遠藤淑子『退引町お騒がせ界隈1』


『退引町お騒がせ界隈』とは、退引町に住む住人達の日常のどたばた劇を描いたもの。もともとは読みきりで書かれた数編の短編が好評だったので、改めて退引シリーズとして連載されたものです。登場人物のほとんどは『退引町1丁目15番地』で出てきていますが、主な人々として、
  • 中西一家(28歳父&27歳母&10歳一太、ホームランハイツ在住)
  • 森先生(売れない小説家)
  • 勇翔高校女子バレー部(いつも定員ぎりぎり。試合にも勝てない)
  • 若様(昔は名門だったため、未だに一定の年齢以上の町民から尊敬を集めている。現在は陶器で生計を立てています)
  • なぎさちゃん(美人のニューハーフ。よく女と間違えた下着ドロに下着を盗まれる。ホームランハイツ在住)
  • カンゾー(勇翔高校女子バレー部の一員、松浦の飼い犬。遠藤先生が実際に飼っていた犬がモデルになっている模様)です。

    『第1話』

    あらすじ

    とりあえず登場人物紹介的な回でした。
    星ゆかりは帰国子女。両親の仕事がカメラマンとデザイナーと言うこともあり、今まで目立って目立って仕方ない!という人生を送ってきた。だから少しは地味な生活を送りたいと、地味なホームランハイツへ引っ越してくる。ケニア帰りでシマウマ(チャッピー)を連れたまま・・・。
    だが、地味な生活1日目になるはずだった初日にホームランハイツに強盗が入り、星ゆかりは人質にされる。
    ところが犯人は、車と現金を用意させ、さあ、逃走するぞ!と廊下へ出た途端、親子喧嘩の真っ最中だった中一家のとばっちりを受けまくり。万年スランプで気晴らしに猫のぬいぐるみを着た森先生に絡まれたり、なぎさちゃんに下着ドロボーと間違えられて投げ飛ばされたり。散々な目に合った挙句、大家さんにも張り倒されて、結局捕まってしまう。
    その間まったく出る幕がなかった星ゆかり。目立たなければ目立たないでなんだか悔しい。
    というわけで、この町できっと目立って見せると近いも新たな星てかりであった。

    ひとことコメント
    退引町では作者にすら名前を覚えてもらえない星アルカリ・・・

    『第2話』

    あらすじ

    勇翔高校女子バレー部は今日も部員を勧誘中。そしてやっぱり逃げられる。
    せめてかっこいいコーチがいればなぁと呟く部員だったが、キャプテンはお怒り。だってバレー部にはとっても立派な看板コーチ(ただのおまわりさんの看板。キャプテンの宝物)がいるのだから。
    看板コーチに見守ってもらいながら練習していると、そこへカンゾー(犬)に追いかけられたチャッピー(シマウマ)が暴走してきて看板コーチをまっぷたつに割ってしまう。
    怒りに震えるキャプテンは、チャッピーの飼主星ゆかりの謝り方が気に入らない。話はこじれて1週間後に試合をすることにんった。
    星ゆかりに勝つため猛練習を開始したキャプテンは誰も止められない。だが、一つの疑問が。
    及川「あの星さんて子、バレー部なの?」
    そう、一体何の試合をするのか決めていなかったのだ。慌てて星ゆかりの白泉学園へ行くと、星ゆかりはテニス部だった。けれど、試合はバレーで構わないと言われる。
    だって弱いチームだし、テニス部から人を集めて試合をすればちょうど良いわよね、と言ったなめた発言をされてキャプテンの怒り再燃。さらに練習は過酷になり、ほかの部員はもうヘロヘロ。
    思わず部室でキャプテンに対する愚痴をこぼしてしまうが、偶然にもキャプテンはそれを聞いてしまった。
    仲良し6人にきまず〜い空気。落ちこんだキャプテンは、あさってが試合にも関わらず、明日は練習お休みね、と言って一人で帰ってしまう。
    次の日、休みにしたことだし誰も来てないだろうな、とがっくりしながら部室に入ったキャプテンはびっくり。部室中には看板コーチがあふれかえっていた。部員なりの仲直りの仕方にうれし泣きのキャプテン。
    が、翌日、キャプテンは星ゆかりに試合の辞退を申し入れる。納得いかないと詰め寄る星ゆかりに、キャプテンは不祥事が起きたからだと説明する。
    その頃、派出所では部員達がおまわりさんの立て看板を山ほど盗んだことでがみがみ叱られていた・・・。

    ひとことコメント
    2回目にしてすでに脇役と化した星丸刈り・・・多分名前のネタがもうなくなったのでしょう。(私もない・・・)

    『第3話』

    あらすじ
    勇翔高校女子バレー部員松浦の家庭はとっても複雑。何故なら兄が双子で父も双子、母に至っては三つ子の上に従姉妹が双子なので合わせて五つ同じ顔。一人で生まれてきた松浦は肩身が狭いのだ。心の拠り所、飼い犬のカンゾーまで八つ子だったと聞いた松浦は、家庭の中でとっても孤独。
    そんなある日、練習に遅れてきた及川が、さっき松浦にそっくりな人を見かけたと言い出す。
    そっくりさんを見つければ、少しは家族からの風当たりも弱くなるかも!と考えたバレー部員一同はそっくりさんを捕獲しようと盛り上がるが、一体どこに住んでいるかも分からない。途方に暮れた一同だたが、及川が再びそっくりさんを見かけたと言う。ついでに双子欲しさのあまり幽体離脱してるんじゃない?と言われ、だったら幽体離脱の技を磨こう!と盛り上がるバレー部員達。
    それはともかく本当にそっくりさんは見つからない。気分転換に遊園地へ行ってみると、なんとそこにそっくりさんが!だが、うっかり取り逃がしてしまう。
    ああもうだめ・・・あたしは高木ぷ〜♪と落ちこむ松浦。がっくりしたまま登校すると、やってきたのは転校生。なんと松浦のそっくりさんだった。
    思わずクラスメート全員の前で転校生にしがみつき、「お姉さんになってください!」と叫んでしまった松浦。放課後までにはしっかり校内中にレズだと言う噂が・・・。
    こうして家庭外でも心のよりどころを失ってしまった松浦だった・・・。

    ひとことコメント
    ・・・特にございません・・・

    『第4話』

    あらすじ
    いつもシマウマチャッピーをいじめて遊んでいるカンゾー。道ゆく子供達にもかわいがられ、幸せに暮らしています。
    ところが毎年行われる予防注射。この時期がくると途端に食欲もなくなりしょんぼりしてしまいます。そしてとうとう注射の日。必死の抵抗も空しく無情にも注射を去れてしまいます。
    いつまでも痛かったよ〜と小屋にこもって泣きつづけるカンゾーですが、松浦家の食卓では、その日の注射の席でカンゾーがいかに意気地なしだったかが話題となっています。みんなの笑い者になったカンゾーは「ぼくはこの家の本当の子じゃないんだ!」とショックで家出。歩き回っているうちにまったく知らない町へやってきました。
    すると、それまで町内でかわいがられていたのとは打って変わって、女子高生には逃げられる、子供に近づけば泣かれる、噛んだと勘違いされて石を投げられる、と散々な目に遭います。
    人は冷たいしお腹は空いたし・・・というわけでご飯を食べてから家出をやり直そう!と考えたカンゾーはおうちへ帰って来ました。
    おうちでは家の人が心配して待っていてくれました。しかも夕食には肉が!最近食欲のないカンゾーを心配して、外で夕食を済ませると連絡してきたお父さんの分の肉をカンゾーにくれたのです。
    嬉しくて仕方のないカンゾー。やっぱりみんな大好きだよー!と幸せに眠りにつきます。
    一方、急に夕食会が中止になったお父さん。お腹をすかせて帰ってきたのに、自分の分はありません。
    「お父さんはこの家の本当のお父さんじゃないんだー!」と、今度はお父さんがショックで家出。以来松浦家では、何かあるたびに「本当の妻じゃないんだー!」「本当の双子じゃないんだー!」というひねくれ方が大流行しましたとさ。

    ひとことコメント
    とにかくカンゾーがかわいい。犬が主人公なのにあまり違和感がなくて、本当にこういうことを考えてそう、と思えるところがおかしいし。

    『第5話』

    あらすじ
    ホームランハイツに住む刑事の間柴さん家賃を溜め込んでいて毎朝大家のばーさんに叱られています。今月中に1ヶ月分でも払わないと出て行ってもらう!と言われましたが、お金を借りる当てはなし、出て行くとしても引っ越す金もなし、ないないづくしで困っています。
    で、思いついたことは・・・大家のばーさんの弱みを見つけてそれをネタにゆすってやる!
    ・・・とても刑事とは思えないことを思いついてしまいました・・・。
    さっそく聞きこみを開始しますが、敵は尻尾をつかませません。町の人は誰も大家さんの若い頃のことを知らないのです。
    ただ一つ気になったのは、大家さんが毎日2時から4時まで姿を消すことでした。調べた結果、大家さんはホームランハイツの旧館へ通っているとのこと。老朽化して今はただの物置になっているのですが、昔若い娘が行方不明になったという噂もあり、なんだか怪しげ。
    夜中に旧館に忍び込んだ間柴さんの目の前に、若い女たちの姿が浮かび上がって・・・
    間柴さんの頭の中に色んな思いが駆け巡りました。若い女が行方不明、若い頃のことを誰にも知られていない大家さん・・・きっと大家さんに生き血を吸われた若い女たちの亡霊だー!と間柴さんは悲鳴をあげてしまいます。
    何事かと旧館に集まったホームランハイツの住人達。そこで目にしたのは、とってもきれいな数々の女の人の絵。
    実は大家さんは昔有名な画家のモデルをやっていたのです。有名な人の絵もあって、売れ売れとうるさく言われるので面倒になって隠していたのでした。
    結局大家さんは妖怪ではなくただの恐いおばあさんだと判明しましたが、なぎさちゃんと中西母はもっと恐いことを発見していました。
    なぎさ「この絵の女の人が年を取るとあのバァさんになるって事の方が何より恐いと思う」
    中西母「じ、時間って残酷ね」

    ちょっと長めのコメント
    間柴さんと言えば、『シンシアリー』(『山あらしのジレンマ』収録の短編)ではそこそこかっこいい役でした。だからちょっぴりショックかも。
    イギリスの大富豪のお嬢様がペンフレンドのはずなので、彼女にお金を借りてはいかがでしょう?

    『第6話』

    あらすじ
    中西父はとっても童顔。28歳なのに道を歩いていると高校生に間違えられるくらいです。一緒に歩いていると兄弟に間違えられて複雑な気持ちの一太。お母さんが若いのは嬉しいけど、お父さんににはもう少し落ちつきが欲しいなぁなんて考えています。
    そこへ現れたのは中西父の同級生の深見。深見は現在付き合っている女性に結婚を迫られていて、別れたいので一太を貸してくれないかと中西父に頼みます。子持ちだといえば彼女の方から別れてくれると思ったのです。
    別れたいならはっきりそう言えばいいのに、という中西父に、深見は面と向かって言えば相手を傷つける、と返します。
    しかし何と言われても一太はレンタルビデオじゃありません。それに子供を嘘に加担させるなんて賛成できない中西父は、深見の頼みを断りました。
    でも、一太は実は深見に心引かれていたのです。だって年相応に見えるし背広だって似合っていてかっこいい。深見みたいな人がお父さんだったらなーなんて思っています。
    数日後、学校帰りに偶然深見に会った一太は、中西父に内緒で子供役を引き受けます。
    日曜日に深見と公園で待ち合わせた一太はサッカーをすると嘘をついて出かけます。けれど、いざ相手の女性に会い、深見に子供がいると知って泣き出す様子を見ていると、だんだん嫌な気分になってきました。
    父ちゃんの言う通り、嘘をつくのは嫌な気分だし、相手を傷つけたくないと言ったくせに、深見は女性を泣かせているし・・・本当は深見は自分が悪者になりたくないだけでなんだ!と思った一太は、思わず女性に「こんな自分さえよけりゃいいって思ってる奴とは別れた方がいい!」と言ってしまいます。
    むっとした深見は一太に手を挙げようとしますが、そこへ現れた中西父に逆に殴られてしまいます。
    中西父は、サッカーへ行くと言ったはずなのにボールを忘れた一太にボールを届けに来たのでした。
    深見に加担していたことがばれて怒られる!と歯を食いしばる一太。でも中西父はボールを渡してくれただけで何も言いません。そんな父ちゃんをやっぱりかっこいい、と改めて思う一太でした。

    お気に入りphrases

    深見 「(殴られて)ひどいよ、痛いじゃないか」
    中西父「そりゃそうだ。俺だって痛い」

    その前に一太は、深見の交際相手が泣いているのを見て、人を泣かせたら自分も悲しいということに思い当たります。だから深見と中西父のやりとりは、人を傷つけたら自分も傷つくんだ、ということを現しています。自分が感じていたことをさらりと言ってのける父親の姿に一太はやっぱり父ちゃんはかっこいいなぁと見直すわけです。
    ところでつい最近まで私は一太を守るために深見を殴ったんだと思っていました。中西父の「御意見無用の親の愛」という発言もあったので、それって一太への愛だと思ってたわけです。
    が、『マダムとミスター』にも似たような場面が出てきます。グラハム(=ミスター)が大学時代の親友を殴るシーンですが、間違ったことをしている親友に容赦なく「甘えるな!」って怒鳴ってます。この親友はグラハムの気を引きたくて、それこそ親の気を引こうとする子供のように色々と悪いことをやってしまい、ちゃんと怒ってくれたグラハムに安心するのです。
    そう考えると、中西父も一太のためではなく深見のために殴ったってことでしょうか?一応その後相手の女性にも深見とは別れた方がいいよーと助言しているし。でも、グラハムの親友と違って、その後深見が変わらない中西父に安心したかどうかは定かではない・・・

    『第7話』

    あらすじ
    ある日、ホームランハイツに住む美人ニューハーフなぎさちゃんの元に1通の速達が届きました。なぜ速達の必要があるのか分かりませんが、とにかくお父さんが訪ねてくるとのことでした。
    当然お父さんは息子がニューハーフだなんて知りません。しかもとても厳しくて、「男らしく」をモットーに生きている人だから、もしゲイバーに勤めてるなんてわかったら田舎へ連れて帰られて一生座敷牢で過ごさなければなりません^^;
    お父さんが来るのは1日だけなんだから、その日だけ男に戻ればいいじゃない、ってことで、なぎさちゃんは男らしさを取り戻すために一太に中西父の職場へ連れて行かれます。
    中西父の仕事は建築士。当然職場は建築現場。ところが紫外線は気にするわ、人力車すら動かせないわ、結局日射病で倒れてしまうわでちっとも役に立たないなぎさちゃん。それでもめげずに頑張りますが、相変わらず日射病で倒れる日々。
    倒れたついでに、なぎさちゃんは一太にお父さんの思い出を話してくれました。
    厳しいお父さんに剣道やら柔道やらやらされて、体の弱いなぎさちゃんは倒れてばっかり。でも起きて見ると枕元に普段は食べさせてくれないアイスクリームを置いていったりしてくれます。なぎさちゃんは、お父さんのことは恐いけれど、決して嫌いではないのです。だから本当は、座敷牢が恐いからニューハーフのことを黙っているのではなく、お父さんをがっかりさせたくないんだと語るなぎさちゃん。
    一太はその話を聞きながら、そんななぎさちゃんの気持ちだけで充分じゃないかと思います。
    さて、とうとう明日はお父さんが来る日です。でもなぎさちゃんは百歩譲って宝塚の男役。ちっとも男らしくない上に「おれ」と言うことが出来ません。
    困り果てたなぎさちゃんに、久々登場の星ゆかりが男女入れ替わりパーティだということにすれば?と提案します。アメリカではやってたことだし、ホームランハイツみんなが一丸となれば誤魔化せるんじゃない?というわけです。
    そりゃあいいね!と盛り上がる女性陣と緊張感漂う男性陣。
    翌日、学校帰りに一太はガーツフレンドのみなみちゃんにスカート貸してくれ、と言って変態呼ばわりされてしまいます。
    それをじーっと見つける一人の紳士・・・彼は道をお掃除中の売れない作家森先生にホームランハイツの場所を尋ねています。
    そのホームランハイツでは、怪しすぎる間柴さん、諦めた表情の中西父、みなみちゃんにどつかれて傷だらけの一太の不気味な女装軍団に囲まれて、余計に女らしく見えるなぎさちゃんがいました。これじゃあだめだろう!とがやがややっていると、さっきの紳士が尋ねてきました。
    見るからに厳格そのもののおとうさん。もうなぎさちゃんの座敷牢入りは決定?というところで第8話へ

    『第8話』

    あらすじ
    厳格で常識そのもののなぎさちゃんのお父さんに対峙する不気味な女装の非常識軍団。ところがお父さんはなぎさちゃんに気付かず、その場にいた大家さんに「息子の部屋で待つので鍵を開けてください」と頼みます。
    しかし、なぎさちゃんの花柄満載の乙女チックな部屋にお父さんを入れるわけにはいきません。とっさにボケたふりをして誤魔化す大家さん。気付いてないならいっそこのまま誤魔化してしまえ!というわけで、きっとなぎさちゃんはお父さんを駅へ迎えに行ったはずだから、そのなぎさちゃんを途中まで迎えに行きましょうとお父さんをホームランハイツから引き離します。
    が、案内役を買って出た一太は駅へ向かわずにお父さんを連れまわしてあっちこっちをうろうろ。その間になぎさちゃんは中西母と一緒に旧館に隠れます。
    当然女装姿のまま町を案内しているので、みんなに笑われる一太。1度帰って着替えたら?とお父さんに言われますが、女装でみんなを楽しませるのがすきだからいいんだ、と苦しい言い訳をしてさらに連れまわそうとします。
    その道すがら、お父さんはなぎさちゃんの子供時代の話を始めました。未熟児で生まれて大きくなっても病気がちの息子。体力をつけさせようと武道を習わせてもすぐに挫折してしまいます。きっと怠けてるんだとどんどん厳しくしてしまったけれど、今降りかえると息子の自由を削り取っていただけかもしれない・・・でも女々しい奴は許せ〜ん!と語ります。
    そうこうしているうちにどんどん時間が過ぎて、もうすぐ帰りの電車が出る時間。あと少しだというところで妊娠中の中西母の様子が急変します。陣痛かもしれないと心配するなぎさちゃんに、中西母はあと30分でお父さんを誤魔化せるんだから大丈夫だと言い張ります。
    でも、自分のことより中西母の様子が心配ななひさちゃんは人を呼びに旧館を出ます。
    と、出会い頭に戻ってきたお父さんとばったり。が、凍り付いている場合ではありません。なぎさちゃんはお父さんにタクシーを捕まえて下さい!と叫び、中西父を呼びに行きます。とっさのことでばたばたと入院の準備をしているうちに時間は過ぎ、とうとうお父さんは帰る時間になってしまいました。一応最後まで誤魔化しとおせたなぎさちゃん。一太にお父さんとどんな話をしたの?と尋ねると「難しくて分からなかった」というお返事。難しいことを言ってるんならまだまだ元気だな、と安心するなぎさちゃんでした。
    一方、駅へ向かう途中のお父さん。帰りも森先生に会います。ホームランハイツにどなたかお知り合いがいたんですか?と尋ねる森先生に「息子がいるんです」と答えるお父さんは、こう続けます。
    「元気にしていて安心しました」

    ちょっと長めのコメント
    第6話では深見のお願いを断っておきながら今回は加担した中西父。深見となぎさちゃんの人間性の違いと言うのもありますが、恐らくなぎさちゃんの場合は嘘ではなくニューハーフであることを黙ってただけーということでしょうか。
    ところでお父さんはいつからなぎさちゃんに気付いていたのか。
    多分来る前から?
    そう思うと速達でお手紙が来たのも納得できますね。息子がニューハーフだって知って慌てて手紙を送って訪ねてきた。で、当然一目でなぎさちゃんのことは分かったけど、向こうから言い出すのを待って、気付かないふりをしていたのかな?お父さんは一太に「厳しくしすぎて息子をみすぼらしい人間にしたと最近思う」と語っているので、ニューハーフ=お父さんにとってはみずぼらしいことと思えば説明できます。でも、アパートに帰ってみると意外にしっかりと妊娠中の中西母を気遣っているのをみて、何も言わずに帰ったような気がします。
    そういえばこれも似たようなお話ありましたね。前述の間柴さん主人公の『シンシアリー』
    イギリスから初恋の人を探しに来たステフは、間柴さんを一目見てその人だ!と分かったのにずっと気付かないふりをしていました。間柴さんも自分がステフの相手だと気付きましたが、自分みたいな奴が初恋の相手だと知ったらきっとがっかりする、と考えて最後まで黙っています。「分かっていても知らないふりをするのが通」らしいので、このお父さんもかなりの通ってことですね。

    『第9話』

    あらすじ
    7月7日、一太に妹が生まれました。名前は南奈。どうも中西父は象の赤ちゃんの名前を盗んだ模様。でも、中西母命名の中西らっこ(子がついてるから女らしいそうだ)や一太命名の中西マラドーナ(ながついているのでやっぱり女らしい)などのなみいるライバルを押しのけて見事当選を果たしたのです。
    お母さんはまだ入院中。赤ちゃんが生まれたので親戚の人がたくさんお祝いに駆けつけます。当然赤ちゃん用のものを持ってきてくれるのですが、必ずといっていいほど一太にも何かを持ってきてくれます。
    くれるものはもらっておく主義の一太ですが、親戚のおばさんが中西母に対してしきりに「上の子が幼児返りをしたら大変だから気をつけてね」と言ってるのには閉口気味。しかもこのおばちゃん、おせっかいにもキャンプのパンフレットを持ってきました。お兄ちゃんになるんだから自立する訓練をしなきゃいけない、というのです。嫌だと言えば「ほら、幼児返りよ!」と言われるので、仕方なく一太はキャンプへ行くことを承諾してしまいました。
    大きなお世話だよ、と思いながらお昼に食べるそうめんのつゆを作っていると、訪問販売の人が次々にやってきて、相手をしているうちにコンロをつけたままにしていたことを忘れてしまいました。
    いきなりガス警報器が鳴って焦る一太。火を消しても窓を開けても鳴り止みません。一太が途方に暮れているとお昼ご飯を食べに中西父が帰ってきて危機一髪。大したことはないと判明します。
    赤ちゃんがいるからしっかりしなきゃいけないと思ったのにできなくてしょんぼりする一太は食事も手につきません。そんな一太に、中西父は「お前キャンプに行きたいのか?」と尋ねました。「本当は行きたくないけど、行かなきゃ赤ちゃんにやきもちやいてると言われる・・・」と答える一太に、更に中西パパ「そういうのは大人になってやったらみっともないから今のうちにやっておけばいい」と話します。
    そっかーと胸のつかえが取れた一太。やっと赤ちゃんを迎え入れる本当の心の準備ができたようです。

    ひとことコメント
    中西パパ、相変わらずおいしいところを持って行きます。それにしてもこういうおせっかいなおばちゃん、私も嫌いだー。理由は哲学もどき(その2)をご覧下さい。

    『第10話』

    あらすじ
    夏といえば怪談。というわけで一太たちは若様のお屋敷で肝試しをしようと計画します。若様のお屋敷はものすごく古い。しかも落ちぶれていて今は手入れをしていないので肝試しには最適です。
    しかも最近退引町では若様のお屋敷周辺で幽霊が出ると噂されていて、現にそれを見たらしいシマウマのチャッピーはショックで白馬になってしまいました。きっと若様のご先祖がおちぶれたことを恨んで出てくるのだともっぱらの評判です。
    いよいよ肝試しの日、若様のお屋敷1周をしなければなりません。一番手の一太と川上君がびくびくしながら歩いていると、いきなり目の前に白い影が現れました。驚いて逃げ出す一太は、噂の幽霊の正体を確かめようと見回りに出ていた若様と出会います。もし先祖だったら申し訳ないから自分の力で除霊する、と話す若様と一太の前に現れた白い影。若様が「(供養するから)私にできることがあれば何でも言ってください!」と叫ぶと、その白い影は若様に「じゃあ弟子にしてください!」と・・・。
    なんのことはない、若様が作った陶芸品に魅せられて弟子入りを希望していた男性でした。何度訪ねても断られるばかりなので、諦めきれなくてお屋敷の周りをうろうろしていたのです。
    ここまで騒ぎになっても相変わらず弟子入り希望の男は断られてばっかり。しつこく若様に付きまといます。
    その様子を見ながら、いっそ幽霊を成仏させる方が簡単だった、と思う一太でした。

    ひとことコメント
    若様なら、あっさり弟子入りをOKして、「ところで弟子ってなんですか?」とにっこり聞くのが似合っているような。ぼ〜っとした人だし^^;

    『第11話』

    あらすじ
    森先生は小説家。でも小説を書いているところを見た者は誰もいません。
    が、そんな森先生が芥川賞の候補の候補になり、町内の評判に。編集者にも期待され、プレッシャーを感じた森先生はいつにも増してネタが思い浮かばないのでした。何も書けないまま机に向かっていると、庭に人の気配。何だか見られている気がする、もしや誰かに監視されている?と気になる森先生。芥川賞の候補の候補になったことでねたまれてるんじゃあないかと疑心は募る一方です。
    しかも森先生を突然腹痛が襲う!毒を入れられたのか!と疑いますが、実はただの食あたり。滅多にない期待をかけられて変な力み方をしてたんだなーと森先生反省。結局いつも通りに肩の力を抜いて小説を書くしかないなーと布団の中で思いました。
    さて、森先生が気にしていた人の気配とはなんだったのか?
    夏休みの宿題で小説家の観察日記をつけていた一太の仕業でした。

    ひとことコメント
    恐らく遠藤先生の体験談・・・?大事なときほどいつもの自分でいた方がいい!ってことでしょうね。



    以上で1巻は終了〜




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