見せないから、色っぽい。胸も、脚も、ヒザ…もなるべく隠す。

ジャンヌ・モロー、キャサリン・ヘップバーン……。青春時代に大人の女の魅力を教えてくれたスクリーンのスターたち――。
憧れはいつか、自分もああいう女の人が着られるような服をつくりたいという夢に変わってきた。
この11年、「ピンクハウス」でかわいい服を作りながらも想いつつ゛けてきたことが「INGEBORG」というブランドになって実現した。金子さんの感性でとらえた大人の女の服。ディテールのすみずみにまで、女の優しさが香っている。

男が女の服を作ると女は”もろ”女になる。

女のデザイナーは実感から、女の服を作る。男は、イメージから女の服を作る。女はどうしたって自分から離れられない。男は飛躍できる。女を客観視できる。
だから、と金子さんはいう。本当に女らしい服は男が得意だし、着やすい服は女のほうが得意なのではないかと。
たとえば、女のデザイナーだったら照れてためらう色でも、男は使える。
サンローラン、ラガーフェルド……ときには女が誇張されいやらしくなる危険もあるけれど、女が浮彫りにされることは確かだ。
金子さんが、誰よりもかわいい服が作れる秘密もここにあるのかもしれない。
フリルやレースがいっぱいの「ピンクハウス」がたし算のファッションなら、シンプルを身上とする「INGEBORG」はひき算のファッション。
「かわいい服より、大人の服を作るほうがずっと難しい」そうだが、着るほうも大変。ごまかしがきかないから。大人の服を着こなすには「ハートが必要」

「INGEBORG」は、ユリさんの本名だ。

イラストレーターの大橋歩さんの提案で、立川ユリさんの本名がブランド名に。
ご本人のユリさんは「ドイツ人の名前って響きは重いし、怖い感じでしょ。あまり好きではなかった」そうだ。
でも、「ピンクハウス」は名前も服もかわいい。だからかえって差別化がはかれていいんじゃないかとの意見もあって、スンナリ決まった。
ユリさん、37歳。「INGEBORG」の年齢でもある。6歳のひとり息子が「おしゃれに全然関心がない」のがちょっとつまらないそうだが、今は子育てに一生懸命。毎日がとても忙しい。
洋服はやせていないと美しく見えないので、いずれは美容体操の教室にも通いたいが、今は時間がないので、大好きなケーキも我慢。その見事なスタイルを今も維持している。
「ピンクハウスの服は好き、でも、花柄のフリルのワンピースとかはもう似合わないから」
「INGEBORG」ができたことは、ユリさんにとってもうれしい。

ELLE JAPON 1983年10月号より

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