初秋のニペソツ山 2,013m
2013年9月13日 晴れ
杉沢コース 同行者・S氏
23年前のニペソツ山
東大雪と言えば石狩岳とニペソツ山が双璧をなす。石狩岳は石狩連山の盟主として君臨しているのに対して、ニペソツ山は天を刺すような鋭い山頂と、すっぱりと切れ落ちた断崖を持つ孤高の山である。
深田久弥が「日本百名山」を執筆した後、「日本百名山を出した時、私はまだこの山を見ていなかった。ニペソツには申し訳なかったが、その中に入れなかった。実に立派な山であることを、登ってみて初めて知った」と、別の著書で記している。
そのためか「悲運の山」とか「幻の日本百名山」とも呼ばれている。
23年前に登って以来のニペソツ山。あの時は悪天で、山中では誰にも会わなかったことを思い出す。唯一の救いは前天狗からニペソツ山の全貌を見ることが出来たことだった。
長時間の登りを強いられることもあって、なかなか再訪する思いには至らなかったが、今回、先輩のS氏から「一度ニペソツ山に登ってみたい」との誘いを受けた。年長者から誘いを受けて断るのでは男がすたる。
そんなことで「岳人憧れの山・ニペソツ山」を登った。
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GPSトラックログ
登り・5時間35分(大小の休憩時間含む)
下り・5時間(大小の休憩時間含む)
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前夜は杉沢出合いの登山口駐車スペースで車中泊。S氏は満天の星空を眺めながら、子供の頃に見た田舎の夜空を思い出したと感慨深そうに語った。
翌日の長丁場を思えば、体力を温存するために早寝すれば良さそうなものだが、酒好きが揃うとそうは行かない。車の中にミニテーブルを設えて宴会が始まった。結局、3時間近く飲んで話して、お開きにしたのが午後9時だった。
朝が白み始めた5時近くともなると、次々と登山者が出発して行く。空を見上げると明るい日差しが射している。今日はどうやら天気予報通り最高の山日和になりそうだった。
沢に架かった丸木橋は朝露で滑り、少し緊張気味のスタートになった。
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昨夜の飲み過ぎがたたったか、S氏のペースが上がらない。登り始めて1時間ほどで鼓動がいつもより早いので大休止を取るという。これからのアップダウンを含めた長丁場を思うと、ここで無理をすると後々影響が出てくる恐れもある。休憩に都合の良いスペースを見つけ、腰を下ろしての大休止を取ることにした。
次々と登って来る登山者に抜かれ、どうやら今回はスローペースの登山となることを覚悟したのだった。
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高度を上げるとともに木の葉が色付いて来る。見上げる小天狗の山肌は黄色く色付き、早くも秋の気配を感じさせてくれる。
見通しの良い登山道から後ろを振り返ると、手前にはテーブル状の軍艦山、奥の左には通称「オッパイ山」と呼ばれているピリベツ岳と西クマネシリ岳、その右に南クマネシリ岳が見えた。その遥か右奥には、はっきりと阿寒の山々が確認出来た。
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このコース唯一の危険個所「小天狗の岩場」を通過するS氏。足元下の岩を横ばいに通過すれば良さそうなものだが、怖いので上を通過すると言う。高い所を横伝いに渡る姿に、なんだか下で見ている方が怖くなって来た。
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「小天狗の岩場」を通過すると目の前が開け、前天狗の姿が見えて来る。ナナアマドが色付き、秋らしい風情が漂う。
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「天狗のコル」にあるテント場を過ぎると、今度は緩い登りが始まる。ナナカマドやハンノキの茂る登山道を進むと、やがてはハイマツが現れ、岩の露出した登山道に変わって来る。
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石狩連山が正面に見える開けた岩場でまたも大休止。すでに疲れもピークに来ているS氏だが、次々と登って来る登山者に声を掛けて立ち止らせていた。
この辺りからナキウサギが見られるのだが、我々の話し声が大き過ぎるせいもあってか、その姿の欠片さえ見ることが出来なかった。
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前天狗の岩場は真っ赤に染まったウラシマツツジが、絨毯のように敷き詰められている。その視線の先には三国峠から連なる山々が、屏風のようにそそり立っている。右からユニ石狩岳、音更山、石狩岳、上川岳と続く稜線は険しく長い。
その背後にはまだ雪の残る旭岳や白雲岳などの表大雪の山々が望まれた。
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石狩連山から左に目を移すとトムラウシ山が見え、その左には十勝連峰のオプタテシケ山が姿を現した。じっくり眺めていると、あの稜線を歩いた日々が懐かしく思い出されるのだった。
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そろそろ前天狗が近い。背後に迫っていた若い登山者にあっという間に追い越される。前天狗の最高峰は正面の岩山。登山道はその左のコルに延びている。
あのニペソツ山の雄姿がまた見られると思うと心が騒ぐ。心なしか足取りも軽くなったようだ。
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ついに前天狗に到着。やはり素晴らしいニペソツ山が待っていた。この感動は口にしたり文字にしたりするのもはばかられるほどだ。じっと見詰めるだけで十分なのだ。
遅れて到着したS氏もあまりの見事さに茫然自失。しばらくはその場から動けない程だった。せっかくだから記念写真をと言ったのだが、この光景に疲れた姿は入れられないと断られてしまった。
当然ここでも大休止。じっくりと息を整えてから天狗平へ足を進めた。
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天狗平への登りから前天狗を振り返る。岩石が積み重なったような山容が分る。大きく下ってからの登り返しだが、この程度に驚いていては次のアップダウンに耐えられない。
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天狗平から天狗岳越しにニペソツ山を望む。すっぱり切れ落ちた東壁があらわになって目に近づいて来た。登山道は天狗岳の山肌上部をトラバースするように延びている。
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天狗岳のトラバース途中からニペソツ山を見る。真っ赤なウラシマツツジ、緑のハイマツ、灰色の山肌、そそり立つ山頂。時間を忘れて魅入ってしまうほどの光景だ。
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トラバースが終わると、今度は最低コルへの急降下が始まる。このアップダウンが登山者の体力を容赦なく奪うのだ。
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山頂付近をズームアップして見る。ハイマツの中を直登し、途中から右に折れてガレ場に延びる登山道が確認出来る。山頂への最後の道は反対側の西側に回り込んで延びている。
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最低コルから下って来た天狗岳を見上げる。帰りにまたここを登らなければならないと思うとウンザリするが、それがニペソツ山の厳しさなのだと納得するより仕方ない。
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最低コルから十勝連峰を望む。右にオプタテシケ山、中央に十勝岳、左に下ホロカメットク山と、連峰の山々が一望出来た。
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さあいよいよ最後の登り。250メートル以上の標高差、急斜面を見上げるとため息が出るが、ここを登らない限り山頂には立てない。
もう少し休みたいというS氏を置いて先に出発する。
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急斜面の途中から天狗岳方向を振り返る。前天狗も見えて複雑な山容が理解出来る。S氏は十分な休憩を取ったようで、かなり離れて登って来ているのが確認出来た。
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東壁の北側端に連なる岩壁。山頂直下からかなり離れているが、その切れ落ちる角度は半端ではない。上部に登山者が見えることで登山道の位置が分る。
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登山道から山頂直下の岩壁を見上げる。左いちばん奥が山頂。登山道は右上のガレ場を横切って裏側に回り込んでいる。
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山頂直下の切れ落ちた岩壁の下部。奥にウペペサンケ山が見え、そのまた奥に然別湖周辺の山々が確認出来た。
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ガレ場をトラバースし、西側に回り込むと奥に山頂が見えた。切れ落ちた東側に比べて優しい斜面に登山道が続いている。山頂に数人の登山者が確認出来た。
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予定より大きく遅れてニペソツ山の山頂に立つ。S氏はやっと西側に回り込んだ所だった。もう危険個所もないので心配はいらない。
狭い山頂には我々を追い越していった登山者が、腰を下ろして少し早い昼食をとっていた。
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山頂から歩いて来た方向を見下ろす。手前に切れ落ちた東壁、最低コルの先に天狗岳、少し凹んだ皿状の天狗平、その向こうに前天狗の岩山と、すべてを見ることが出来た。
23年前の山頂はガスに巻かれ、何も見えずに戻った苦い経験があるので、今回の登頂は溜飲の下がる思いだった。
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山頂からウペペサンケ山方向を見る。東壁の南端もやはり鋭く切れ落ちている。よく地震や大雨で崩壊しないものだ。
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狭い山頂に20人以上の高校山岳部の若者たちが到着したので、30分ほどの休憩で山頂を後にした。S氏は疲れているのにも関わらず、帰りが遅くなるからと言って10分ほどの休憩で先に下りてしまった。
写真は山頂のすぐ下から西側斜面をトラバースする登山道を見下ろしたもの。その先に石狩連山の長い連なりが見えた。
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南側のガレ場を下るグループ。S氏はかなり先を歩いているようで、ハイマツの中に隠れてしまった。それでも最低コルまでには追い付き、天狗岳の登りでは先行することになった。
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帰りの前天狗ではごろ寝しての大休止。帰りの時間を逆算しながら目一杯の時間を休みに充てる。休んで間もなく下山する高校山岳部の若者たちが到着。登りの時もそうだったが、彼らの休憩時間は我々よりもずっと長い。しかしなぜだか早々と追い抜かれてしまう。悲しいかな、これが年代の差という現実だということを認識させられたのだった。
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小天狗の岩場を過ぎてまたも大休止。さすがに追い抜かれる登山者も少なくなって来た。それでもそこから登山口まではノンストップで下ったが、と言ってスピードが上がった訳でもない。
やっと登山口にたどり着いた時には、あれほど並んで停まっていた車が一台もなくなっていた。残っているのは我々が乗って来た2台だけ。後は遅い時間に登り始めた登山者の車が離れた所に数台あっただけだった。
帰り支度をしていると1台の車が上って来た。明日登る予定だというが、翌日の天候が雨だったので、登れたのかどうか。
S氏とは十勝三股で別れ、ひとり糠平温泉郷に向かった。しかし、あまりにも遅い下山だったので、糠平や然別の日帰り温泉には時間切れで入れず、道の駅「しかおい」で夜を明かした。翌日の帰り、夕張郡由仁町にある「ユンニの湯」まで入浴が出来なかったのは辛かった。
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