発達心理学会 第11回大会 (東京女子大学)
*企画 司会:浜 ・糸魚川*話題提供:大木・内山・浜・菊井・中島*指定討論:糸魚川・春木

 
「癌の不安とその克服をめぐって」という学会発表(ラウンドテ−ブル)の話題提供者(実体験者)としてお話しをさせていただきました。 当日は発達の視点からということで、子供に与えた影響、又自分自身の生涯発達の出発点の契機として「がん」を捉える考えをお話ししました。ある日、突然降ってきた至高体験についても述べました。「癌体験」をマイナスと捉えるのではなく、より良い生き方を考え実行することのできる又とないきっかけになり得ることを知っていただきたいと思います。

「がん−死から教えられたもの」−発表論文集原稿−
 がんという命にかかわる病気になったことから起きた気持ちの変化を述べてみたい。それは私の場合、「死」を頭で考えるのではなく、実感として捉えたことから始ったように思う。

 今から三年程前に、突然乳がんになって左乳房を全摘する手術を受けた。乳がんというものに知識が無かった為、がん、即「死」に結びついた。又、術後の身体を見たときに大きな衝撃を受けたことでそれまでの自分の価値観に自信が無くなってしまった。どうやって歩いて行ったらいいのか途方に暮れてしまったのだ。
 命に限りがあり、そして残された時間が私にはそうないのかもしれないと考えた時、何としてもいきる意味を見つけなくては、一歩も前に進めない状態に陥った。
 その対処法として、まず目の前のがんを知ることに全力を注いだ。何によって、このような状態に立ち至ったのかどうしても正体を知りたかった。文献を読み漁るだけでなく、しかと相手を見据えてみたく、主治医にお願いして私のがん細胞を見せていただいたりもした。

 全力でがんに向かっていったことにより、半年後に自分なりに自分のがんを位置づけることができた。そして、再発するかしないか、どのくらい生きられるのか今の医学では分からないと分かった時、大事なのはどのくらい生きられるかではなく、どう生きるかということだと思い至ったのである。もし、明日、再発が分かっても悔いの無いようによりよく生きたい。では、よりよく生きるとは私にとってどういうことなのか、自分自身に問い掛ける日々が続いた。
全力で問い掛けることにより、答えが少しづつ返ってくるようになった。共時性という言葉が思い浮かぶような不思議なことが次々と起り、思いもかけなかった世界が開けてきた。

 今、がんになる前の40年より、なってからの三年半のほうが、きちんと私自身を生きている気持ちがする。その変化をもたらしてくれたがんに感謝している。

そして私の変化は家族の変化をも産み出した。夫はもとより、成長期にあった息子に与えた影響は大きいと思える。私が自分を認めたことにより、彼を一個の人格として認められるようになったことで、彼自身の成長を促したように感じるのである。おのおのを認め合った、以前より良い家族関係なのではないか、と思う。

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