金子さんに「デザインポリシーは?」と尋ねると「ごらんのとおり、やさしい服」と、きっぱりと答える。物腰は穏やかでやわらかな口調だが、主張はとてもはっきりしている。スポーティーな服も、ドレッシーな服も、女の人がそれを着たらやさしくなったり、かわいくなったり、少し大人っぽくなったりしてほしいと言う。すてきになってもらいたい、と。
「すてきっていうのは、美人でなくてもいいんです。いやな女じゃない人がいい。今までは仕事をバリバリこなすような女の人ってきらい、と思っていたのね。でも、仕事したほうが楽しいだろうから、それでもいいんだけど、そのとき”がんばります!”みたいな格好でなくても、柔らかいスカートをはいてても、仕事はできると思うんです。そうしたら、ギーギー怒ってても、チラッとやさしく見えて、いいんじゃないかな」
男っぽい服を着て女っぽくなる。たとえば、ジャンパーをドレスの上に羽織る。そんな雰囲気で仕事をしたい。
「これからは、若い女の人が、もっとたくさん仕事をするような気がする。そういうとき、ファッションは絶対必要なものですから、流行に左右されないで選ぶ目を持つといいんじゃないかな。今は”これがいちばん”というのもないし、何を着ても流行遅れにならない。おしゃれが楽しいときね」
シーズンごとの海外コレクションも、金子さんは無視する。
「ニューヨークは全く意識しません。あれは別世界。イタリアも大きらい。最もきらいなのはロンドン。あの派手さがいや。パリは好き。パリの有名じゃないデザイナーの洋服が好き。なんでもない服、すぐ着られる服ね。色もシックで、フランスらしい洋服って、まだいっぱいあるって思います。また、そういう人たちのブティックは満員でした。隣にチェリー・ミュグレーがあっても、だァれも入っていないの」
オーソドックスで、少しだけクラシックな雰囲気を持った服がすてきだ。最後に、ライバルをきいてみた。
「デザイナーはみんなライバル。だれでもそうじゃないですか。自分がいちばんいい、と思ってるんじゃない? モデルでも、自分がいちばんきれいと思ってないと、カメラの前になんて立てないんじゃないかな。そう思いますよ」
JUNON1982年3月号より