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GPSトラックログ
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前日、激しい雷雨が断続的に続くなか車を走らせ、愛山渓温泉に着いた。ただただ無骨に温泉水が流れるだけの原始的な湯船に浸かって運転の疲れを取り、その後車に戻ってクーラーボックスからキンキンに冷えたビールを取り出してのどに流し込んだ。ほろ酔い加減になってまぶたが重たくなった頃を見はからって寝袋に入った。
翌朝は天気予報通りの快晴。しかし外気温は9度と肌寒い。温泉施設の裏手に愛別岳の鋭鋒が朝日を浴びて浮かび上がっている。登行意欲を沸きたさせるには十分なシルエットだった。
肝心装備の腕時計を忘れたので携帯電話を時計替わりにし、GPSのスイッチを入れて出発する。足取りは快調で、この分なら楽しい山歩きになる予感がしたのだった。
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登山口から、一気に永山岳への登りにあるハイマツ帯にワープ。ここまでの詳しいコース状況は昨年の沼の平を参照して下さい。朝露で多少の濡れを覚悟して出発したのだが、昨日の雨で木立や笹に付いた水滴でズボンもシャツもビショビショになってしまった。早めにレインスーツを着れば良さそうなものだが、少しの濡れも全身の濡れも濡れたことには変わりはないという性格だから救いようがない。それでもハイマツ帯を抜け、「銀明水」を過ぎ、永山岳に着く頃にはすっかり乾いていた。
後ろを振り返ると沼の平の湖面がコバルトブルーに輝いている。雲海もないことから、雲やガスが湧き上がって来ることもない。急がずゆっくりと登ることにする。
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水量も落ちて溜まり水のようになった「銀明水」からは緩い登りが続く。この辺りは「永山平」と呼ばれるお花畑で、花を落としたチングルマの綿毛が風に揺れ、銀色に輝いて見えた。緩い登りの先には永山岳(左手前)、国立嶺(くにたちのみね・中央)、安足間岳(右奥)が望まれる。いかにも大雪山らしい風景で心が和む。しかし、この先風景が一変する驚き、これも大雪山の楽しい一面であろう。
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永山岳の手前から後ろを振り返ると、沼の平は遥か眼下に小さくなって見える。永山平の真ん中を通る登山道を抜け、背丈の低くなったハイマツ帯をひと頑張りすれば永山岳頂上に着く。
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登山者が憩う永山岳山頂。安足間岳から「花の台」と呼ばれる尾根途中の小さなコブだが、なぜか立派な名前があり、立派な山頂標識が立っている。山頂に設えられたベンチでは、滝の上分岐からの登りで追い越して行った若者が日向ぼっこをしながら歓談を楽しんでいた。
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永山岳山頂から国立嶺(くにたちのみね・中央)、安足間岳(右奥)を見る。左側は大覗谷(おおのぞきだに)と呼ばれる爆裂火口跡で、大雪山には似つかわしくない荒々しい光景を作り出している。
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永山岳からこれから目指す愛別岳を望む。大覗谷(おおのぞきだに)の右手上方から愛別岳への吊り尾根が延びている。ここから見る感じでは大きなアップダウンもないことから、愛別岳山頂への最後の急登を頑張れば、意外と安易に山頂へ立てるかも知れないと安心する。
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国立嶺(くにたちのみね)の右側をトラバースして安足間岳分岐に出る。右手の手が届きそうな所に安足間岳、これから目指す愛別岳分岐がある火山礫の痩せ尾根の向こうに比布岳、その右奥に北海道第二の高峰・北鎮岳が望まれる。手前は大覗谷(おおのぞきだに)の火口壁上部で、覗けば股間が縮み上がる。
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安足間岳分岐から比布岳へ向かう痩せ尾根の途中に愛別岳へ向かう降り口がある。小さな標識だからガスの時などは見落としてしまうかも知れない。火山礫で白くなった吊り尾根の向こうに急峻な愛別岳が颯爽と聳えている。調べたところ、愛別岳は2000m以上の山としては国内で最北端に位置し、日本国内では愛別岳より北にこれ以上高い山はないとのこと。なんとも登り応えがあるというものだ。
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吊り尾根を最低下部まで下りた所から来た道を振り返る。滑り易い火山礫だが、滑落するほどの急斜面でもないから、慎重に下りれば危険はない。しかし一ヶ所だけ鎖やロープがあればという岩場があった。写真中央上部の「へ」の字に見える岩場で、上からは火山礫斜面に隠れて見えない。
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危険箇所の岩場を下から見上げると、今にも崩れ落ちてきそうな岩の塊のように見えた。下りる時も登る時も落石に注意しなければならないし、足場となる岩の上には滑り易い火山礫の砂が乗っているから滑落に注意しなければならない。間違って転倒でもすれば大怪我は間違いない。手どころに頑丈な鎖1本あれば、どれだけ安全性が高まるかと思うと、ついつい設置を望みたくなる。しかし何も手を施さないのが大雪山の良い所。後は自己責任の問題だろうか。
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吊り尾根の後半は緑もあってルンルン気分の尾根歩き。しかし目の前に迫る愛別岳の山頂がやけに迫力を増して見える。急斜面には明瞭な登山道が見当たらない。近くに行って初めて踏み跡が分かり、ピンクテープも目に付く。ここまで5時間近い時間を要している。疲れもピークに達する頃の急斜面、最後は息も上がってクタクタの頂上到達だった。
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やっと辿り着いた愛別岳山頂は意外と広かった。山頂では吊り尾根で追い抜いていった若者が晴れ晴れとした表情で食事をとっていた。背後に回って写真を撮っていると、また2名の若者が登って来た。
山頂でくつろぐ若者の右手後方に右から比布岳、北鎮岳、凌雲岳といった表大雪の高峰が並ぶ。
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満足そうな表情で記念写真に納まる管理人。想像以上に澄み切った空、目前の火口壁、近くの比布岳、北鎮岳、凌雲岳、黒岳。遠くのニセイカウシュッペ山や手塩岳を見ながら、やっと叶った愛別岳登頂の喜びをじっくりと噛み締めた。
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愛別岳山頂から安足間岳山頂へ一気にワープ。愛別岳からの戻りは、やはり危険箇所だけが要注意だった。滑る火山礫の斜面も難なく登り切った。晴れていたから安易に感じた吊り尾根だったが、風の強い日や、ガスで足元が見えない時などは吊り尾根全部が要注意地帯に豹変するのだろう。
安足間岳山頂から安足間岳分岐(中央)を見ると、その背後に愛別岳山頂部が頭を出しているのが見えた。
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安足間岳から北海道最高峰の旭岳方向を見る。どこが山頂だか分からない中岳から裾合平にかけて俯瞰出来る。今日の最高地点・安足間岳は2,200m。旭岳や白雲岳などの人気の山はもとより、十勝連峰の山々や芦別、夕張の山々がはっきりと確認出来た。
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安足間岳から、これから下って行く当麻岳の連なりを見下ろす。山頂標識もない山だが、どうやら最初のコブが山頂らしい。登山道は小さなアップダウンを繰り返す尾根上に付いていて、高度感満点の歩きを満喫出来る。
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当麻岳手前から下りて来た登山道を振り返る。右に安足間岳、その左に国立嶺(くにたちのみね)から永山岳へ続く稜線が見える。
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当麻岳は4つのコブが連なっていて、登山道はその稜線上に付いているから高度感満点の歩きが楽しめる。天気が良いから爽快だが、ガスっていれば危険この上ないルートに変わるだろう。岩につまずかないよう慎重に通過する。
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当麻岳最後のコブからピウケナイ沼、大沼小沼、沼の平を見下ろす。ここから当麻乗越までの下りは目印も少なく、注意を怠れば道を外す危険性もある。ガスの時などは要注意な箇所だ。
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当麻乗越から旭岳を望む。ここは縦走路の重要な分岐点。当麻岳、姿見の駅、愛山渓温泉へと道を分ける。時間が止まったような風景で、これまでの疲れが吹き飛んでいくようだ。しかし・・・
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当麻乗越からピウケナイ沼を見る。声も出ないほどの見事な自然の造形美。手付かずだからこそ残っている自然の美しさ。いつまでも後世に残したい光景だ。
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当麻乗越から沼の平手前までは酷い悪路で、すっかり体力を消耗してしまった。登山道の上に笹が生い茂り、足元が見えないばかりか、前日の雨で大きな水溜りが出来てドロンコ状態。その上、大きな岩や急激な段差があって一瞬たりとも気が抜けない。
やっと辿り着いた沼の平「六の沼」で小休止。目の前には今日歩いてきた山々が沼越しに連なっている。左から愛別岳、永山岳、国立嶺、安足間岳、当麻岳とすべてが望まれる。思えばよく歩いたものだが、まだ先は長いのでここで気を緩める訳にはいかない。
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沼の平「五の沼」から花の台の稜線越しに愛別岳を見る。下りは昨年歩いた三十三曲坂コースが結構荒れていたため、登りと同じイズミノ沢コースを下った。しかし沼の平から滝の上分岐までの連絡路も笹が生い茂り、まったく足元が見えない。荒れた登山道でもないので歩くのには問題ないが、紅葉の名所と名高い沼の平の登山道としては、いささか心許ないと感じた。多くの登山者を愛山渓温泉に呼び寄せるには、安心して歩ける登山道の整備が急務だと感じた。
山の中が暗くなる夕刻前に愛山渓温泉に戻ってホッとしたが、違和感を覚えていた足の裏は、悪路で登山靴に水が入り込み、靴下が濡れたせいで足は白くうるけて、足裏の皮膚が所々剥がれていた。痛みを感じるほどではなかったが、久し振りに酷使した足もギブアップ寸前だったのだろう。
この後、層雲峡温泉「黒岳の湯」に浸かり、ビールを飲んで寝袋に転がり込んだ。
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