『マダムとミスター1』
第1話
あらすじ
イギリスの大富豪ジョンストン家。ここでは亡くなったばかりのジョンストン氏の妻、グレースが暮らしていました。彼女はもともとジョンストン家のメイドだったのですが、病床のジョンストン氏に見初められ、めでたく結婚したのです。プロポーズの言葉はなんと「財産目当てで良いから結婚してくれ」でした。
新婚生活はわずか三ヶ月。ジョンストン氏が亡くなったため、グレースは20歳そこそこの若い身空で大富豪の未亡人となったのでした。
グレースはとってもミーハー。なのでTVによく出る有名な霊能力者ラスネイルに霊視して欲しくてたまりません。そこでTV局に「亡くなった主人の霊が出る」と書き送って、まんまとラスネイルに来てもらいました。
執事のピーター・グラハムは見るからに怪しげなラスネイルを家に入れる事には反対ですが、グレースは聞く耳を持ちません。霊視途中にトラブルが起きたのをいいことにラスネイルに邸での滞在まで勧める始末です。
おまけに階段から落ちて怪我をしたグレースは、ラスネイルに相談します。ラスネイルは莫大な遺産を相続したばかりなのだから、霊以外の可能性もあるのでは?と指摘しますが、グレースは「私が受け取ったのは遺産の半分。残りの半分は私の子供が・・・」と言いかけてグラハムに止められてしまいました。
とにかくジョンストン氏の霊だけでなく、遺産相続を妬んだ生霊の仕業とも考えられるので、とラスネイルは自分の首にかけていたペンダントをお守り代わりにグレースに渡します。
その夜、寝苦しくて夜中に目を覚ましたグレースは窓の前にジョンストン氏が立っているのを見てしまいます。グラハムは幽霊なんて実在しません、と言い張りますが、ラスネイルはかなり危険な状態なのですぐに除霊をしなければならないと言い出しました。
恐くて眠れないグレース。グラハムは仕方なくグレースが眠りにつくまで側にいることにしますが、どうしてグレースが急に心霊になんか興味を持ったか気になるところ。問い質そうとするグラハムの背後に、グレースは再びジョンストン氏の姿を見ます。ところが振り返ったグラハムには何も見えないのです。
なにはともあれ除霊が始まりました。怪しげなセットでグレースとグラハムの正面に座り、なにやらつぶやき始めたラスネイル。その背後に、確かにジョンストン氏の影が一瞬現れ、消えました。今度はグラハムもしっかり見たのですが、「見たでしょ!?」と興奮するグレースに、なぜかグラハムは浮かぬ顔。
と、ラスネイルは何か話し始めました。ジョンストン氏の声で「一人で淋しい・・・」と言っている模様。正気に戻ったラスネイルに尋ねると、生前強欲だったジョンストン氏は死後の世界でさまよっており、グレースを道連れに求めているのではないかと言います。
そんなことを言われて眠れるわけもなく、ラスネイルからベッドに入ってもラスネイルにもらったお守りペンダントを眺めながら考え込んでいると、再びジョンストン氏の影が現れました。正体を確かめようと近づくグレース。と、背後から何者かに首をしめられます。
絶対絶命のグレースの前に現れたグラハム。首を締めようとした者を捕まえて投げ飛ばします。気絶した相手の顔を見てみると、それはなんとラスネイルでした。ジョンストン氏の影も、実はラスネイルに渡されたお守りに仕掛けがしてあって、ある方向に向けると映像がでるようになていただけでした。霊を見たグラハムが浮かない顔だったのも、機械の音が聞こえて何か仕掛けがあるらしいと感づいたから。
捕らえられたラスネイルは、ジョンストン氏の親戚のロイド夫人から、グレースを脅して遺産を放棄させるよう頼まれたと白状します。
でも本当は、グレースが財産を放棄しても遺産はロイド婦人のものにはなりません。第一グレースだって相続したのは遺産の半分。残り半分はジョンストン氏の息子が相続しています。
ジョンストン氏のたっての願いで養子縁組した執事のグラハムです。だから実際のジョンストン家の当主はグラハムなのですが、代々執事を続けてきたグラハムは、いまだに執事を続けているのでした。
これで幽霊騒動はめでたく解決。でも、どうしてグレースの危機にあんなにタイミング良くグラハムが現れたのか・・・聞かれたグラハムは、ジョンストン氏が用を言いつけるときに鳴らしていたベルの音が聞こえた気がしたからだと答えます。
もしやあの世からジョンストン氏は見守ってくれているのかも?そう感じながら、グレースはグラハムの疑問に答えます。
どうして急に霊視に興味を持ち始めたのか。
「じいさま(=ジョンストン氏)のことが好きだったのに、それを伝える前に死んでしまって、それが心残りだったから」
でもグラハムも答えます。
「旦那様(=やっぱりジョンストン氏)はご存知でしたよ」
それを聞いて安心するグレースでした。
お気に入りphrases
怪我して救急車で運ばれたグレースの台詞
その1:「救急車に乗ったの初めて。おもしろかったー。」
その2:またいつ救急車で運ばれてもいいように下着は上等のものをつけとくわ。」
まあ、何が起きても前向きなのがグレースの良いところだということで・・・^^;
とりあえずジョンストン氏が連れて行こうとするなら子供の時から知っているグラハムの方だろう・・・というか、生前のジョンストン氏を知っていれば誰かを道連れにするような人ではないと分かるのですが、なんにせよ死人なのにおいしい役割・・・。
第1回目と言うこともあって、とりあえずグラハムが実は現在のジョンストン氏(=ミスター)なんですよ〜ってことと、二人の性格の違いなんかを紹介しています。
グラハムは真面目な堅物で幽霊なんて絶対に信じない現実主義&冷静な人間。
グレースは騙されやすいけれどタフで何事も前向き。
そしてグレースが興味半分に首を突っ込んだ騒動に振り回され、後始末にまわるグラハム。
そんな二人をジョンストン氏は天国から見守ってるからね〜って感じです。
第4話
あらすじ
今回はジョンストン氏生前のお話。
寝たきりのジョンストン氏の元に薬を持ってきたグラハム。すでに養子縁組を終えてジョンストン家の時期当主になったグラハムに、いつまでも執事をやらなくていいのに、ジョンストン氏は言いますが、真面目一筋のグラハムは聞きません。
が、ジョンストン氏は死期が迫っていても人生は楽しむ!というわけで1ヶ月前に雇ったメイドのグレースと結婚する、と言い出しました。
グレースのどじぶりを知っているグラハムはなんだか嫌な予感を感じながらも反対はせず、二人はめでたく結婚しました。
が、新婦のグレースは深夜にどこかへ出かけて行きます。けれどどんなに遅くに帰ってきても朝から元気にジョンストン氏の世話をするグレースに、グラハムは複雑な気分。
そんなある日、昔ジョンストン氏の求婚を断って貴族と結婚したビューモント夫人から、招待状が届きます。名画の鑑賞会を開くから、是非グレースに来て欲しいと言うのです。どうやら昔振った恋人が若い女と結婚したと聞いて、グレースの値踏みをしたいらしいのでした。
が、グレースは相変わらず夜になると出かけて行きます。1度など遊び人風の男が迎えに来て、グラハムの胸中はさらに複雑化するのでした。
グレースの行動を調べたグラハム。でも、グレースを良い子だ、と言い張るジョンストン氏に本当のことは言えません。反対にジョンストン氏は性格が正反対のグラハムとグレースが自分の死後仲良くやって行けるのか心配です。
仕方なく一人でグレースを問い質すグラハム。
グレースはジョンストン氏にもらったカードで多額の現金を引き出していたのです。しかもそれを以前迎えに来た男、マークに渡したのだといいます。けれどマークは麻薬所持で逮捕歴のある男だったのです。
自分の交友関係を調べられた上に口出しまでされて、グレースは怒ったままでかけますが、その夜警察から電話が。グレースが酒場で喧嘩して保護されているというのです。
慌てて迎えに行ったグラハム。あっけらかんとしているグレースの隣では、一人の女性が泣いていました。実はグレースはこの友達が妊娠したので、相手のマークと話をつけようとしていたのです。お金も中絶費用として渡したのにマークは酒場で飲んでいたから、乗りこんで行ったグレースと喧嘩になったのでした。
ヤク中で無職の男の子供、しかも結婚する気などさらさらないから未婚の母になってしまうことを、グレースは自分の母親に重ねて反対していました。母親はいつもグレースを生んだことを後悔していたのです。
そんな身の上話をしながら明るく笑うグレースを、グラハムも少しだけ良い子なのかもしれない、と思うのでした。
そしていよいよビューモント夫人の名画鑑賞会の日。寝たきりのジョンストン氏に代わってグレースとグラハムが出席します。
グラハムは、グレースがなにか失礼なことをしないかと内心ハラハラ。けれど、嫌がらせのつもりで絵の解説を頼まれたグレースは見事にそれをこなし、周囲を感心させます。実は美術館に頻繁に通っていたので、絵には詳しいのでした。
けれどそこでビューモント夫人と口論になり、とうとうひっぱたき合いが始まってしまいました。
が、突然ビューモント夫人にワインクーラーの水が!なんとやったのはグラハムでした。グレースに対してあまりに失礼な態度を取ったのに怒ったのです。
邸に戻って一部始終を報告する二人。ジョンストン氏は大笑いですが、グレースは本当は立派に振舞ってジョンストン氏を振ったビューモント夫人の鼻をあかしたかったのです。それができなかったどころか騒ぎを起こしてしまって、普段の明るさが嘘のように反省しています。
しかもいつも口うるさく怒るグラハムが黙っているので、もう許してもらえないと思ったグレースは邸を出て行こうとしました。
気付いたグラハムがグレースを引きとめようとしますが、そんな二人にジョンストン氏の容態が急変したとのしらせ。
慌ててかけつけた二人に、ジョンストン氏は自分の死後仲良くするようにと言い残して息を引き取りま・・・せん。
実は二人を仲良くさせるために芝居をしただけでした。
実はビューモント夫人に氷水をかけたことを反省していたグラハムは、反省しながらもなぜか気持ち良かったから、グレースとも気が合うかもしれない(なんでや?)と話します。グレースも、グラハムの頭の固さや口うるささにうんざりしながらも黙っていられると淋しく感じると話します。どうやら二人は仲良くできそうな兆しを見せ始めていました。
そして本当にジョンストン氏がなくなって・・・二人は相変わらず喧嘩してるんだか仲良しなんだか分からない暮らしを続けています^^;
お気に入りphrases
結婚時のグレースの台詞
「顔や性格に魅力を感じるのと財産に魅力を感じるのは同じだと思うわ。」
「色あせる思い出よりも永遠に輝くダイヤがあたしは好きよ」
ここまでくると清清しいです。
ジョンストン氏もその清清しさを気に入った模様。「お金が目的じゃないの」なんて言われたら、逆に疑心暗鬼になりそうですもんね。
お金に限らず、よく「あなたのためよ」とか「私のことはいいから」なんて言う人がいますが、私もこういう人は信用できないです。そうじゃなくて本当は、自分にとって都合がいいからこうしてほしい、と思っていたり、自分のことを犠牲にしてる私って良い人でしょ?って思って欲しくて発言しているように聞こえるのです。本当の思いやりって言うのは美辞麗句の中に含まれているものじゃなくて、一件冷たそうな言葉とかきつい言い方の方にこそ含まれているように思います。
友達も正直に何でも言ってくれる人が多いです。「正直にここが悪い、って言うとその人がかわいそうだから」っていのは、本当は自分が悪く思われるのがいやなんですね。「いつまでも悪い点を指摘しないで放っておけば、本人は気付かないまま色々な人に悪い印象をもたれてかわいそう」と考えて注意してくれる人の方が安心できます。
あれ?ちょっとずれてるか?
第二巻収録分
第5話
あらすじ
ジョンストン家に、財産を狙うロイド夫人が訪ねてきました。
故ジョンストン氏の隠し子の息子、ジェレミーを見つけ出して連れてきたのだと言うのです。
ジェレミーは現在ケンブリッジの学生。両親は事故ですでに亡くなっていますが、母親がジョンストン氏の娘だった、つまり自分はジョンストン氏の孫だと言います。証拠となるジョンストン氏の手紙や小切手も揃っているのです。
あのロイド夫人が連れてきたと言うのだからきっと何か裏があるはず、とグレースは疑いますが、グラハムはジェレミーを快く屋敷に泊め、もし本当に血縁関係があるなら、自分が相続した財産も全て譲ると言い出します。自分は再びただの執事に戻るから何も変わらない、グラハムはそう言うのです。
けれどグレースは、血のつながりはあってもジョンストン氏のことなど一切知らないジェレミーより、ずっと尽くしてきたグラハムの方がよほど本当の家族だったんだ、と財産放棄には反対です。
翌朝、ジョンストン氏の写真を1枚欲しいと申し出たジェレミーに、グラハムは写真だけでなく全てのものをジェレミーに渡すと言います。
が、ジェレミーはもし財産を相続すれば全てをナショナルトラストへ寄付する、と言い出し、もし屋敷がジェレミーのものになってしまうと、グラハム達は住むところがなくなってしまうことが判明します。
グラハムはここで生まれ育ったし、たくさんの思い出もある、だから屋敷は取り上げないで欲しいとジェレミーに訴えたグレースですが、ジェレミーは全く相手にせず、逆にグラハムをばかにした発言をする始末。
これにはグレースも激怒しますが、グラハムの気持ちは変わりません。
メイドの次の就職先を手配し終えたグラハムは、真夜中にこっそり家を出ようとします。
が、グラハムの性格を熟知するグレース。車のトランクに隠れて後をついて行きます。途中で気付いたグラハムがグレースを外に出したのですが、その時トランクに忍ばせていた時限爆弾を見つけます。
なんとか爆発を免れたものの、ロイド夫人とジェレミーに改めて不信感を抱くグラハムは、二人を調べ直すと宣言しました。
が、調べる前に行くところがあります。
ジョンストン氏の元恋人とその娘さんのお墓参りです。が、二人はそこで小さな墓を発見しました。名前はジェレミー。
・・・ということは、本物のジェレミーはもう死んでいる?
あれ?と顔を見合わせた二人の前に、渦中の人ジェレミーが現れます。
実はジェレミー(死)は事故で亡くなったお母さんの連れ子。ジェレミー(生)は事故で亡くなったお父さんの連れ子。名前が同じだったのは偶然ですが、つまりジョンストン氏と血のつながりがある方のジェレミーはすでに死亡していたのです。
ではなぜこんなことをしたのか?
実はジェレミーもロイド夫人に騙されていたのです。
ある日突然彼女がやってきて、ジョンストン氏が詐欺師(グラハム)とその情婦(グレース)に殺された、と訴えたのでした。証拠がなくて警察は動いてくれないけれど、せめて遺産は取り戻したい、だから協力してくれないか、と持ちかけられていたのでした。
お互い実はいい人だったんだ・・・と誤解がとけた二組。仲良くお墓参りを済ませますが、グレースの怒りは収まりません。
ロイド夫人を許せない!と喚くグレースを尻目に涼しい顔のグラハム。「あなたも怒りなさい!」と言われても涼しい顔で「怒ってますよ」しか言いません。
そして数日後、ロイド夫人が多額の寄付をしたという記事が新聞に載りました。
実はグラハムとジェレミーが仕組んだのです。この後ロイド夫人は脱税がばれ、株も下がって無一文になる予定、と相変わらず涼しい顔のグラハム。実は相当怒っていたようです。
そんな分かりにくい人だと誤解されてばっかりよ!と言うグレースに、グラハムは、一人だけ分かってくれる人がいるのでそれでいいと答えます。
ちょっとうれしいグレース。
が、ジョンストン氏には実は他にも小切手を送った女性が5人も・・・
「・・・あのじーさんは・・・」と呆れるグレースでした。
お気に入りphrases
「なんで・・・あなたの代わりにあたしが泣いてやらなきゃいけないのよ・・・!」
ジェレミーは財産をすべて寄付すると言います。家を失うことになるグラハムは、それでも血の繋がったジェレミーが正当な相続人だからと、放棄する決意を変える気はありません。
ぽっと現れた孫より、グラハムの方がジョンストン氏を大切にしていた、亡くして悲しんだ、なのに今度は思い出の詰まった家まで失おうとしている。そう言い出して泣き始めたグレースの台詞です。
グラハムはグレースを抱きしめて「ありがとう、グレース」と言うのですが・・・ってことはやっぱり本当は屋敷を手放すの嫌なんだよねー。
この時もグラハムは平然とした表情で財産を譲ると言うのですが、本当は屋敷にこのまま居たい、思い出を失いたくない、そんなグラハムの気持ちを汲んで、グラハムの代わりに泣いてくれるグレースは、最後のグラハムの台詞の通り唯一の理解者なんですね。
ついでにグラハムがはじめてグレースを呼び捨てにしたのもこれが初めて?今までは「奥様」と呼んでいましたから。
隠し子騒動で二人の距離が一気に近くなった、そんな予感の第5話でした。
遠藤先生の書くお話の特徴の一つがここでも出てきます。
「血のつながりだけが家族ではない」
そんなの当たり前だろう?と思う人は多いかもしれませんが、血の繋がった人間を引き合いに出して、血の繋がっていない方に軍配をあげるのは珍しいんじゃないでしょうか。『山アラシのジレンマ』『グッナイ・ハニー』『家族ごっこ2』など、みんな本物の家族と住むか、全くの赤の他人だけど、絆だけは持っている人を選ぶのかで、必ず赤の他人と暮らす方を選びます。
よくテレビの感動ものの番組で「本物のお母さんに会いたい」「本物のお父さんに会いたい」というのがありますが、継母や継父にいじめられていたならともかく、かわいがられていてもやっぱり本当の両親に会いがって、スタジオのコメンテーターの人達も、「やっぱり本当の家族がいいわよねぇ」というのが私にはどうしても解せません。
確かに血の繋がった家族と幸せに暮らせれば一番幸せだろうけど、血って、そんなにこだわるものなのか疑問です。
たとえ無関係の人とでも幸せになろうと思えばなれるはずだし、「血」という問答無用の絆がない分、別の何かで絆を作らなければならず、一生懸命相手を理解しようとするのかもしれません。
・・・全然関係ないけど、今思い出した哲学もどき:その4に書いた国際化について。
英語を話せるようになると、言葉が通じることで却って本当に理解しようとする努力をしなくなる、と書いたんですが・・・考え方の根が一緒・・・ってことでしょうか。
・・・お暇なときにでも、こちらの方もお読みください。
第6話
あらすじ
大事なチケットをなくしたグレースは屋敷中をさがしまわって大騒ぎ。しかもちょっと雑誌を見つけては読み入ってしまい、なかなか見つかりません。
グラハムが呆れていると、そこへ電話がかかってきました。グラハムの母方のいとこ、ベンジャミンからです。
小さい頃に両親が離婚して父方に引き取られたグラハムは、それ以来母親には会っていないし、ベンジャミンとも疎遠でした。
「久しぶりに連絡取れたんだから会ってくれば?」
というグレースに、グラハムは
「いいんです。母が入院中で危ないって知らせてくれただけですから。」
とこともなげにいいます。見舞いに行くつもりはないから病院の場所は聞いていないとのこと。
そうはいっても超人グラハムが調べれば簡単に病院くらい分かるはず、とグレースはなおも食い下がりますが、母には新しい家族もいるし、合いたがっているかどうか分からない、とグレースを置いて執事の仕事へ戻ってしまいます。
銀食器を磨きながらグラハムは小さい頃のことを思い出していました。
遊びに行こう!と誘いに来たベンジャミンに、上着がないから行かないと半べそで答えるグラハム。
お母さんが作りたての上着を着て森に遊びに行ったら、なくしてしまったのです。おまけにお父さんともけんかしたお母さんはものすごく不機嫌な模様。幼いグラハムは、お母さんの機嫌を悪くしてしまってがっかりしているのです。
「じゃあ上着を探しに行こうよ。」
と明るく誘うベンジャミンは、「僕も探したけど見つからなかった」と話すグラハムを、無理矢理森へ連れて行きます。
「そんなこともあったなあ。」
と思い出に浸っていると、なにやらどこかで騒々しい音。かけつけてみるとグレースが色んなものの下敷きになってます。
「掃除をしてるんだから放っといて!」とグラハムを追い払うグレースですが、実はグラハムの母親の連絡先を探していたのです。
というのもグラハムはジョンストン家の養子。養子縁組をする時には、いくらなんでも母親と連絡を取ったはずだから、どこかに手がかりがあるだろう、というわけです。
が、図書室の本を一冊ずつ調べ様と脚立に上ったグレースは落っこちて足の指を2本も骨折してしまいます。
「もう気が済んだでしょう。養子縁組の後に母の連絡先は処分したからいくら探してもありません。」
と諭すグラハム。グレースの目的はばればれだったのです。
グレースは誤解をしている、とグラハムは話します。別に確執や感傷めいた気持ちで会いに行かないわけではないのです。でも、自分はもうジョンストン家の人間、母にも別の家庭がある。お互い別の人生を歩んでいるから、お互いの立場を守りたい、それだけだと言うのです。
でも、グレースには逆に母親に対する感傷があります。(詳しくは第3巻「ニューイヤー」参照)
グレースは母親をなくしてから、死に際に優しくできなかったことを後悔したのです。あまり愛情も示してくれない母親でしたが、それでも期待したり。グラハムにはそういう感情はないの?と尋ねるグレースに、グラハムは上着の話をします。
グラハムが物心ついた時から両親は喧嘩ばかり。いらいらは幼くて要領の悪いグラハムに向けられたようです。いつも怒られていたと語るグラハム。今の優秀さからは想像できない・・・。
でも、ベンジャミンに引っ張られるように森に上着を探しに行くと、上着は川に流されていて、下流で岩に引っかかっていました。ぼろぼろにはなっているけれど見つけたからきっとお母さんは喜んでくれる!そう思って意気揚揚と帰宅しましたが、それを迎えたのはお父さんだけでした。
離婚が成立して、お母さんは出て行ってしまったのです。
「今日からお父さんと二人きりだ。」そう言われも、グラハムにはどうすればいいのか分かりません。ただぼんやりと、「上着を乾かさなきゃ」と立ち去ろうとするのですが、上着はもう破れているしどろどろです。
「捨てるしかないな。」
事情を知らないお父さんにあっさり言われてしまいました。
大人になったから、母が父とのことでどんなに傷ついていたか分かる、でも今は穏やかに暮らしているんだから、それでいい、とグラハムはグレースに語ります。
それでも納得できないグレースを病床に残し、グラハムは再び仕事に戻ります。でも、頭の中ではベンジャミンの言葉がうずまいています。
「上着を探しにいこうよ、きっと見つかるよ。」
確かに見つかったけど、それはぼろぼろになっていて、グラハムが探していた「上着」ではなくなっていた・・・そんなことを考えています。
しかし、感傷に浸らせてくれないのがグレース。ベッドを抜け出して行方不明です。
慌てて探すと、グレースは本棚の裏でうずくまっていました。無理に動いたから骨折した足が痛いのです。でも、ついに母親の連絡先は見つけました。
たとえグラハムが連絡先を処分していても、故ジョンストン氏はどこかに残しているはず!そう信じて探した結果、見つかったのです。
怪我を押してグレースが見つけ出したのですから、グラハムも会いに行かないわけにはいきません。
病院に駆け付けると、異父妹セシルがグラハムを暖かく迎えてくれました。そして母親は息を引き取る寸前。ぎりぎりで間に合ったのでした。
葬式を終えて屋敷へ戻ったグラハムがメイド達に臨終の様子を話していると、そこへセシルが現れました。
母親の遺品を整理していたら、ある物が出てきたのです。それをグラハムに渡したくて急いでやってきたのでした。
それは男の子用の上着でした。まだしつけ糸も残っている新品です。大事にしまってあったその上着は、きっとグラハムのために母親が作ったのだと思い、セシルは持ってきたのでした。
グラハムの頭の中に、ベンジャミンとグレースの言葉が蘇ります。
「大丈夫、きっとみつかるよ。」
「今は見つからなくても、どこかに必ずあるはずよ。」
二人の言葉通り、なくしたものはある日思いがけなく見つかったのでした。
「ええ。これを捜していたんです。」
グラハムは大事そうに上着を受け取りました。
お気に入りphrases
グレースが母親の住所を見つけた時の台詞
「捜し物を見つけるコツはね、あると思って探すこと!」
ついでに見つからないままの捜し物は、
「今は見つからないけど、でもそれはどこかには必ずあるの。ただ自分の目の届く範囲にないだけ。」
ここでいう捜し物って、物理的には上着なのですが、実は母親のグラハムに対する愛情を象徴してるものですね。話の中で何度も繰り返されて使われるベンジャミンの言葉「上着を捜しに行こうよ、きっと見つかるよ」も同じように、母親から愛してもらっているかどうか自信のないグラハムへの励ましの言葉ともとれます。
ところでこのお話、セシルから上着を受け取るところで終わったわけではないのです。実はセシルの口から、ベンジャミンは1年前に事故死していたことが伝えられます。
「じゃああの電話は何!?」
とグレースはおののきますが、グラハムは誰かがベンジャミンの名前を使ったかものすごく偶然の間違い電話だったと言って引きません。
だって電話会社が電話代を払わない天国に電話線を引くわけがない!
「こんな面白味のない奴のところにばっかり心霊現象が〜!」
とグレースは悔しがります^^;
何にしても今回ばかりはグレースのおかげ。というわけで素直にお礼を言うグラハムに、グレースはちょっと照れながらも得意げです。
関係ないけどグラハムって5歳の時に両親が離婚して、20年以上会ってないってことは26〜28歳位かな。てことは、戸籍上の母、グレースよりやっぱり年上。約5歳くらい上でしょうね。
なかなかいい年の差なんじゃないでしょうか。
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