女の子はかわいくないからかわいくなってほしいと思って、服を作っている

リボンや帽子などのプリント柄、てれんとした素材。ご存知、金子功さんのブランド”ピンクハウス”と”インゲボルグ”はいま、日本全国の女の子を「かわいい!」というタメ息の渦に巻き込んでいる。世界のファッション界に刺激を与える日本のトップデザイナー・金子さんは、ニコニコ照れ臭そうにやってきた。そして席に着くなり、ひとこと、
「学生のころ、”週刊平凡”が大好きだったんです。だからきょう出ようと思って。立木義浩さんとかが撮っていたウイークリー・ファッションというのがありまして、”装苑”なんかよりよかったんです」
―――約20年くらい前のことですね。金子さんの服も登場したんですか。
「私とかケンゾーとかコシノジュンコとか。メチャクチャやらせてもらって、すごくいい時代だった。表紙の服なんかも作ったりしたの、ザ・ピーナッツのとか」
―――どんな服を作ってたんですか。
「ストンとしたの。いまと変わらない」
―――そういえば金子さんの服、毎年あまり変わりませんね。
「いつもいわれるんですよね。でも好きなものはひとつしかないからしようがない」
―――好きなものといいますと?
「これを着たらかわいくなれるだろうな。なりたい、なってもらいたい。かわいい! これですよ、これだけ」
―――女の人はかわいいでしょう?
「いいえ、女の人はかわいくないから、見せかけだけでもかわいくなってほしい。憎たらしいんじゃなくて、しっかりしている。男より頭がいいんですよ」
―――でもピンクハウス着てもかわいくならない、似合わない人もいますよね。
「自分で着たいと思った瞬間から似合うものです。だれでもみんな似合いますよ」
―――着ている人を多く見かけますが。
「ピンクハウスの服着てる女の子とすれ違うと、どんな子でもうれしい。ニカッと笑います。ヘンタイのごとき、です」
―――たくさん作ってるうちにタネ切れになる心配なんてありませんか。
「洋服好きなバカだから、平気なんじゃないですか。作ってればうれしい」
―――毎年ショーをやってて、うまくいくかどうか不安になったりしませんか。
「ショーの準備中は忙しくてカーッとなってますからね、心配するヒマがない。リハーサル、あれがいやですね。すぐ、お客さんが入ってくる。もうどうにもならない、せっぱつまった気持ちがいや」
―――ショーの最中は?
「この服はさげてほしいなあとか思っている。舞台のソデで見ていて、いつも」
―――ショーが終わって、みんなに囲まれてステージに登場しますよね。
「あれ、いやらしい世界ですね。これ私作ったんですよっていうんですから、ちょっとかわいくないですね。私、図々しいから好きですけど。ただ、人前に出て恥ずかしいって思っても、出来が悪くて恥ずかしいと思う余裕はないですね」
―――ショーのあとの反省はしますか。
「成否というより、服が好きだったかどうか。ひとつ気に入らないのがありホントにいやな服だと全部いやになっちゃう。いつも、半分なけりゃよかったなと思う」
―――メゲちゃったりしないんですか。
「つぎの仕事がすぐに始まって忙しいから、今度ガンバリますって自分にいうの」
―――他人のショーを見ると、勝った負けたって思ったりするんですか。
「見て見ぬふり、どのデザイナーもそうですよ。ホメるときはホメるけど。私は自分がトップだって感じたことはない。ビリもないけど」
―――印象に残ってるショーは?
「やりはじめごろの”ビギ”、菊地武夫と稲葉賀恵の。太刀打ちできないほどすごかったね。私はなにかに憧れるって度合が強いから、むかしのあれがよかったとかしつこく覚えてる」
金子さんは半分ポケーッとしながら一日中仕事場にこもっている。アン・ルイスや山口百恵のむかしの曲をガンガンかけて。
「こんな職業、よく世の中にあったと思う。出合えてすごい幸せです」

週刊平凡1983年9月1日号より

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