エミスフェール

HEMISPHERES

パリのセレクトショップ。金子さんは1970年代後半から通っていました。日本人が誰もエミスフェールなど知らなかった1982年、アンアン4月23日号「金子功取材パリでいいものみつけた」でエミスフェールを紹介しました。1984年4月、六本木に日本1号店が進出。’80年代後半のバブル絶頂期には、ある女性誌で「クリスマスプレゼントに欲しい商品」ベスト3に、ここのカシミアのセーターが入ったほど人気があったのです。六本木ロアビル近くにあった店に、私ワンダフルハウスも買いに行ったところ、松任谷正隆さんも客として来ていました。ラムウールのセーターは50色ほど白い棚に並んでいて、綺麗なグラデーションを構成、色の見本を見ているようでした。1994年9月、青山に移転。’2000年代前半にキラー通りの反対側に移転して現在に至っています。


anan1982年4月23日号「金子功取材パリでいいものみつけた」

新しくデザインされたものは置いていない。品のいいオーソドックスなおしゃれなのだが、あの”ニュートラ”とは決定的にちがう。なぜこんなにもエミスフェールが好きなんだろう。

この店を知ったのは、3年ほど前(1979年)のエル(フランス版)で。こことウプラと、あと2軒で特集を組んでいたのが、とても魅力的なページだった。
以来ファンになり、パリで行きたい好きな店の筆頭格。エトワールの近く、瀟洒な構えの、格調高いブチックである。そして値段も高い。高いけれど、何か一つは買って帰りたい、と思わせる店だ。
店内の、シャツやセーター(色がいい。カシミアは最上等)を並べた棚やカウンターなど、艶のいい高級な家具を使っていて、その趣味も非常に格調高い。
流行の服は売っていない。たとえばセーターはいつもアーガイルが主力。毎年、色だけを変えて同じデザインを売っている。女もののスカートにしても、20年着て飽きないようなフラノなど、すべてオーソドックスな定型。

ただし、定型の中の逸品を厳選している。男の革ジャンパーは裏に羊の毛のついたアメリカ製。セーターはイギリスの伝統ある各地の産。という具合に、世界中の最上品を集めた感じだ。
ここでも、すぐれた目を持つバイヤーの存在を強く感じさせられるのである。けっして一つの場所であれもこれも集めてしまわない。――たとえばロンドンで3点、次はアフリカでたった1点、そんな買い方をするのだろうか。
ドイツの、昔からあった形のジャケットなども魅力的な品のひとつ。黒のブレザー風で、ポケットの回りにモスグリーンのトリミング、さらにその中に真紅のパイピング。この上衣をちょっと古めかしいビロードのスカートに着せていた。
カウボーイの帽子もメキシコのブラウスも、そしてラコステのピンクのポロシャツも。さまざまのタイプのおしゃれに必要な一流品。
16区に新しくできた支店は、金持ちの街にふさわしくさらに贅沢な店。地下の狩猟服の売場も楽しい。
エトワールの店にいたダンディーな黒人店員はカルティエの時計と指輪をさりげなくつけていた。用事で外出するときにはおったギャバジンのトレンチコートが粋だった。

1982年当時のエトワールの本店。木製のシューキーパーが入れられたオーソドックスな革靴は英国製であろう。ウエスタンブーツもある。左側のジャケットやタイを見ればわかるが、初期のカールヘルムは、明らかにこの店の影響を受けている。 16区の支店
(1982年当時)

新鮮な色、好きな色。ほかに何も手を加えずに、ただ色だけを着る。白のTシャツと自分とが主役で…。

どういうわけか今年のパリでは、飽きるほど沢山のアーガイルを見た。セーター、靴下、ネクタイ、ベスト。あらゆる色の、あらゆる等級のアーガイルものがあった。均一(プリジュニック)ストアの安ものから、金持専門店のカシミア100%まで。
”エミスフェール”はパリでも高級に属するショップだが、まるで中毒のように行かずにはいられない店。オーソドックスなものばかり売っているのだけれど、ほとんど過激とさえ言える色使いのものが中に混じっている。エミスフェール的着こなしは、一見オーソドックスで実は内心アナーキーで脳天気、といったパリのお洒落の1タイプかもしれない。
オレンジと黄と赤、などという信じられない色合わせのアーガイルセーターをさりげなく売っていたりする、この店のしゃれッ気は心にくい。
白、ピンク、黄、という組合せもまた、アーガイルとしては非正統的だ。男のそんなイタズラ心的秘蔵品を、女の子が容赦なく奪って着てしまう。もともとアタシのものよ、という顔で。こういうおしゃれが人生を楽しくする。

エミスフェ―ルのアーガイルセーター
made in スコットランド、100%カシミアの白地アーガイルVネックセーター 2,550F(1984年当時、1フランは28円でした)
ラムウール100%の肩にかけたピンクのカーディガン 850F (共にHEMISPHERES)
ネクタイ 120F (ISLAND)
カシミア100%のピンクのマフラー 595F (UPLA)
シャツ¥15,000、ジャケット28,000、パンツ¥6,300、ブーツ¥21,000、バッグ¥5,500(以上ピンクハウス)
アンアン1984年12月28日/1985年1月4日合併号(No.460)「金子功のパリでいいもの見つけた!」より

ワンダフルハウス私物
Made in Scotlandの100% PURE CASHMEREクルーネックセーター。最高の肌触りである。1980年代後半に購入。当時、クルーネックとVネックは¥58,000、カーディガンは¥78,000だった。買う時は高いが、15年以上着ているので、とっくにモトは取れている。’90年代になると、日本の企業が原毛の生産の段階からタッチするようになり、価格が下落して買いやすくなった。青山の以前の店では、クルーネックとVネックは¥49,000、カーディガンは¥58,000で並んでいた。現在のエミスフェールでは、このようなブランドオリジナルのカシミアやラムウールのニット類は、製造していない。

エミスフェール青山店

エミスフェール青山店

青山のキラー通り沿いに一軒家の趣でひっそりと佇む老舗のセレクトショップ、エミスフェール。都内で唯一のメンズ取り扱い店である。ワンダフルワールド青山店から徒歩で10分程度。目印は歩道橋。一度覗いてみるのもいい。

東京都渋谷区神宮前3−42−2 11:00〜20:00 無休 03−3479−5840

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