金子さんの細部への心遣いは、たとえばピンタックだとか、ステッチだとか、フリルだとか、プリーツだとか、一見かわいらしそうに見えますし、線が弱そうに思ったりしがちですが、けっしてそんなことはなくて、すごく堂々としていると思えるのです。
細部の部分は細部だけに終ることがなく、細部へのこころ遣いが、全体を大きく、そして豊かに、やさしく、女らしく、イメージを広くしているのにちがいありません。
私はまだ金子さんと知りあいじゃなかった昔、ファッション雑誌のうしろの方に、絵で服を見せる頁があって、いろんな人のデザインの中から、金子さんの服をあてることが、100%できました。
ステッチの具合や、ポケットの扱い方や、上衣と下のバランスや、まるみなどが、絵だけで見ても、他の人のとはぜんぜん違って、目の中にとびこんでくるようでした。
その金子さんに、13年も昔、初めて黒のメルトンで、スーツを作ってもらってから、私はずーっと金子さんのデザインの服を着ています。
やわらかな布のワンピースも好き、ツイードのジャケットも好き、白い木綿のブラウスも好き、革ジャンパーも好き。どれも着ていて、うれしく安心。
小心者の私が、どこにでも堂々と出かけていけるのです。
13年前に、スーツを作っていただいた時も、それを着てニューヨークに行ったのでしたが、そのスーツさえ着ていれば、ニューヨークの誰でもが、私を良く見てくれたし、丁寧に扱ってくれたのでした。
良い服は、本物のマジックの要素を、たっぷり持っているのです。(文・大橋歩さん)
アンアン1980年2月1日(No.243)より