小渓のほとりの小さな木
胡興智
7月に出版された『高校生からの中国語』は、高校や専門学校で中国語教育に関わっている八人に、企画から関わってくれた国際文化フォーラムの水口さんを加えた九人メンバーによる、一年三ヶ月の「堅苦奮闘」を経てできたものです。最初は、国際文化フォーラムで高校生のための写真教材作成に関わっていた大野先生と私と水口さんの三人から教科書作成の構想が生まれ、その後、同じ志を持つ六人の先生が加わり、一つのチームとなり、地道な作業を行ってきました。例えるなら、小渓のほとりの小さな木が、しっかり根を下ろすまでに成長したといえるかもしれません。
出版直前まで、休日を返上しての編集会議が続きました。その間、メンバーでやり取りしたメールは数百通にも及びました。九人のメンバーは、チームワークを発揮して、議論を重ね研鑚を積んできました。
「九」は中国では数の多さを表す数字だと言われています。九人のメンバーから出された数々の構想やアイデア、意見などがこの教科書のいたるところに散りばめてあり、それが小さな木の幹となり、枝となり、葉となっていきました。
今までの教科書は、文法事項を中心に本文を学ぶものが多いように思いますが、『高校生からの中国語』はコミュニケーションを重視し、イラストを多用し動きのある紙面構成に挑んでみました。文法説明やポイント説明を入れる代わりに、ロールプレイカードをを使って生徒たちが想像/創造する空間が広がるようにしてみました。場面も高校生の目の高さで考え、実際のコミュニケーション場面を想定し、単語や文法事項を考慮しながら、疑似体験ができるように作られています。
中国語は、教室以外での会話練習の相手がなかなか見つからないという環境にあります。これを克服するため、一人でも楽しく学習ができるよう、会話の役割別録音をするなど、CD作成にも工夫をしました。
このようにメンバーの経験と感性で、小さな木はぐんぐん成長しました。「九」の二画めは、角やはねが最も多い形をしています。それと同じように、メンバーは「山重水複疑無路」の彷徨と「柳暗花明又一村」の歓喜を交互に味わいながら、曲がりくねった道をともに歩いてきました。火花が飛び散るほど熱い議論が交わされる時もありましたが、その痕跡は良いかたちで教科書に刻まれているように思います。
また、中国では「九」は縁起のいい数字でもあり、幸運の象徴です。皆が一つの目標に向かって、互いに学びあう機会に恵まれ、幸せな時間を過してきたことに感謝せずにいられません。また、私たちを温かく励ましてくださり、いろいろな面に心労を惜しまず支えて下さった方々に心から感謝しています。
「九」の発音は「永久、長久」の「久」の発音と同じです。『高校生からの中国語』という、小渓のほとりに根を下ろした小さな木は、たくさんの人がその木陰で涼むことが出来るように成長するまで、まだまだ多くの歳月がかかると思います。そのためには、この教科書を手にする先生方、生徒たちからもらう、暖かい光、水や栄養が不可欠です。
この教科書が、語学学習の楽しみや喜びを提供できることを心から祈っています。また、この教科書で学んだことを実際のコミュニケーションの場で役立ててくれることを心から祈っています。