日本全国おでん屋紀行(4) 常夜燈(曽根崎)  

 大阪のキタでもっとも有名なおでん屋といえば「常夜燈」だろう。 5年ほど前までは、曽根崎心中で知られるお初天神の境内でひっそりと営業していたのだが、事情あって近くの近代的な飲食ビルに移ってしまった。
 昨年久しぶりに、新しいビルに移って初めて行ってみた。エレベーターで2階まで上がり、小料理屋風の暖簾をくぐる。どうもピンと来ない。おでん屋は、引き戸を少し開けて中の空席状況を見て入るところがよいのだ。中へ入ると店内は広々としていて、白木の美しいカウンターと椅子席、さらに奥座敷まであり、かつてのおでん鍋を囲み客同士が肩を寄せ合う状況とはまるで違う。客層も若者が多く、彼らのほとんどは、お初天神時代の「常夜燈」は知らないに違いない。 若者で賑わう店内の活気とは裏腹に、私は物悲しさを感じながらカウンター席についた。
 
 店の雰囲気は180度変わったが、おでんの味は相変わらず旨い。白濁した煮汁は、だしがきいていてよい味だ。下処理の施されたダイコン、ロールキャベツ、玉子などとてもおいしい。日本酒は、灘の御影郷の「泉正宗」を飲ませてくれる。新しい店になってからは、若者たちの嗜好に合わせ、泉正宗で特別に造ってもらっている吟醸酒「常夜燈」 300mlも置いている。ほのかな吟醸香とすっきりした味わいの酒で、おでんとの相性もよい。 ここのおでんを、かつて俳優の森繁久弥氏は、関東炊きに対抗する「関西炊き」と命名し、今でもここではおでんと言わず関西炊きと呼ぶらしい。
 
 個人的な見解だが、おでん屋としておでんがおいしいのは最低条件で、それとともにおでん屋らしいホッとする店の雰囲気を持っていることがもっとも大切である。その点で今の「常夜燈」へはそれほど足繁く通いたいとは思わない。おいしいおでんを食べたいという若者、とくに女性にはお薦めの店である。

常夜燈(大阪市北区曽根崎2−5−30 ボンヌーボービル2階  06-6361-7277 日曜休み)

酒蔵奉行所通信第4号(平成6年1月1日発行)掲載文を修正

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