での介入は、それとはまた違うでしょう。
2)リモートコントロール
被害者が、加害者のコントロールから逃れようとして離れたときに、
加害者のリモートコントロールが始まります。
加害者は、被害者が離れた後も影響を及ぼせると思っており、
関わりを求めてくるのです。
モラルハラスメントは、言葉を使うためFAXや手紙ででも虐待でき、
ストーカー的な攻撃を続けられるのです。
しかし、被害者が逃げ延び、いきいきしていることがわかると、
加害者の中には怒りがわき起こってきます。
瀕死の重傷を負わせたはずなのにとの思いが、加害者の中にあるのかも
しれません。
そして、このリモートコントロールが有効にきかないことに加害者が気づくと、
自分の怒りを第三者に間接的に伝えることで、コントロールの領域を
広げようとします。
つまり、第三者を巻き込もうとするのです。
しかしそれは、被害者へのモラルハラスメント的な虐待という枠を
外れることであり、まわりの人の目にも見えるような行動が出始める
ことであり、そのためまわりの人の意識によっては、加害者の暴力が
白日の下にさらされることにもなるのです。
次回は、被害者の回復についてまとめます。
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