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モラルハラスメント

          4.加害者とは


被害者の話を総合してみると、加害者には同じようなパターンがあることに
気づきます。

1.勝ち負け
 1)思い込みによるこだわり


モラルハラスメントの加害者は、自分の勝ちか負けかをいつも考えています。
勝つことに強迫的にこだわり、まわりの人間には敵か味方かのどちらかしか
いないというような極端な考え方をします。
対人関係を力関係でしか捉えることができない加害者は、
その相手との力関係によって態度を変えます。

味方にしておきたい人が自分より上か同等の力をもつと思っている場合、
親密さを相手にもまわりにもアピールします。しかし、相手が下だと思うと抑圧し、
いいように使います。
このように、味方といっても対等な友人という捉え方ではありませんが、
何らかの形で自分にとって役に立つ人間だと思えている間は、
敵に回さないよう気を遣いながら接しているのです。

しかし加害者は、ほんの少しの批判や拒絶を、自分に対する反抗や
敵意の表れだと受け取ります。
はっきりと完全な味方にならない限り、敵だというレッテルを貼り、
何としてでも抑圧し、排除しようとするのです。
敵とみなした人が自分より立場が下だと簡単に抑圧し、同じくらいの力や
もっと力があるかもしれないと思うと、まずまわりに悪口を言うなど、
相手を引きずりおろしてから抑圧します。

いずれにしても加害者は、虐待の構図を取ることでしか自分を守れないと
思っているようです。
また、自分は自分にふさわしいだけの正当な評価を充分には受け取っていないと
思っているため、勝つことへのこだわりは、なおいっそう強迫的になります。

 2)言葉は武器

加害者は最初のうちは、敵とみなした人間に直接何かを言うことは
ほとんどありませんし、相手が何かを訊いたとしても、会話は成立しません。
しかし、加害者が何も話さないわけではなく、話すのが苦手なわけでも
ないのです。
それどころか、むしろ、論争が好きなのではないかと思えるほどの
雰囲気を持って言葉を使います。
しかし、その話は自己完結的であり、その言葉は、相手とのコミュニケーションの
ためのものではなく、勝つための武器なのです。

 3)一貫性がない

加害者は、情緒不安定で不安が強く、他人に対して攻撃的です。
そのときの気分や感情によって気に入らないことが変化し、
言動に一貫性がありません。
まわりの人間は、加害者の思考パターンにはひとつのルールはなく、
予測がつかないように感じます。
しかし被害者は、その予測がつかないルールを加害者から強制されるのです。

自主的に動けと言ったかと思うと勝手にするなと言い、
きちんと謝れと言ったかと思うと、すぐ謝った場合にはすぐに謝るなと言います。
被害者が黙って聞いているとその姿勢を突き、反論するとまた
その姿勢を突くのです。
また、被害者が毅然とした態度でいると加害者は怒り出しますが、
硬直し萎縮していても加害者のイライラは増長されます。
その使い分けには一貫した理論などはありません。
加害者が相手を敵だとみなせば、何をしてもしなくても、攻撃の対象に
なってしまうのです。
加害者の言葉に一定の傾向があるとすれば、その言葉が、
加害者が勝つためのものであるということだけのようです。

 4)支配

加害者は、力のある者に対して迎合する反面、弱い者や敵とみなした者に
対しては支配的、威圧的な態度をとります。
自分の勝ちを安定させるための権力に固執し、その権力によってまわりを支配して
自分と同一化させるのです。
そうしておけば、相手から自分の考えを否定されたり批判されたりして、
自尊心を傷つけられることはありません。
それどころか、必ず自分の意見に同意してもらえるため、有能感を
感じられるのです。
また、支配しておけば相手は逃げません。
ストレス解消のためのうっぷん晴らしの対象を確保しておくためにも、
まわりの人を支配しておく必要があるのです。

2.自己愛的
 1)自分は特別


加害者は自分が特別な存在なのだと思っています。
たとえ実際の業績をあげていなくても、自分には特別な才能があり
仕事ができると思っていますし、まわりの人も当然そう認めるはずだと
思っています。
そのため、自分のために誰もが喜んでいろいろなことをしてくれるべきだと
思っていますし、自分のために他人を平気で利用できます。

また、自分を偉く見せるためにすべてを知っているかのように振る舞い、
そのために言葉を利用します。
たとえば、難しい専門用語を使ったり、抽象的な表現をする、
話を一般化し真実を話しているような言い方をする、誰かを軽蔑し悪口を言う、
相手の考えや行動の意味を勝手に決めつけるなどの方法を使います。
また、質問されても答えは言わない、途中まで言いかけてやめる、
自分についてはあまり話さないなどの方法で相手の興味を引き、
魅力的に見せ、特別な人だと想像させるような振る舞いもします。

 2)自分を守る

モラルハラスメントの加害者は、起きたことの責任をすべてまわりの
誰かのせいにし、他人の欠点を暴きたてます。
それによって、自分は罪悪感を感じなくてすむのです。
現実を否認し、まわりの人の苦しみはもちろん、自分の中にある苦しみさえも
認めません。
内面の葛藤やとるべき責任に対して対応することができず、
自分を省みることをしようとしないため、自分のちょっとした欠点にさえ
気づかないようにします。
これらは、加害者が自分の身を守るための方法なのです。

 3)共感できない

モラルハラスメントの加害者は、相手の感情を理解することができません。
誰かが苦しんでいるのを見ても同情することも共感することもないのです。
加害者自身、苦しみや悲しみという感情を持たないかのようであり、
そのような状況でも、相手への怒りのみが出てくるのです。

 4)羨望と憎しみ

加害者は、自分が持っていないもの、特に才能や地位、考えなどを
持っている人や、幸せそうにしている人に対して羨望を抱き、
それらのものを自分のものにしなければならないと感じます。
しかし、努力して同じものを手に入れようとはしません。
相手に取り入ったり、相手を利用し支配して奪おうとするのです。
そして、もし相手が抵抗し思い通りにならなければ、
加害者の心には憎しみがわき起こり、その結果、相手をおとしめ
破壊しようとするのです。
加害者にとっては、その相手と自分との差を埋めることが、
一番の目的なのですから。

3.妄想症的

モラルハラスメントの加害者にとって、まわりの人は、いつも自分をおとしめ、
攻撃を仕掛けようとしている人たちだというふうに感じられています。
自分が先に攻撃を仕掛け、支配し、常に勝っておかないと、相手の方から
攻撃を仕掛けられてくると思っているのです。
加害者にとって、人生とは悪意に満ちたとても困難なものなのです。

4.生育歴

加害者がこのような傾向をもつ原因は、まだ、はっきりとはわかっていません。
ただ、加害者の生育歴や過去の経験が、強い影響を与えているようです。
加害者は以前、何らかの形で虐待を学習したことがあり、しかもそれを、
虐待だったと認識していないことが多いのです。
それだからこそ、虐待を切り抜けてきたつらさを、虐待の形でしか
出せないのかもしれません。
そのうえ、自分がかつて受けた苦しみに対する復讐であり、
そういう人間関係しか知らないことの表れともとれる自分の虐待行為にも、
加害者自身はまったく気づいていません。
今までに対等な関係の経験がなく、今も安心して本音を語る場所を
持っていないであろう加害者にとっては、そのように自分の加害行為に
無自覚でいないと、生きてはいけないのかもしれません。



このように、加害者は以前の被害者であり、そしてその被害行為に対して、
ほとんどサポートを受けられない状況にいたのかもしれません。
その点ではその人は、他の人からのサポートを必要とする人なのです。
しかしそのサポートは、加害者から被害を受けている人ではない、
別の人がするべきです。
被害者は、加害者の最も近くにいて、しばしばまわりの人から、
その加害者をもっと理解しサポートをするよう言われることが多いものですが、
被害を受けながら、その加害者をサポートすることなどできるはずがありません。
そのようなことをしても、なおいっそうの被害を受けるだけなのです。
しかし、他の誰かがサポートをしようとしても、その人もまた、
次の被害者になる可能性が大きく、結局その加害者のサポートは、
非常に難しいことになります。



次回は、虐待が起きる条件についてまとめます。         


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